闘犬アッシュ33
とりあえず新規、再読ともに借りたもの、持ってるもの、怒濤の勢いで読み尽くしました(*´∇`*)
オリンポスの咎人→ダークハンター→ブラックダガーブラザーフッド→カルパチアンとパラノーマル連作後、ヒストリカル、現代もの、単発パラノーマル(単発じゃないけど続きが気にならないものも)、シェイプシフター(正体が動物だったり。ぶっちゃけこれもパラノーマル)と読みましたが、この辺のシリーズの濃ゆ濃ゆ厨二病設定に頭がどうにかしちゃったのか、どれもわりと面白かったのに物足りなく感じてしまってがっくりです。
ヒストリカルとか現代ものとかだと、ヒーローもそう超人ってわけじゃないんですが、パラノーマルだと身長2M越えムキムキの巨体、レザーパンツ、レザーコート、巨根がお約束です。(あーヒストリカルでも現代物でも巨根はお約束かなあ……。「太くて長い」くらいでさらっと書いてあることが多いけど)ま、ヒロインも180cm近い子とか普通にいるわけですが。キスに程よい身長差は15cmと言いますので、そこらへんをきちんと守ってきている、という感じなのでしょうか。身長差カップル好きの私としてはそのようなヒーローには160cm前後の女の子(あるいは男の子)を持ってきたいところだけど、今のところ身長差カップル萌えの海外作家さん知らないんですよね。
思えばBLも攻の身長180越えで巨根、というのがほぼお約束になってますし、(この20cmの差が、日本人と西洋人の体格の差なんだろう)年齢、国籍など越えて、女性は男性に高身長と巨根を求める生き物なのでありましょう。それを欲求に忠実に、余すところなく表現したものがBLであり海外ロマンス小説なわけですから、BLが好きな人は男女カップルが苦手だというのでないかぎり海外ロマンスもイケルとみました。
けれども各シリーズ通してどいつもこいつも「太い」「長い」「巨大」「切り株のような」「腕が一本生えているような」「巨大な砲身」とか言われると、本当は誰が一番でかいのか、パンツ脱いで一列に並ばせて確かめてみたくなります。脳内でイメージ序列作ったりしてしまった……(多少キャラへの好感度が左右することは否めない)
パンツと言えば、パラノーマルヒーローはなぜかパンツ履かない奴多いです。今まで気にとまらず流してたんだけど、ダークハンターの「ヴェイン」でヒロインのブライドが「下着をつけない男ほどセクシーなものはない」とかなんとかいうようなことを思うシーンがあって、私は仰天して「パンツ履かないでジーンズ履く男とか本当にいるのか」と主人に問いただしてしまいました。いるんだそうですよ〜そういう一派が^^; なんかだんだんそこだけ黄ばんできそうで嫌だなあ。全然「セクスィ〜」とか思わないです。「トランクスが似合う男はいない」(@ジュリアン)には同意しますけど。ただジーンズのごわごわで皮膚が終止こすれることで、感度が鈍って長持ちするようになるというお得な効果もあるようです。いいことなのかどうかは微妙だな、と思いますけど……。
……というようなことを聞くと、なんだか闘犬のアッシュってパンツ履いてないような気がしてきませんか。私はしてきました。なんというか、下着までは支給されてなかった的な意味で。ヴァンはくれるだろうけど、履かないのに慣れてたら逆に気持ち悪いと思うこともあるかも。それで少し遅漏気味なのかもと思うとすべてのつじつまが……!
