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闘犬アッシュ8

『ラスト・オブ・モヒカン』のブルーレイ版が11月に出てたこと、今朝知りました……! 定期的にチェックしてたのに(もう諦めて北米版を買おうかと思ってた)お知らせが遅すぎませんか密林さん><

私的My best 5にいつまでも入っている映画なんですが、あちこち、特にラストが多少変わってますので、VHS、DVD両方持っています。VHSの方が評判はいいんですが、私はDVD版のラストのほうが好きで。最後のチンガチュックの台詞があったほうが良いと感じるのですが、それが不必要と考える人のほうが多いらしく、歳を取ったらどっちがいいと思うようになるかわかんないなと思ってVHSも捨てられない。今のところ、やっぱりある方がいいなと思います。締まるような気がする。

ブルーレイもさっそくぽちっとしました! お休みに観るのがすごく楽しみです。何度も観たんだけど、まったく飽きない。ストーリーも映像の迫力も音楽もすべてが好みなのです。(劇場で観たときの迫力には劣るんですけど……。いつかこれとベン・ハーのために音楽系だけでなく映像系も整えたいなあ。私、ベン・ハーは高校生のとき劇場で観たのです。リバイバルで。母が若いきに観たもので、なんども話を聞かされてて。戦車のシーンはなかなか家庭では迫力に欠けると思います)

原作とはカップリングが違うんですけど(原作では、ホークアイは恋愛には関わらなかった)、映画観たのが先なので、映画版の組み合わせのほうが好きだなあ。特にウンカス(微妙な名前coldsweats01 原作ではアンカスです)×アリスが!

アリスが!

最初はマデリン・ストウのクラシックでノーブルな美貌に比べると、かわいいけど平凡な女優さんだなと思いましたが。最後らへんにマグワ(『ジェロニモ』感覚で観るとあれって思いますが、この人もすごく良い俳優さんです)を振り返った決意の表情は、なんとも透明で清らかで美しかったです。何回もストップかけた……

当時はウンカス役のエリック・シュエイグ君にも結構惚れ込みました。(元々ルー・ダイアモンド・フィリップスも好きでしたし、ネイティブアメリカン系の顔に弱い傾向にはあった)彼が出演してる『ブロークン・チェーン』のVHSも買ったんだけど(レンタルになかった)いまいちだったので手放して以降どうなったのか……。また飲んだくれているのかな^^;

お正月になにかレンタルしようかなと思ってる方にはめちゃくちゃ大プッシュします! 見所は最初の戦闘、伝令をホークアイ(主人公)が火縄銃で援護するところ、民兵を脱走させたかどで捕まったあとの戦闘、ウンカスの……、アリスの……だと思います。ウンカスの父、チンガチュックがまたカッコいいです。

