パラレルAL 最終話
もうダメだ、明日にしようと時間を確認したら、23:58でしたので、意地になって公開してしまいました。通しての見直し無しなのでお見苦しいところが多かったと思います。すみません。
本当はきちんと物語の中で語るべきことなのですが、表現力不足で語りきれなかった補足を少し。
アッシュは飄々としているようで、実は身分差をルーク以上に意識しています。ルークを好きになってからは、自分でも意識出来ない部分で恥じてもいます。全く気にしないルークは、アッシュが自分を愛し始めていると早い時期に気付いて、それを素直に嬉しいと思っているんですが、アッシュはルークの、自分に向けられた愛情にうすうす気付いていながらも、自分の気のせいとか、王子様の気まぐれだと思い込もうとしていた、という。
──映画パロからはもうどうしようもなく逸脱していますので(踏襲したとこっていうと……縛ったとことか、弟と腹心に殺されそうになるとことか、洞窟に落ちるとことか、小舟で逃がされるとこ? くらいですか。アイアントライアングルに至っては捕虜と逃げるとこしか……><)映画ご覧になっても(゚Д゚)ハァ? ってなると思いますが……前フリの日記をご存知ない方へ一言、「ラストソルジャー」&「アイアントライアングル」のパロとしてもとは始めたのです〜><
もう全くの別物になりましたが、書いてる間は非常に楽しかったです! パロは私には書けない、思いつかないと思ったけど、こういうかたちなら書けることがわかったので、いつかまたムラムラきたら書いてみたいかもです。
余談ですが、フレイル(容姿わかんなかったので、適当に書いてあります)書くのが楽しかった。「ラストソルジャー」の弟がかなりいい人だったので(腕の筋肉が凄かった! 全部脱がしてみたかったです)最初から悪い人にするつもりはなかったのですが、途中でこっちとくっつくのもアリだったなとか(アシュルクサイトでなければ)思ったりも。
一月以上、追って読んで下さった皆様、ほんとにありがとうございました!
以下、パラレル続きです。
御前さん、ありがとうございます。レス、サイトの拍手横から致しますね。
「どうしてこうも簡単に抱かせる。私はあなたの命を取ろうとしていたんだぞ。敵をそう簡単に信用するな」
「馬鹿にすんなよ! おれだって相手のことくらいちゃんと見てる!」
「簡単に騙されそうで、心配で仕方ない。本当にあなたのような人が市井の民に混じって暮らして行けるのか?」
「行けるって! ちぇ、信用ねえの。おれだって海千山千の宮廷人と渡り合って来たんだぞ!」
言われてみればその通りだった。『王太子にはまるで隙がない』と嘆く声を何度聞いただろう。きっと、この腕の中にすっぽりと収まる小さく頼りない容姿が錯覚を招くのだ。
フレイルはすまない、と苦笑した。「少し……大きくなったんだな」
「え、伸びてる?」
「……身長のことじゃない。言ってはなんだが、それはもう諦めたほうがいい──年齢的に」
「……別に小さくたって困りゃしねーもん」
ルークは負け惜しみを言ってフレイルの背中に腕を回した。もっともっと広い背中をルークの腕は知っていて、それほど安心させると同時に胸をかき乱すものはないと思っていたのだが、今弟とこうしていても、心は千々に乱れた。
「もう、二度と会えない……な」
「……」
「でも、おれはお前を愛してる。これからもずっと、愛してるよ。おれの、たった一人の弟……」
「知っている。私はずっと、あなたに愛されていることを知っていた。私も、兄上。あなたを愛している。これまでも、これからも──」
「……うん」
一瞬、骨が軋み、思わず小さな悲鳴が漏れるほど強く抱きしめられ、すぐに放された。「これから何処へ行くつもりだ?」
「ダアトの王都へ……」
「……義姉上は、王都の方なのか?」
「えっ? えーと、うーん、実家は、違う。ちょっと離れた村、農家」
「なら、そちらへ行きなさい。いくらなんでも、今王都は危険すぎる。どこにあなたの顔を見知っているものがいるか、わからない」
