Skybound
my神のm/mレビューブログを見て以来、読みたいな〜と思っていました。
小説ディアプラスナツ号の内容が公開されたとき、「新作」とあったので、新作で読み切りに出来る長さの短編ということは、訳があの方である限りこれが来る可能性が高いな、と期待していました。予想的中で嬉しいです。
舞台は1945年、ドイツ。
連合軍に押されて敗北間近のベルリン近郊にある(と思われる)基地の、パイロットと整備兵のお話。結局最後まではいってないので、断言はしかねますが、おそらくパイロットであるバルドゥルが攻であろうと思われます。
いや、すごく面白かったです! 不満は、洋書と同じく左綴じ(つまり、背表紙側から読む)で、横書きであることと、私の好みじゃない挿絵。邦訳してあって日本の雑誌なんだから普通に縦書きにして欲しいです。多分、読者のうち何割かは、読みにくいという理由で手を付けないと思うな。一応感想は畳んでおきますね。
主人公の「僕」ことフェリックスは、エースの一人であるバルドゥルを密かに想っていて、彼が出撃するたび不安にもなるし、帰還すれば向かえる人々の端っこでひっそり安堵する。諦めている、というよりどこか達観していて、彼がもし振り向いてくれたら、恋人になってくれたら、などという想像もしない。彼が必死に機体の整備をするのは、完璧な機体で送り出すことで、少しでも生還の確率を上げようという祈りの気持ちの表れなのだと思います。
そんなフェリックスに、とっくに彼の気持ちに気付いていたバルドゥルのほうから近づいていって、フェリックスは驚いたりたじろいだりしながらも、もうこんな時間二度とないかも知れない、と素直に気持ちを告白し、キスを交わすんですが、これがゆったりとした心の交流、と言う感じで。官能的という感じではなく、じんとくる素敵なシーンでした。
せつないのは、フェリックスもバルドゥルも、バルドゥルが生きて終戦を迎えることはない、と「知っている」こと。フェリックスの気持ちに気付いていながら口を交わすこともなかったバルドゥルが、突然距離を縮めてきたのは、多分自分の命の果てるときを悟ったからではないかと思います。二人は一回身体を合わせただけで──っていっても摺り合わせただけなんですけど──ほとんどキスも出来ないまま、整備し、出撃し、見送る。
ハッピーエンドがお約束のはずだとわかってはいても、全編に漂う気怠い絶望感は、最後の最後になるまで払拭できませんでした。ですが、フェリックスはほんと「幸運に恵まれた男」だと思います。あの展開でなければ、バッドエンドまっしぐらでした。そう思えば、そもそもパイロットになれなかったことだって、この幸運を呼び寄せるための布石だったとも言えます。フェリックスのためにバルドゥルが取った行動、選択は最高でした。やっぱ人は愛なくしては生きられないのです。
……好きな方には申し訳ありませんが、挿絵が今回は無いほうが良かった。私はゲイ小説が読みたいわけではないので、マッチョ×マッチョは合わないのです。……「僕」がマッチョなんてどこにも書いてないんだから華奢でもいいじゃん。受は攻より小さくて細くて可愛い子がいい。
気になる文庫のほうですが、10月、12月にそれぞれ2冊出るようです。フェア・ゲームの作者ジョシュ・ラニヨン氏の本がそのうち三冊。
うーん、偏ってます、ね。でも残る一冊がシェイプシフターなのです! イラストはうーん……ですが。うーん……