以下、闘犬アッシュ。これが本題なんですけど、嬉しさのあまり熱く語ってしまった。

「気が合う、と言うことは、ルークも俺に逢いたいと思ってくれていたのか?」
 なんだか信じられないような気もして、ルークの顔をのぞき込むと、ルークは少しだけうろたえたような気配を見せ、なに言ってんだよと小さく叫んでアッシュを押しやった。
「あ、会えるかなと思ったのと、アッシュがここに来たタイミングが合ってて──それで気が合うなって言ったんだ!」
「……そうか」
 少しだけ開いてしまった隙間が物寂しくて、思わず声が落ちる。するとルークが慌てたようにアッシュのジャケットを掴んだ。「あ……会いたくないとは、言ってねーからな」
「そうか。俺はずっとルークに逢いたかった。ルークに触りたかった……ピアノを弾いているところも、もっと見たいと思ってた」
「え? ……ふ、ふうん。──変なやつ」ルークは不思議そうな顔をして、言われた言葉の意味を少し考えるようすを見せたあと、つっけんどんな返事を寄越したが、気を悪くしたのではないらしく、身体に回されたアッシュの腕を辿るようにして、おずおずと掴んだ。
「日曜だし……なら、聴きにくるか? コンクールが近いから、どうせずっと練習してんだし……。あ、と、アッシュ仕事は? 今日休み……でいいんだよな?」
「明日の昼までに戻ればいいらしい」
 ヴァンに告げられた通りに言うと、ルークの顔がぱっと明るくなった。
「時間あるんだな。じゃ、決まり! ……アッシュ、朝飯食った? まだ? じゃベーカリーにも寄って行こう、日曜の朝しか焼かないすげーうまいパンがあるんだ」
 ルークはそういうと、ふと首を傾げ、鼻先をアッシュの胸元に寄せた。どきりと心臓が跳ねた瞬間、ぱたぱたあちこちを触ったり、撫でたりし始める。血を洗い流してこいと連れて行かれる場所で、女たちに似たようなことをされるより、よほど緊張してしまい、アッシュが思わず身を固くすると、ふとルークが顔を上げた。
「血の臭いがする。……どっか怪我してる?」
 アッシュは初めて気付いたように、己の胸を見下ろした。返り血が飛沫いて、酷いありさまになっている。顔はリグレットがべったりと付いた口紅とともに拭き取ってくれたけれど、汚れたシャツはそのままだ。拳面やルークに触れた手の爪にも、黒ずんだ血が乾いて沈着している。
「うん、少し。ちょっと待って」ヴァンがコートを寄越したのは、寒いからではなくこれを隠すためだったのかも知れないと初めて気付き、アッシュは借り物のコートを羽織ってボタンを留めた。そうするととりあえず昨夜の痕跡はわからない。「顔、結構殴らせたから、だいぶ腫れてるかも知れない。……見えたら怖がらせただろうか?」
「殴らせた?」
「見せ場を作れと言われたから。一撃で倒すのは良くないらしい」
 ルークは少しばかり考え込んだ。「何かの試合? アッシュ、ボクサーが何だかわかんねえって言ってたけど、何か……武道みたいなものやってる?」
「うん」それはアッシュにも答えられる質問だった。昨夜に関しては、両方イエスだ。
「アッシュが勝ったの?」
「勝った」
「そっか。おめでと」ルークはようやく笑顔を見せた。スポーツの類い全般に疎いルークには、武道のようなものと聞いて思いつくものがボクシングくらいしかない。ピアノ科の男友達にボクシングを好きな者がいて、テレビで試合中継を行った翌日にはよく話しているから、ボクシングの選手なら数人の名前を知っている。実際どんな競技なのかは知らないのだけれど……。どんなものなのか、アッシュは強い選手なのか、ほんの少しだけ気になったが、実際に見られないルークは聞いてもわかりっこないとすぐに興味を失った。『人を殴る仕事』の内容がほんのりとわかっただけでよしとしたのだ。
「シャツもジャケットもすごく手触りがいい。タキシードだよな? こういうの着てやるの?」
「いや。夕べは、突然やれと言われたから」
「……夕べからここにいるのか?」
「ああ。ここの前を通ったら、ルークに逢いたくなって、車を降りた」
「そんな時間におれはいねーよ?」
「そうでもなかった」
「……?」
「ルークの夢が見れた」
「はっ?! バッ……恥ずかしいやつだな!!」
 熟れたように顔を赤く染めたルークが、アッシュを突き飛ばして杖もろくに使わず来た道を駆け戻ろうとする。テラコッタのタイルの隙間からたくましく生い茂る雑草に足を取られるのではないかとアッシュは怯え、慌てて腕を捕らえ、引いた。ルークの身体がアッシュの胸にぶつかり、軽く弾む。
「なにすんだよ!」
「ちゃんと俺の腕を持って、ルーク」

 ルークは赤い顔を少し逸らしたまま、むすっと黙っていたが、やがて諦めたように白杖をぶらさげてアッシュの腕に掴まった。ピアノを弾くのにふさわしい、ほっそりと長く美しい指が、きゅっとアッシュの袖を掴む仕草がとてもかわいい。アッシュの大切なブウサギのぬいぐるみよりもかわいいと思うものに出会ったのは初めてだった。前もこうやってルークを掴まらせて地下鉄に乗り、ルークのうちへ向かったのだ。こんなふうにアッシュに無条件の信頼を寄せてくれた人は、憶えている限りこれまでに一人しかいなかった。特にルークは、アッシュのことをまだなにも知らないのに。
 そう思うと、なぜだか胸がひどくざわついた。熱く、それでいてどこかこそばゆいような、そんな不思議な気持ちになったのも、これが初めてだった。