このナリではあるし、本当にどちらが兄なのかわからないと苦笑しながら、フレイルは不満そうな兄に辛抱強く言い聞かせた。「家族に連絡を取ってもらうなりなんなりして、しばらくは田舎で暮らしなさい。──いいね?」
「う……うん。わかった、よ」
「──さあ。もう行かないと」今生の別れだった。フレイルは子どものような兄の身体を最後にもう一度だけ抱きしめて、微かに震える手で引きはがした。涙が浮かんでいるのが自分でもわかり、それに気付いたルークが同じくらい寂しさに潤んだ目をして、フレイルを見上げる。ルークは最後に弟の姿を目に焼き付けようというように、大きな目でじっとフレイルを見つめた。
「あなたも気付いているだろうが、兵が囲んでいる。アルマンダインはあなたの命を諦めてない。出来るだけ食い止めてみるが、あなたも決して躊躇するな」
「うん、わかってる」ルークの目からとうとう涙が伝いおちて、パタパタ音を立てた。「おれは、生きたいから──。言っただろ、おれ、自分のことしか考えらんねーんだって」
──それじゃ、な。バイバイ、フレイル……。
くすりと笑い目を伏せたフレイルの前で、ルークは小さく囁いて、軽やかに身を翻した。フレイルのために、アッシュのために、何より自分自身のために、こんなところでうかうかと殺されるわけにはいかないのだ。
西に向かって走り出すと、木立の四方八方から兵士が襲いかかって来る。幸いにも訓練された暗殺者の類いではなく、苦もなく数名を切り捨てる。命を惜しんでやったわけではないが、相手を王太子と知っての戦いにはやはり戸惑う気持ちの方が強いのだろうか、ペッピリ腰が幸いして致命傷には至っていないものもいる。運が良ければ助かる者もいるだろう。
頭の中には、戦うアッシュの姿がある。舞うように繊細で、それでいて力強い──。慣れない剣をうまく使うすべは、ルークの中のアッシュの記憶が教えてくれる。
「……兵を戻せ、アルマンダイン!」
「殺せと命じましたが、一マイルも追い立てたら、戻るようにとも言ってあります……残念ですが、あのご様子では逃げ切られそうですな」
フレイルはふっと安堵の息をついたあと、複雑な顔で傍らの腹心を見つめた。──本当に残念そうに見える。
「お前という人間は、私より歪んでいるな」
「傷つきますな」
「私の方が傷ついた気がするのは気のせいか? ……アルマンダイン、我々も一度撤退しよう。この様子ではダアトからの追撃はあるまい。シェリダンあたりまで戻ったら、略式でいい、戴冠の準備を。印璽が戻ったからには、うるさ方の爺さんたちも文句は言えまい。長年の父上の政策でキムラスカは荒れている。なんとしても和平を受けてもらわねば」
「──御意」
駐屯地のテントに戻りながら、フレイルはふと、兄が去った方角を見つめた。朱い髪をなびかせ、大きな剣を両手で軽やかに操りながら、愛しい人に心を飛ばして駆け抜けていく幻が見えるようだった。
強い瞳で『生きる』と言った。
──ダアトとは絶対に和平を結ばねばならない。どんな恥辱を受けようとも……。
「……こんなところで、何してる、王子様……」
ふいにかけられた声に、一心不乱に洗濯していたルークはびっくりして飛び上がった。振り向くと逆光が眩しく、顔はよく見えないが、その姿がこの半年以上ずっと想い続けた人だとわからないはずがない。嬉しさのあまり、顔中に笑みが広がっていく。
「カーテン洗濯してんだ! 天気いい日に大物の洗濯するの、気持ちよくってさ……!」
ルークは手を翳して眩しげに目を細めた。「魔物狩りに行こうって、村のみんなには当てにされてたんだけど、じきにお前が帰ってくるからうちにいた方がいいって、クリムゾンが言ったんだ。行かなくて良かった……! お帰り、アッシュ!」
ルークはぴょんと立ち上がって、ティア手製のエプロンで手を拭いた。最初はちょっと可愛すぎるのではと思ったが、みんながよく似合っていると言ってくれたしルーク自身もそう思ったので、今では一日中付けっぱなしで、もう制服みたいなものだ。
「アッシュ?」