ってなんで巨根とパンツの話になったのかっていうと、浸っている間そういうことしか考えてなかったからです。一冊の半分はH/Hがムラムラしてるシーンだからかなー。
実際に悲鳴や銃声が聞こえて来るまえに、アッシュは争乱の気配を感じておき上がった。
半地下室の黴のにおいのするマットレスの上で、耳を澄ませる。無意識に指が首筋をまさぐった。少し鼓動が早くなると同時に、視覚、聴覚、嗅覚といった五感の一部が鋭く冴え渡っていくのを感じる。
次の瞬間に、アッシュはその体躯からは想像がつかないほど敏捷に立ち上がり、今はもう鍵をかけることもない鉄格子を軋ませて牢を抜け出していた。
狭い廊下、むき出しのコンクリートの床をいくらか駆けて階段を上がり、扉を開けると、そこはもう大理石のタイルや絨毯のフロアになる。長い通路の右には扉が並び、通路にはところどころにソファや数世紀前に作られたという花瓶などが飾ってあるが、どこにも身を隠すところがない。
気配を探りながら慎重に進み、通路を曲がったところで正面から男に遭遇した。仰天した男はとっさに銃口を向けたが、アッシュは男の狙いが定まらないうちにその腕を絡めとり、引き寄せ、肝臓の上に深く膝をつき入れた。反射的に引き金が引かれ、銃弾が床を撃つ。
悶絶してくずおれる男を瞬時に引きずり上げて新たな敵の銃弾を受け、死体を投げつけると同時に飛びかかって肘で眉間を割る。そのまま宙で二つの死体を蹴り飛ばしてから、アッシュは軽い音を立てて着地した。
二人の男の顔に見覚えはない。この屋敷に詰めているものの顔は大概見知っているが、それでも全員ではなかった。もしかしたら身内であったかも。だが敵味方はともかく、銃口を向けられたら今は倒すしかない。
走りよる足音に、床に転がった銃の一丁をジーンズのウエスト部分に突っ込み、もう一丁の銃口を正面に向けて、たった今倒したばかりの男を抱え直したところ、顔面を血まみれにしたバダックが突き当たりの角から滑り込むようにやってくる。アッシュはすぐに銃口を降ろした。
「アッシュ、無事か!」
「ヴァンは」
「オフィスだ、くそっ、昼間の襲撃は布石だったんだ、今日はもうないと思わせるための──」
喚いているバダックを放って、アッシュは死体を抱えたまま走り出した。一刻も早く、ヴァンのところへ行かなければ、なんのためにルークを置いてきたのかわからない。
バダックの言う通り、この襲撃こそが本命だったのだろう。標的──ヴァンの命の取り逃しがないようにというわけか、そこそこ人数も集めたようだ。屋敷のあちこちにマシンガンやピストルの弾丸が壁に食い込み、窓ガラスが割れる音が響き渡る。
「もっと早くに窓ガラスを防弾にしておくんだった──」
いつのまにか隣を走っているバダックにちらりと目を走らせる。先代が住まいにしていた屋敷はそれこそ要塞といってもよい代物だったが、ヴァンが住み着いたのは曾祖父、つまり初代が財を成したあと買い取った、三百年も前の古い屋敷だった。大きな一枚ガラスを作る技術がなかったことで、窓ガラスのフレームにはまるで無色のステンドグラスのような、様々な意匠が施されている。嵌っているガラスはほとんどが当時のままのもの。気泡も混じり、現代のものほど透明度は高くないが、ヴァンはこの芸術を愛し、安全と引き換えに無機質なサッシやシャッターに交換することを嫌ったのである。誰も強固に交換を持ち出さなかったのは、現代にここまで大掛かりな襲撃などないだろうと思っていたからもあるが、やはり初代、ヴァンのみならず、代々の主が愛したのであろうその美しさを、少なからず部下たちも認めるところがあったからだ。
だが、今や芸術を解さない野蛮なものたちにそれらは破壊され、そのせいで前線を固定できないまま四方八方からの侵入を許すことになった。
「関係ない。一人一人確実に殺せば、いつかいなくなる」
「それまで命が持てばいいがなっ!」
アッシュが左手で襟首を掴んだ死体を盾に突き出し、その陰から前方の敵を撃つのと同時に、バダックが後ろを振り向いて部屋から飛び出して来た男を撃った。
「それ、盾だったのか。というか、銃も使えたのか?」
「一通りは教わった。──バダックもそれを持っていくといい。廊下は身を隠せるところがない」
それ、と指された死体を見つめ、バダックは言葉を失った。アッシュは鋭い目を前方に据えたまま、銃を握った手の甲でしきりに首筋の汗を拭っている。そこにあるはずのものがないことを気にしているようすに、冷や汗が流れた。アッシュの左手が掴んだ男の左の指先全部と、頭部が一部欠けているのをみて恐怖と罵声を一緒に飲み込む。
「敵とはいえ、死んだ者をそんな──」
