パラレルAL 13話
夕べふと、首の左側のほうのリンパ線がピンポン球大に腫れてぽこんっと飛び出ているのに気付きました。習慣性扁桃炎でよくあることなので、この上耳鼻科もかよ〜、と今日耳鼻科に行ってかなり長い時間診察された結果、薬をずっと飲んでるのにちっとも収まらない『咳喘息』もそうではなくて、喉、鼻からきてると言われました。37.5度くらいまでの微熱がたまに出てたんですが、これが高熱になるまで悪化したら入院しなきゃいけなかったらしい。
「咳って、肺が悪くなくてもでることあるよ。いろんな症状がこよりみたいにもつれてる状態ってわかる? ここまで悪化させてたら普通は怒るとこだけど、あなたはちゃんと病院行ってたんだしなあ……(行く科を間違えただけで)」とお薬手帳を眺めてため息までつかれました!
喉、鼻でなんで咳がと半信半疑だったし、朝、昼、晩4種類を5錠、夜+1で6錠、寝る前に2錠+点鼻薬+胸に貼る気管支を広げるシートという気の遠くなるようなお薬が出て(もう全部の箇所を一気に治療しないと、更に別の症状が出る寸前まできているとかいう)まさかウッソこの医者大丈夫とか思ってたけど、お昼の薬を飲んで一眠りしたら咳が激減しました。
お腹とか背中とかが痛くなるほど酷かったので、急激に楽になって嬉しいです。お薬飲むのが楽しみで夕食が待ち遠しかったのなんて、生まれて初めてでした。
以下、パラレル続き。
やばい、だんだん俺得話になってきた……!
きゃあっというような、複数の女性の悲鳴じみたどよめきが上がり、ぎくりとしたようにアッシュが足を止めた。何か色々と物を落とす音が聞こえ、次いでバタバタとこちらに向けて走ってくる足音がする。アッシュが急に振り向いて、早足にルークのところへ戻ってきた。
「よしみんな元気そうだもう行くぞ!」
「は?」
ルークはこれまで、これほどに引きつり、強張った人の顔を見たことがないと思った。「アッシュ?」と思わず不審な声をかけたが、アッシュはすれ違い様にルークの二の腕を掴み、おもむろに来た道を引き返し始める。
途端にひゅんっと空気を切り裂く音がして、二人の頭上スレスレのところを何かが過ったと思うと、アッシュの足先に一本の矢が突き刺さった。
「逃がしませんわよアッシュ」
弓を構えた女が、実に清々しい笑顔で新たに番えた矢をこちらに向けている。反射的に両手を上げたアッシュの横から、二人の少女が勢い良く突進してきたと思うと、両脇から腕を拘束されたルークが、引きはがされて連行されていった。何がなんだかわからない、と言った顔をしていたルークが助けを求めるように振り向き、アッシュは盛大に顔をしかめ、はあーっと大きくため息をついた。
「あらあらあら」
「まあまあまあ」
「ほんとに綺麗な子ねえ……!」
「シルヴィアといいゲルダといい、キムラスカには美人さんが多いのねえ!」
どう見ても、聞いていたより人数が多いのではないだろうか? ルークはアッシュのためにも何か否定したいと思うのだが、圧倒されて声が出なかった。
「それにすっごく綺麗な髪! お肌も真っ白……!」
「やったやった、アッシュ兄ちゃんやるぅ〜! バダックたちに勝ったよ!」
あらあらあらと最初に言ったきり、口元を押さえてアッシュとルークを見比べている美しい女性の髪がアッシュと同じ真紅であることに気付き、ルークはその女性をアッシュの母と見定めて、混乱したままとりあえず会釈をする。するとまた場がどよめいた。
「あらっ、もしかして口説いて連れてきたのと違う?!」
「あの二人とはだいぶ様子が違いますわね……」
「顔が違うよ顔が! いい男にはどんな女も喜んで付いてくるもんさ!」
「いや、こいつは女じゃ」
「シュザンヌ、アッちゃんいい子をかついできたじゃないの!」
「こいつは」
「こうしちゃいられない! 早くみんなに知らせなくちゃ! シュザンヌ、また後で話を聞かせてちょうだい!」
「ええ、わかったわ。何もお構い出来なくて、悪いわね」
「待っ」