返答がないことに首を傾げると、アッシュはまるで幽霊にでも出くわしたかのように蒼白になって立ち尽くしていた。「アッシュ? どうしたんだ、気分、悪いのか?」慌てて駆け寄り、顔を覗き込むと、アッシュはルークを見もせずに、苦々しげに歪んだ顔を逸らした。
「……今までで、一番ひでえ、夢だ」
「アッシュ? ……夢じゃないよ……ほら、」忌々しそうに呟いたアッシュの大きな手に、ルークはおずおずと触れた。
ここに来ては行けなかったのだろうか。アッシュは迷惑だったのだろうか? 水から引き上げてくれた手は、確かにこの手だ。だけど、あれは自分の願望が見せた、ただの夢だったのかな……。
「どうして、ここに? お前、迷ってるのか? それとも、俺があのとき手を離しちまったのを恨んでるのか?」
ルークは小さい体を更に縮こめて、おそるおそるアッシュを窺った。「恨んでなんか……。おれはただ、自分の心に従っただけだ。好きな人の傍に、アッシュの側にいたいって、思ったんだもん。本当は王都まで逢いに行きたかったんだけど、フレイルがそれは危険だって言うし。ここで待ってればいつか逢えるんだし、働き手も足りないから助かるって……シュザンヌが。……だから、おれ、」
「……フレイル?」
「あ、お、弟。印璽を渡してきたんだ。身分を捨てて、キムラスカ王室と無関係な市井の人間としてどこか遠くで生きていくなら、もう二度と手を出さないって約束してくれて、」
ルークがすべてを言い終える前に、アッシュがはあーっと大きく息を吐いて、片手で顔を覆った。「……あの野郎……っ」
「えっ? アッシュ、フレイルに会ったの? どこで? あのさ、フレイルがおれを駐屯地から逃がしてくれたんだよ。それで、あの、ごめん、帰ってきたとき、驚かせようって、みんなで。でもやっぱり、手紙書いた方が良か……っ?」
ルークは言葉を失ってアッシュを見つめた。アッシュはルークから顔を背け、片手で顔を覆ったまま身動きもしない。ルークを一度も見てないし、まともに声を聞かせてもくれない。
だが、大きな肩は確かに震えていた。覆いきれなかった手の下から固く食いしばられた口元が見える。その上を、涙が幾筋も伝っていった。呆然とアッシュを見上げるルークの前で、涙は幾筋もの大河となって首筋を濡らし、襟元から胸へと吸い込まれていった。──迷惑だったのかも知れないと凍えそうになっていた気持ちが、あっという間に溶かされて、流れ去っていく。
「──っ、ご、めん、ごめんアッシュ、ごめん! おれ、心配させちゃったんだな……?!」
ルークは伸び上がるようにしてアッシュの頭を引き下ろし、抱え込んだ。いつかアッシュがそうしてくれたように、泣き顔を見ないように。アッシュは嗚咽一つもらさず、ルークの腕の中で大きな体を震わせている。半年会わない間に、少し背が伸び、体もまた厚みを増したようだった。薄手のシャツの肩口を、温かい涙がどんどん濡らしていく。
「……ほんとは、ちょっと怖かったんだ。おれ、贅沢に、怠惰に育っちゃってるから、すぐに嫌になったらどうしようって。お前を傷つけちゃったらどうしようって。……だから、手紙、書けなかったんだ」
「……」
「でもさ。そんなの杞憂だったよ。そりゃ、山の中の一軒家で、慣れない仕事しながら一人でお前を待ってろって言われたら、すぐにめげちゃったかも知れねーけどさ。でも、ここにはみんながいる。教わったり、憶えたり、作ったり、褒められたり、叱られたり、喧嘩したり……ヤギに蹴られながら乳搾りしたり、鎌で指切りながら麦畑の雑草、刈ったりさ! なんだかんだでもう半年だぜ? おれ、すげー日にも焼けただろ! ……ティアにはめちゃくちゃ怒られてちょっと泣いちまったけど、髪だって切らせて貰えねえけど、毎日が楽しくて、幸せだ」
「……」
「お前がいなくて淋しかったけど、いつ帰ってくるかなって、今日かな、明日かなって毎日ワクワクする。みんながいれば、待つのだって楽しいって思える。あ、シュザンヌがお前の好物たくさん教えてくれたよ。作れるようになったものもいっぱいあるから、休暇の間に味、見てくれると嬉しいな。──それから、お前の新しいシャツ、何着か縫っといた。縫い目ガタガタだけど、生地選びとデザインはセンス良いってナタリアに褒められた。クリムゾンはおれが憶える必要はないだろうっていうんだけど、シュザンヌは私が出来ることは全部憶えなさいっていうんだ。でもシュザンヌって出来ないことがないくらいだろ? 全然退屈してる暇ねーの、」
