通りすがりに親の敵討ちの現場に出くわし、今にも殺されそうな父を庇う男の子を見ていられず、寒天屋の主人が持っていた銀二貫という大金で仇討ちを買い取ります。
そのお金は、大火から店を守ってくれた天神様に寄進するためのお金で、主人の暴挙に番頭の善次郎はんは大激怒。丁稚として引き取られることになった主人公を「お前のせいで……!」といじめ倒すのですが、のちに何故善次郎はんがそこまで寄進にこだわるのかわかると「善次郎はん……!」と泣きたくなるのです。善次郎はん、なんて出来た人なんだろう……。この主人にしてこの番頭あり、というこの爺様コンビ、最高です!
主人公が三十を越すまで、半分貯まっては消え、全額貯まっては消えして寄進は出来ないでいるのですが、そのお金が人の命と縁を繋いで行く過程が優しく、愛おしく、涙無くしては読めませんでした。というか善次郎はんには大号泣させられっぱなしでした。これでこの著者の本はすべて読んだことになりますが、私はこれが一番好きです。最後の爺様コンビの会話に、号泣はともかくうるっと来ない人はいないはず。善次郎はんの台詞に、どれだけ万感の思いが込められていたか、読み手は知っているだけに……。
銀二貫で敵討ちを諦めた侍ですが、お金で仇討ちを諦めたくらいだ、ろくでもないねえ……きっと呑んだり買ったりしたんだと思っていましたが……。
情けは人のためならず、という言葉を、強く思い起こさせます。
最近、こころがトゲトゲしてる、癒されたい、泣きたい、優しい気持ちを思い出したいときにおすすめの本です。
「出世花」もそうでしたが(同じ著者です)こういう時代人情ものを読んでしまうと、ふっと素に戻るというか、エロばっか書いてて大丈夫かアタシ?! という気になりますね。