キスミー エンジェル
著者のスーザン・エリザベス・フィリップスはアメフトチームを中心にしたシリーズが多分有名なんだと思いますが、私にはあまり合わず忘れ果てていて、今回この「キスミー エンジェル」がすっごく面白かったので、この著者さんどんな他にどんな話を書いてるのかなとぐぐってみて「あっ、あの面白くもなかったアレのあの人か」とびっくりしました。
ヒロインは元売れっ子ファッションモデルの奔放な母にかなり特殊な育てられかたをした娘、デイジー。突然の母の事故死に打ちのめされ、病的な浪費癖に陥り、自分の資産も知らないまま小切手を切り続け、ついに逮捕されることに。助け手は実父(ロシア系アメリカ人)ですが、この借金を帳消しにするかわりにある男と六ヶ月間の結婚生活を送れという。
相手は実父と同じロシア系アメリカ人のアレックス。新郎の名前も憶えていない状態で結婚式に挑み、そのまま連れて行かれたのは、なんとサーカスの興行場。ヒーローは移動サーカスのマネージャーだったのです──
最初は軽薄な金持ちのわがまま娘だと思われていたヒロインですが、実際はかなり前向きな子で楽天家。ここがこれまでの生活においてはオツムの軽い落ち着きのない娘だと思われる由縁だったのでしょうが、逆境におかれるとこれは大変な強みになります。陥れられ、誰からも信じてもらえず、夫には冷たく当たられ、友人も出来ず、慣れない労働に肌も髪も荒れ放題で疲れ果てながらも、ヒロインはさぼったりもせず楽しようともせず真っ当に仕事にあたり、人よりも先に動物たちと心を通わせていきます。ほんとにくたくたなのに、問題点や改善すべき点なども厳しくチェックしていて、ただ漠然と仕事をしているのではないこともわかる。ものすごい生真面目で目端が利いて頑張りやの子なのですよ。読んでて、ヒロインの味方にならない読者はいないと思います。動物たちはそういうところをちゃんと見抜くんですね。
ペットがいる人にはおわかりだと思うんですが、動物ってほんと癒し効果ありますよね! ヒロインがこの逆境に負けず頑張れたのは絶対彼らのおかげで、ヒーローの存在じゃない。最初は動物たちにも嫌われていると思ってたヒロインですがどんどん世話にのめり込んでいくようすが、ほほえましくもありますが、すごくうらやましくもありました。
ヒーローはやはり幼い頃色々あった人間で、愛する、という感情がよくわからない。次第にヒロインに惹かれていっても認めようとせず、さんざんヒロインを苦しめます。終盤にそのせいでヒロインがとうとう壊れてしまい、それで初めてヒロインへの愛を認め、罪悪感を抱き、なんとか償いをして、ヒロインの愛をもう一度得ようと頑張るんだけど、遅いよと。ヒロインには可哀想なんだけど、私正直すっきりしました。ヒロインのこの姿を見て、もっと苦しむがいいよって。ぶっちゃけ虎のシンジュン、お前がヒーローでいいよって何度も思いました。シンジュン、いつ人型にシェイプシフトするのって(笑)
パラノーマルではないのでシンジュンは人型にはならず、なんだかんだいってもロマンス小説、最後はもちろんハッピーエンドです。天罰が下るがいい!と思い続けたヒーローですが、あの反省っぷりですし今度こそヒロインをちゃんと守るだろうと許してやることにしました。(超上から目線です)でも私はシンジュン×デイジーを押すけどね! 彼はヒーローよりヒーローっぽかった。
ちょっとひっかかった点は、ネタバレになりますが、ヒーローが二重生活を送っていた点です。ロマンス小説にはヒーローが貧しくてはいけない理由がなんかあるのですか? 最終的にはヒーローの財力が必要な局面があったわけですが、どうしてもヒーローに社会的地位の高い職業を用意しようという点には、なんか俗っぽさを感じてしまって(著者もですけど、読む人の俗物根性も考慮しているのかもしれないと感じる点が)、純粋にロマンスを楽しむための弊害になりました。別にサーカスのマネージャー一本で生きてる人でいいじゃんと思うんですが。
でも不満はそのくらいです。多分定期的に読み返したくなると思うので、買って手元に置いとこうと思います。シーンはこれまたゴールデンタイム放送の洋画劇場(R指定なし)のベッドシーン程度のものですので、ロマンス小説苦手な方にもおおいにおすすめします。