「……」
立て板に水のごとく、ルークは話し続けていたが、ふと口を閉じて、アッシュの髪の匂いを嗅ぐように、抱きしめた頭に唇を寄せた。汗と、森の匂いがした。
「……もしも、もしもアッシュが困った顔したら、うちにはあと五人もいるからどれでも好きなのを持ってっていいってクリムゾンが言うんだけど……アッシュ、おれが押し掛けて来ちまったの、嫌じゃ、ないよな……」
「そ、んな、わけ、」
アッシュの片腕が慌てたようにルークの腰に回る。その手は、ルークを引き寄せることさえ出来ないくらいひどく震えていて、愛おしさが溢れた。ルークはますます強くアッシュを抱きしめた。
「おーい、ルーク──ッ、わわわわわわわ!」
「どうし、きゃっ!」
突然家の裏手からティアとアニスが駆け出してきて、前庭に足を踏み入れる前に急停止した。「アッシュにい、」
「しっ、アニスったら!」
ルークはアッシュを抱きしめたまま、真っ赤な顔で、困ったように二人を振り返った。アッシュは妹たちなど気にした様子もなく、相変わらずルークの肩を涙で濡らしている。二人は状況を悟るとルークと同じく顔を真っ赤に染めたが、アニスは好奇心を隠そうともせず、ティアは顔を覆った指の間から興味津々でこちらを見つめていて、立ち去る気配がない。妹たちの前でアッシュを泣かせていていいのかと、アッシュと二人を忙しなく見比べていると、背後からぬうっとナタリアが現れ、ルークにウインクをしたと思うと、妹たちの襟首を摘まみ上げて引きずっていった。
「……いつか後悔するぞ、王子様が、俺なんか選んで……」ほっと胸を撫で下ろすルークの耳を、鼻にかかった、吐息のようなアッシュの声がかすめた。
「お前だっていつか後悔するかも知れないじゃん。お互いに努力しよう、お互いに後悔させないように。おれ……頑張るから。アッシュといたい、おれ、アッシュと生きて行きたいんだ」
くすり、と肩のところでアッシュが笑う気配がした。「前向きな努力はありがてえな。……だが、後悔してももう離さねえ。──二度と」
「おれ、アッシュにかつがれたんだもん、ここで幸せになる、きっと」
「……?」
「洞窟で、おれのことかついだだろ!」
こじつけだとわかってはいたけれど、ルークはそう主張した。『かつぎ』の話を最初に聞いたとき、男が背に愛しい女を背負って走っていく姿を想像してしまったからかも知れない。ルークは、想像の中の男女の顔を、アッシュと自分に置き換えた。こうなることを、ルークはあのときすでに、望んでいたのだと思う。
「ああ──それは違う」笑いを含んだ、涙で擦れた声が聞こえ、アッシュが身を起こしてルークの顔を覗き込んだ。真っ赤に充血した目と濡れた睫毛に胸をぎゅうっと掴まれて、思わず赤くなってしまった顔を隠すように俯くと、突然ふわりと体が浮いた。背中と、膝裏を一度に掬われ、ルークは軽々と横抱きに抱え上げられていた。
「……?! ア、アッシュ、」
「……おんぶじゃねえんだよ。こうやってかつぎ出して、このまま男の家に──寝室に入るのが美しい様式なんだ」
ルークは驚いて瞬きし、熟れたトマトのように真っ赤な顔でアッシュを見上げて、照れくさそうにふわりと笑った。
日に焼けて少し成長したようにも見えるルークは、やはりもう少女のようには到底見えなかった。頭にリボンを結んでいても、アイボリーのワンピース風エプロンなんか着せられていても、もうルークを少女と見紛う者はいないだろう。だが、溢れるような愛と信頼にしっとり潤んだ瞳でアッシュを見上げるルークは、半年前よりもっともっとアッシュの心を騒がせる艶を含んでいて──天使だって、これほど美しくはないだろうと思わせた。
「親父とお袋に、王子様をかついできちまったって話さなきゃな……」
アッシュが優しい目でルークを見下ろすと、ルークは感極まったように涙をこぼして、アッシュの首に腕を回したのだった。