長男の出家
新装版読みました。
他の短編が無くなっていて、「長男の出家」本編と、その後の話二編のみなので、結局前のも置いておかなければならないようです^^;
その後の話は息子だけでなく、父親も住職も含めた全体的なその後の話。(妹は数行しか登場せず、ちょっと知りたかった、兄の出家をどう受け止めたかはわからないままでした)
予想とは大幅にずれていましたが、読んでみて良かったと思います。
これは若干登場人物を変更してあるとはいえ、小説の体裁をとったノンフィクションです。父親である「木村」は、著者である三浦清宏氏であります。
彼はどうやら、この小説が世に出て、話題になってしまったことで、和尚のお怒りを買い、破門、というか勘当されてしまったようです。息子──良海を道元禅師のようにしたい和尚にとって、それは修行の妨げになるものでしかなかったのですね。他の門徒に息子の話を聞こうとしても、勘当されている父親に、誰も何も話してくれない。結局、十数年というもの、息子の消息は全く不明のままだったようです。のちにはちゃんと再会もしますが。
この良海が、押し付けがましい和尚のやり方に反発して(まあ、気持ちはわからないでもない感じの尼僧なので。ただ、ほんとに命をかけてこの子を道元禅師のような立派な僧に、という気概は感じるので、なりふり構わず必死だったのでしょう。この子が可愛くてならないという尼僧の気持ちはすごくわかるのです)寺出したり、そのあとしばらく家に戻ってハローワークで探した仕事に従事したり、東北の禅寺に修行に出たり、事故にあって修行を中断したりと紆余曲折の人生を歩んで行く過程で、父親の中で修行僧としての息子に抱いていた理想像が崩れ去り、息子もただの青年でしかないのだという気持ちの変化が起こります。それは幻滅、という意味ではなく、憑き物が落ちたような、と表現されるものです。ちょっとは苦い気持ちもあったようだけど。
和尚のお寺は彼女が住み着いた当時のような荒れ寺ではすでになく、かなり立派なお寺になっていて、和尚はそこを良海に継がせる気でいました。でもそこは、開山以来代々尼僧が住職を務め、男僧が住持すると寺が衰えるという言い伝えのある寺だし、おまけに事故で入院中に将来を誓う女性が出来てしまったり(修行の妨げになるので、和尚は良海が結婚することには反対だった)檀家の一部から良海に継がせないようにしようなどという話が起こったり、あれこれ問題はあるんですが、結局還俗一歩手前までいきながら、良海は踏みとどまったままお寺を継いだようです。
どのような住職になったのか、ちょこっとだけ書かれていました。和尚や父親が望んだような僧にはなれなかったものの、この良海さん、結局のところ、私はかなり良いお坊さんになったのではないかと思います。亡き尼僧のように、子どもの座禅会などしておられるようで、もしかしたらこの中から将来「お坊さんになりたい!」と言い出す子が現れたりして……とニヤッとしてしまう。結婚してお子さんもおられますが、必ずしもその子たちが父親の後を継ぎたいと言い出すかはわかりませんし。
とにかく、私は大満足致しました。