breaking bad(少々ネタバレ)
すごく面白かったので、オススメです。なのでなるべくネタバレは少なめで行こうとは思いますが、それでもなんとなくキャラの行く末など悟らせちゃう気がするので、ネタバレ断固拒否!の方はご覧になりませんように。
アメリカでしか成り立たないドラマではないかと思うので、現実感はあまり感じないと思います。
化学教師のウォルターは、予定外の妊娠中の妻と、脳性麻痺で少々の言語、歩行障害を持つ十五才の息子との三人暮らし。かつてはノーベル賞の取得にも関わり、今では莫大な利益を生み出す会社の設立にも関わっていたけど、プライドの高さが災いし、飛び出してからはかつかつの暮らしです。でもかなり年下の妻スカイリーはオークションでのささやかなお金稼ぎを楽しそうにやってるし、息子ジュニアは素直で父親を一心に慕っているし、これを幸せな家庭でないとは誰も言えないでしょう。
そんな家庭に綻びが生じたのは、ウォルターが末期ガンの宣告を受けてから。
アメリカにはいわゆる国民健康保険に該当するものがなく、日本のガン、入院、生命……といった各種保険のように、任意で加入するものしかありません。それでも保険で賄える範囲は非常に狭く、治療やリハビリに九万ドルだの二十万ドルだのという請求が来ちゃうわけです。アメリカでは、医療費が破産の原因になることなど当たり前。中産階級でも家族が大病すれば、あっという間に破産です。
……というわけで、ウォルターは最愛の家族にガンのことを打ち明けられません。ましてや治療のことなど考えられるわけもない。
そんなとき、麻薬捜査官の義弟(妻の妹の夫)から、捜査に同行してみないかと誘われるんです。いや私は……と多分興味もないウォルターは最初は断るんだけど、たまには冒険しろよガハハ的に押しきられ、メタンフェタミン(通称メス。日本ではスピードとかヒロポンとか)製造現場での現行犯逮捕に同行することに。そのとき、隣家から元教え子のジェシーが逃げ出すのを目撃します。
製造現場は雑然として汚なくて、しかも純度は低い。化学者の自分ならもっと純度の高いメスを作ることが出来る。
というわけで、自分の死後残される家族が生活に困らないだけのお金を作るのに、麻薬製造という手段を取ることにしたわけです。販売はどうするのって? そこは見逃してやったジェシーの出番。
……というお話になります。
海外のドラマは人気で伸ばしていって、視聴率が落ちたらすぐ打ちきりで、エタってる作品も多いんだけど(それか強引にまとめに入ったり)これはシーズン5の最終話までにきっちり計画的にまとめられています。アメリカ的には破綻もない。
ただ日本人の目から見るとなー😅
ガサ入れするのに一般の民間人をノリで連れていく、と言うのがすでにあり得ないし、義弟のハンクも高校の備品が無くなった時点で、持ち出せる数人の人間の中に化学に詳しいウォルターがいるって気づかないのが不思議。Gメンなら身内だろうと即疑ったと思うし、例えその時は気付かなかったとしても末期ガンが明らかになった時点であれ? と思うと思うんだけど。でも観てて不自然になるほどハンクは義兄を疑わないのです。ウォルターは行き当たりばったりな行動が多いし、日本の警察なら(麻薬捜査官はアメリカでは警察の所属)もっと早い段階で容疑者にあげてるような気がするのに。
なのでアメリカでは現実に起こりうるリアルなドラマでも、私には荒唐無稽なファンタジーと大差ないものに感じられました。
ただそれでもすごく面白いと思えます。個性的なキャラクターにはムダな配役はなく、話も最終回ありきでしっかりまとめられて、最終回を見たあとは思わず深いため息を付いてしまったほど。
このウォルター、ムダなプライドばかり高く、傲慢で自分と家族のことしか考えてない。呼吸をするように嘘をつく。私はこの手の男が好きではないんですが、あまりに演技が上手すぎて終いには奥二重の目とか弛んだ身体やブリーフまで忌々しくなるくらい。GOJIRAを観てなかったら役者さんまで嫌いになっちゃいそうなほどです。ジェシーを頼るのは仕方ないとしても、その扱いは納得がいくものではないし。「聖職の碑」を読ませてやりたい。