道ばたの石を見るような無感情な視線でちろりとバダックを見やったあと、アッシュは死体の襟元を掴み直して歩き出した。離す気はないらしい。
それが使い物にならなくなったら、この男は躊躇なく近くにいる自分を引き寄せて盾にするのだろうと気付いて、バダックはさりげなくアッシュの背から距離を取った。
マフィアの一員たる男たちの多くがそうであるように、バダックもどちらかといえば信心深い質だ。日曜には教会に行くし、懺悔もすれば寄付も行う。ヴァンやアッシュがむしろ例外なのだ。
「アッシュ、その男の家族は、埋葬に死体を必要とするはずだ……」
「この男の家族は、ヴァンやルークを守らない」
感情のかけらもない冷たい声が返り、バダックは息を飲んだ。アッシュは廊下の角で立ち止まり、向こうの様子を窺っている。銃を握った右手は、相変わらず汗に濡れた首筋をまさぐっていた。首輪もなければ、それを外し、命じるべき者が不在の今、それがひどく恐ろしく、バダックはまた一歩、慎重に後ろに下がった。
安全と見て角を曲がった後、すぐ右手にある部屋のドアが開いているのに気付き、部屋を覗いたアッシュは、死体を捨てて部屋の窓から庭へ降り立った。侵入者が作った道を逆に辿ったのだ。庭には樹木が生い茂っているし、このまま警戒しながら廊下を行くより外を回った方が早いと踏んだのである。邸内を移動するつもりか、バダックはついてこなかった。
狙いは悪くはなかった。ほとんどの敵は屋敷内に侵入しているので、たまに外を警戒している数人の敵を殺して行くだけでまっすぐにヴァンのオフィスに向かえる。
最短距離を走り、背後からの一撃で敵を排除し──邸内から逃げて来た身内もいたかもしれないが──身を隠すところのない正面のアプローチに出たところで、ぞっと背筋を撫で上げられる気配がしてアッシュはとっさに右手に転がるように逃げた。
「──っ!」
二の腕を銃弾がかすめ、シャツに焼けこげを作る。構わずに転がり続けて木陰に避けたとき、腕に二カ所、ジーンズに一カ所、同じように焼けこげが出来ていた。
「おやおや、全部よけるとはなかなかやりますねえ」
畏れと感嘆の混じった声が耳を打つ。実際のところ、全部よけ切れたとは言えなかった。ぎりぎりで命中を避けたものの、銃弾はシャツを裂き、皮膚をかすめた。シャツの内側にたらたらと生暖かいものが這う気持ちの悪い感触がする。
対処の時間を与えれば反撃のタイミングを失うと、アッシュは直後に木陰から飛び出し、弾が無くなるまで声の主が潜んでいるであろう彫像の陰へ攻撃を仕掛けながら急襲した。敵が身動き取れないうちに少しでも近づかなければならない。
弾を撃ち尽くした瞬間、男が顔を出し銃口を向けた。──遅い。アッシュはもう男の目の前にたどり着いていた。
弾が頬をかすり、耳の一部を削って行く。アッシュは躱すために身体をよじった勢いを利用して男の首に右足で蹴りを入れたが、これは避けられた。そのままもう半回転して左足をうなじに叩き込む。着地してすぐに振り返り、激しい眩暈に首を振っている男の額と顎に背後から手を回し、思い切り捻った。こりっという軽い音が、一度だけ鳴った。
アッシュは死体を打ち捨てて広いアプローチを駆け抜け、ヴァンの部屋へと向かった。ヴァンのオフィスの外にはすでにヴァン自身が倒したのか二人の男の射殺体がある。慎重に内側を覗いたアッシュの目の前で、ヴァンが一人を射殺すると同時に足を撃ち抜かれ、くずおれた。
喉から怒号がほとばしり、次の瞬間割れたガラスを広げるように身を屈めて飛び込んだ。鋭いガラスの破片でむき出しの肌だけではなく衣服まで裂きながら、怒りに我を忘れてヴァンを撃った男に飛びかかった。床に押し倒し、その顔面に嵐のような打撃を加える。
「アッシュ!」
突然ヴァンがアッシュの足首を掴んで引き倒した。同時に銃声が聞こえ、オフィスの入り口に男が一人倒れ込む。床に叩き付けられた顔面の下から、じわじわと黒っぽいタールのような血液が広がっていった。
「……生きてるか」
いつも無感情なヴァンの声は掠れ、少し苦しげな呼吸音が混じっている。アッシュは打ち身の痛みに唸りながら立ち上がり、ヴァンの身体を点検した。
「結構撃たれてる」
「致命傷ではないさ、この通り」
「出血も多い」
「すぐに死ぬほどじゃない。だが……膝の皿を砕かれたようだ」
「俺が運」
立ち上がろうともがくヴァンを制し、抱き上げようと手を伸ばした瞬間、正面玄関の方角から小さな爆発音が聞こえた。二人揃ってはじかれたように顔を上げる。
「ここはいい。行け!」
アッシュは指示と同時に立ち上がり、割れた窓ガラスを開けて飛び出していった。