 白杖をアッシュの腕に代えて、廃ホテルを出て地下鉄の駅に向かいながら、ルークは実はかなりほっとしていた。伯父の容態は芳しくなく、一度は病室へ移ったのに、五日前からまたICUに逆戻りしている。意識ははっきりしているのだが、そのことが伯父をひどく落胆させたらしく、病室へ移る前よりも元気をなくしてしまったのだ。再びアッシュに出会えたことを伝えれば、もしかしたら元気になってくれるのではないかと、ルークは期待せずにいられなかった。
「アッシュは、ここからうちまでは憶えたんだよな? アッシュのうちから来ることも出来るのか?」 「出来る」「電話番号も、憶えられる? おれの携帯の」
「憶えられる。でも──」
「携帯、もしくは電話がない?」
「ああ」
 ルークは小さく吐息を付いて、絡めているアッシュの腕にほんの少しだけ寄りかかった。アッシュの腕は太く、鋼の固さと安定感があって、まだ会うのはたったの二回めだと言うのに、安心して身を任せることが出来る。盲人に手を貸すのが初めての人に掴まらせてもらうとき、ルークは大概不安を感じて緊張することのほうが多いので、これはかなり異例のことだった。
「あんたってほんとにわかんねー人だな。伯父さんのと同じくらい高級なディナージャケットを着て、高そうな香水の匂いをさせてるのに、うちに電話がない。携帯もない」
「香水?」アッシュの身体が少しよじれるのを感じた。自分の匂いを嗅いで首をひねる気配がする。「わからない」
「鼻が慣れちまったのかもな。移り香だと思うよ。夕べ女の人といなかった?」
「ああ──リグレットがいた。服は俺のじゃない。着ないと中へ入れないと言って、着せられた」
「リグレット? ……アッシュの彼女?」
 いろいろ聞きたいことはあったが、もっとも気になったのは、アッシュの口から初めてこぼれた人の名が、女性のものであることだった。香りが移るほど側にいたのならそうなのかと思ったのだが、アッシュはそれをあっさり否定した。
「違う。リグレットはヴァンの……」
「ヴァン? ──の?」
 アッシュの口から続けざまに出た人の名に、ルークは興味を傾けたのだが、前回ルークが好奇心赴くままにあれこれ尋ねたときと同じように、アッシュは再び無言になった。これは言えないのではなく、単に悩んでいるようだとルークが気配を読んでいると、案の定アッシュがよくわからない、と呟いた。
「それは奥さんでも彼女でもないってことなのか?」
「そう。……そうなってくれたらいいと思うんだが」
「ヴァン、って言うのは?」
「兄」
「お兄さんがいるのか?!」
「ああ」

 予想もつかないところで突然爆発した爆弾のような発言だった。
 ルークは思いがけないほど激しい衝撃を受け、思わずアッシュの腕を掴んだ手に力を込めた。アッシュに兄弟がいるかも知れないなどと考えもしなかったことに、今、突然気付いたのだ。──そんなわけないと思いながら、伯父が疑うように、アッシュが兄であればいいのに思ってしまっていたことにも。

「……お兄さんの名前、ヴァン・グランツって言うのか?」
「うん」
「どんな兄さん?」
「悪い奴だと人に思わせたがってる。なんでだか、思ってることと逆のことばかり言うんだ。でも優しい。そう言うときっとムッとするだろうけど、良い奴だ」
「……そっか。兄弟いるのって、いいな。おれの兄ちゃんも生きてくれてれば良かったのに」

 ぽんぽんと不器用に掴んだ手を叩かれて、ルークはその朴訥とした慰めに苦く笑った。「そっか。アッシュはそのリグレットって人がお兄さんの彼女になってくれればいいと思ってるんだ」
「別に、リグレットでなくてもいいが──どうかしたのか、ルーク?」
「えっ?」
「キラキラしなくなった」
 アッシュの言葉はたまに意味がわからないことがある。ルークは少し首を捻り、しょんぼりしてしまったように見えるのかもしれないと気付いて慌てて笑顔を作った。
「なんでも、」
 ないよと言いかけた言葉が、アッシュの胸にくぐもって、消えた。アッシュが突然ルークの身体をきつく抱き寄せたからだ。「俺がなにかルークを傷つけたんだな。……ごめん。ルークは、笑いたくないのに、笑ったりしなくていい」

 男二人が腕を組んでいたって、ルークが持った白杖が目に入れば誰も不審には思わないだろう。だが、抱き合っている場合はどうなんだろうという疑問がちらりと脳裏をよぎった。だが押しのける気にはならなかった。ただ、伯父にアッシュは兄ではないらしいと告げるのはひどく気が重いと思っただけだ。
 心のほんのすみっこ、ほんとうに端の端に、そのことにほっとする自分がいることにも気付いたが、伯父を安堵させ、変に気を抜かせるのが怖いからなのか、それとも他の理由があるのか、ルークは無意識に、そのことを突き詰めて考えるのを止めた。

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