このドラマでは、主人公サイドに好きになれる人物はいませんでした。(魅力がない、というわけではありません)赤んぼのホリーくらいかな……? ジュニアが素直で可愛いと人気があるようだけど、発言枕?とか言うのを持っての家族会議のあたりからすでに好きではなかった。開始時十五、って年齢を思えば人の身になってものを考えられなくても仕方ないのかなあ……。ジェシーはちょっと道を踏み外してるだけで、心根は優しく、友達思いで、精神的には決して強くない、ウォルターとは対極をなすキャラクターで、ここだけ見れば好きになれるキャラなんですが、あまりに直情的で考えなしで、彼のせいで多々災いを呼び寄せてしまうところが時折イラっと来る。ハンクは典型的なアメリカのマッチョ、って感じなのですが、実は非常に繊細な性質を隠すための見せかけの部分が多々あるところに魅力があったと思います。妻のスカイリーの行動は、おおむねなんかわかる……って感じなのですが、何処へ行ってた何をしてた家族に秘密を持つなとしつこいのがうざかった。自分の欲しい意見ではないと切れるのなら会議の必要ないじゃん、ほんとウザーと。
ガスやマイク、ガスが連れてきた科学者のゲイルなどは好きだったなあ。それぞれ性格も生き方も違うんですが、なんとも魅力的でした。特にマイクは💕 あとジェシーの友人の三バカとかは全員バカを通り越して可愛かった。
例えば人を殺したいとか、何か盗みたいとか、そういう願望や気の迷いを思うだけで実際に起こさないのは、子どもの頃から叩き込まれた倫理観のほか、家族に迷惑をかけたくないという思いが大きなストッパーになっていると思います。世間様には、犯罪者の身内も犯罪者に見えるのが現実、自分が捕まったら親や夫は仕事を馘になるだろう、ならなくても自主退社に追い込まれるに決まってる、兄弟や子供も学校で虐められる。友達の親はあの子と遊ぶなって言うだろう……子や孫も結婚していれば離婚されるかも知れない……罪を償って出てきてもまともな仕事には付けっこない……など、身内を大切に思えば思うほど、後ろに手が回るようなことは絶対に出来ないものです。
ウォルターを見るとそういうことを気にしている気配はあまりないので、家のありさまを見て全くの個人主義ということはないにせよ、アメリカは身内が自殺に追い込まれるほどではないのかも知れないと思います。それって良いことなのに、逆に犯罪に対するハードルを下げちゃうのでしょうか? 何度も手を引く機会はあったのに、五百万ドルで足を洗うこともできたのに、それをはした金と言い捨てて麻薬の製造を続けるのは、どっかに家族は無関係として扱って貰えるという世間への信用があったからなのか。ジュニアが学校でイジメにあってるような描写はなかったし。だから自分のプライドの方を優先させられるんでしょうか。
でもなあ……😓 やることなすことがひどく大雑把なのに、ぜーんぜん捜査が入らないんだもん、犯罪者も舐めるよ。証拠はなくとも、高校の備品が無くなった時点でウォルターに疑いの目が向けられていたら、その後の展開は違っていたと思います。
日本では「お前のためにやったんだ」「頼んでねーよ」ワンセットが古い様式ですので、今時お前のために云々と自分の選択を他者に擦り付ける発言をする人も少ないように思いますが、海外ドラマってこの手の台詞が非常に多く、また「頼んでねーよ」と返すキャラもいないことから、「あなたのために」はぐっとくる台詞扱いなのかなあ。私は聞くたびにモヤッとするんですけど。
なんだかまとまりのない感想になっちゃったけど、すごいグズグズ言ってるけど、稀に見る良作なのは確かです。観始めたら最期、きっとエンディングまで止められないはず。
……私、ウォルターは嫌いとか言ってますが、それでも最終話は彼に涙してしまったのです。