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パラレルAL 31話

あと一話!
なんとか今日中には……!

洗濯しながら歌う歌はグリーンスリーブスというイメージが何故かありまして……? コッポラの『秘密の花園』かな? ちょっとBGM代わりにDVD流して見ます、気になるので。

すごい好きな訳詞があるんですが、それは著作権に抵触するかもしれなくて、そのままの歌詞を一旦載っけたんですが(著作権はないので、問題にはなりません)突然英語ってのもなんかな……ってことで適当に。ちょっと距離があるのでアッシュが聞き取れず「……」にした部分と、どう歌詞にするか悩んで「……」にした部分と、「あなた」が女性であることをぼかした「……」があったりします。

ヴァンに関しては言い訳は致しますまい。拒否られても拒否られても何故か「こいつは絶対にわたしのところにくる」と言わんばかりに自信たっぷりにアッシュを誘い続けた原作ゲームの滑稽さが少しは出てれば良いんですが。

これから頂き物のページを仕上げます! 早く皆様にお見せしたいー!( ̄∇ ̄)

 一体どういう気まぐれか、ルークの弟はアッシュのことをとても良いように話したらしい。後日、楽しくて仕方ないといった顔の国王直々に呼び出されたアッシュは、ヴァンの指揮下である第一師団を外れて近衛連隊に、しかも国王の近辺を警護する近衛兵として移動するよう命じられた。そのことは極一部の心なき嫉妬も多少買ったようだが、大会での戦いぶりはほとんどのものが見ていたのだし、更にそのほとんどがアッシュがヴァンを下してくれたことに喝采を贈ったものたちなので、通常は貴族の子弟でもかなり信用されたものが多く就く部署に、ぽっと出の平民が入り込むことにもさほどの混乱はないようだった。

 近衛連隊は宿舎も全く別の場所になり、引っ越しや、その他もろもろの雑用に追われ、優勝賞金のほとんどを実家に送ったあとは手紙を書く余裕すらなく、ようやく二週間の休暇を貰って里帰り出来るようになったのは最後に家族に会ってからは半年近く経ってからだ。
「アッシュ、明日朝一で仕入れに発つけど、手前のアーレ村までなら馬車に乗っけてってやるって武器屋の親父が伝えてくれって。良い剣買ってくれたからサービスだってさ」
「え、マジか。交通費浮くの助かる。歩こうかと思ってたんだが」
「アンタ、いつまでケチなこと言ってんのさ! 近衛なら給料倍以上だろ」
「まだ一度も貰ってねえだろうが」
「三つ子の魂だよ、アッシュのケチは。武器屋の親父がほくほくするような剣なんて、ほんとに買ったのかい?」
「俺は別にケチじゃねえよライナー、失礼なやつだな! おれの賞金でたらふく食って飲んどいて、なんて言い草だ! 使いどころを弁えてるつもりなんだよ、倹約家と言え。……近衛は見栄え、整えるのも大事なんだとさ。自分に合った、見栄えのする剣を用意しろって言われたんだよ」