「三人も人が増えるなんて、ありがたいわねえ!」
「ちょ……!」
長いスカートの裾をからげて駆け去って行く三人の中年女性のあとを、アッシュは反射的に追おうとしたが、がしっと二の腕に抱きついた姉を見下ろし、再びもうすっかり小さくなっている女たちに「違うって!」と叫んだが、おそらく聞いてはいないのだろうと、アッシュはがっくりと肩を落とした。
慌ただしくアッシュと四人の女性たちの間でやり取りが交わされ、すべての誤解が解けたあと、熱いお茶と、ふすまのクッキーやかぼちゃのスコーンといった素朴な焼き菓子が供された。好奇心に突き動かされ、遠慮のかけらもなく手を伸ばしたルークが「おいしい」と笑ってふたつめに手を出すと、アッシュのすぐ下の妹、ティアが「綺麗な指……」とうっとりして頬を染めた。
「ほんと? あたしが焼いたんだよ、もっと食べてね」
「ありがとう。料理うまいんだな、アニス」
「まあね! この中じゃあたしが一番ママの味継いでると思うよ。夕食も期待して!」
「すごく楽しみだ!」
にっこりと笑うルークにますます頬を染めたティアが「可愛い……」と呟くのを聞き咎め、アッシュは苦々しげに眉を寄せる。
「本当ですわよ。てっきりあてにならないジェイドやガイより先に、アッシュがお嫁さんを連れて帰ったと思ったんですのに」
嘆かわしいと言わぬげに首を振るナタリアの言に、苦笑した母シュザンヌが言葉を継いだ。
「ジェイドはお嫁さんをもらうのが面倒だと言って。ガイは女の子より音機関に夢中。うちで一番の子どもなの」
「ジェイド兄ちゃん貯めるべきお金を全部薬に変えちゃってるんだもん、仕方ないよ。あーあ、惜しいなぁ! 男の子、ってことの他は欠点がないのに!」
「アニス、失礼よ」
大げさに嘆くアニスをそっとたしなめるティアに、ルークは気にしない、というように首を振って笑う。
「お前、笑ってないで少しは怒れよ!」
「いや、だってこの髪だしさ。ここじゃ男は髪伸ばしたりしないんだろ? おれ、母上似で顔もこんなだし……。前にも話したっけ、王宮ではこういうのがモテ要素なんだ。もう少し性別不明の方が良かったのかも知れないけど……。だから女の人に間違われたからってあんまり」
「わかるわ……」
尚もなにか言い募ろうとしたアッシュの口を塞ぐようにティアがうっとりと言い、ナタリア、アニスが頷いた。
「背の高いどっかの令嬢が男装でパーティーに現れると、それがまた決まってたりすると、おれたちはその日あんまり相手にされないくらいだったもん」
「男装の麗人……」
「ステキ……」
「確かにあなたにもそんな雰囲気があるわねえ」
何を想像したのかうっとりと頬を染める姉妹たちに、シュザンヌまでが賛同の意を添えると、アッシュはげっそりとそっぽを向いた。
「アッシュ兄ちゃんは、いや、男はさぁ、いい加減『男の理想の男』と『女の理想の男』の間にはかなりのギャップがあるってこと、気付いた方がいいと思うよ」
軽蔑もあらわに兄を見つめるアニスに、ルークはなぜアッシュが末の妹を一番苦手としているようなのか悟り、苦笑した。
「女の子はなんか好きだよな、そういうの。おれは、おれがもし女の子だったら、アッシュみたいに優しくてしっかりしてて、逞しくって頼れる男の方がいいって思うよ。何があっても絶対守ってくれるって安心出来て、実際危険なことになったらちゃんと助けてくれて。それに、それに……アッシュはとても綺麗だ……。──あの……そ、そう思うんじゃ、ない、かな……おれが女の子だったら……」
驚いたように注視されているのに気付き、声は途中でだんだんしぼんでいった。ルークは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
あらあら、この子……とシュザンヌは息子が捕虜として連れ帰ってきた異国の少年の赤い顔を見つめた。愛息子をそんなふうに褒められて嫌なわけはなく、シュザンヌはひどく優しい気持ちになって「そうね」と頷いた。