 第一師団での最後の訓練を終え、もう自分の寝床ではない兵舎に帰っていく友人たちの背中を見送っていると、たくさんの兄弟と一緒に育ち、八人部屋でワイワイやっていたアッシュは、一人部屋に帰る気がなんとなく失せてしまった。特に用があるわけではないのに、足が自然と城門の外に向く。
「アッシュ」
 途端に呼び止められて、すぐに部屋に戻るべきだったと眉を寄せた。これはもう、条件反射だと思う。「……グランツ閣下」
「たいそうな出世ぶりだな」
「……どーも」国王直々の指名では、ヴァンがあれこれ工作することが出来なかったに違いなく、アッシュはうんざりとした顔を隠しもせずにおざなりな返事を返した。
「キムラスカの王太子を捕らえてから、運が向いてきたようだな」
「……」
「暗殺騒ぎの前に一度お会いしたが、なるほど噂に違わぬ美貌の少年だった──昨今では『氷の天使』と言われておられたのだったか? 亡くなったとは惜しいことだ」
「……用がないなら帰らせてもらうぜ」
 肩をすくめて踵をかえした背中を、ヴァンの嘲笑まじりの声が打つ。
「……なんだと?」
「美しき王太子の味はどうだったかと聞いたのだ」
「……下、種が……っ」
「新王はお前を嫌っておられた様子だったのに、何故陛下の前でお前を持ち上げるようなことをなさったのかわからんな。どうやって王族二人をたらしこんだ? その手腕を私にもぜひ伝授して欲しいものだ」
「──ちっ。覗きかよ。厭らしいやつ」
「なに、私もお前のことが心配でね」
「どうだか。あんた、もしかして俺のケツ狙ってんじゃねえの?」
「なに?」
「違うのか? あんまり俺が気になって仕方ないようだから、ブルっちまったぜ。残念だがあんたじゃその気になれそうにねえし、違うってんならあんまり後ろ、うろちょろしないでくれよな。ケツの穴がムズムズして仕方ねえ」
「──アッシュ……っ」
 怒りのあまりに赤黒くなった顔に、アッシュは軽蔑もあらわに吐き捨てた。「あんたがどんな嫌がらせをしようと、俺はあんたのためになど力は使わねえ。下手すりゃ命を縮めかねねえってことがわかったし、むやみに使うなというのがその王子様のご遺言でね」

 ひらひらと手を振り、今度こそ部屋へ戻ろうとしたアッシュの背中に、ヴァンの嘲笑が刺さった。
「お前はわかっていないようだな。お前の意思がどうであれ、私はお前に力を使わせることが出来るの……」「ふうん?」」
 ヴァンが言い終える前に、目の前にアッシュが立っていた。括ることが出来なくなったため、流したままになっていた長い前髪が風圧に舞い上がり、ゆっくりと落ちる。ヴァンには動きが全く見えなかった。
「超振動って、破壊しかできない力だと思ってたか?」アッシュは燐光を放つ鋭い瞳で、ヴァンを見据えた。アッシュを中心に微かな音素の風が逆巻く。ごくりと唾を飲み込む僅かな間に、前髪の数インチが音素に変わり、細かな光の粒となって散っていった。ヴァンの背筋を汗が流れていく。いつものらくらと要求を躱していたアッシュを本気で怒らせたことに、ヴァンはやっと気付いた。
「俺の家族や友人を質にでも取ろうって? ──ま、やってみりゃいいさ。あんたがもしも、俺の意志に反して力を使わせようとしたら、或は誰かにこの力を売ったら、地図からこの大陸が消える。そのくらいの覚悟があるんならな」
「ふ、まさか……」
「出来ねえと思ってんの? 俺が自分の力の限界を把握していないとでも?」アッシュが薄笑いを浮かべて指を振ると、更に前髪が光に変わった。「おお、意外にオン・ザ・眉毛のぱっつん前髪、似合うんじゃね?」
「……っ! そんなことがお前に出来るわけ、」
「俺の家族も、友人も、命より誇りを優先するさ。だから俺の判断を支持してくれる。──絶対に」
 憐れみすら浮かべて、アッシュは言った。「俺の力のことがどこかで噂になりでもしたら、その時がお前の人生のおしまいだ。──ダアトも、この大陸もな。憶えておくといい。おれはお前が世界の反対側にいても、瞬時に背後に立つことが出来る──さっきみたいにな」
 アッシュは最後に片眉も音素に変えて、満足げに笑った。
「ああ、王子様のことだけど」アッシュはこの半年でほとんど身長の差がなくなったヴァンに殊更憐れむような笑みを向けた。「最高だったぜ。天使を抱いてるようだった。──ああ、あんたには縁のない話だったな」

 睨むような視線が、やがて憎々しげに逸らされたのを背中に感じると、アッシュは酷い笑いの発作に襲われた。なんだ、初めからこうすりゃ良かったんだ。面倒なことにならないよう適当にあしらうよりも、端っからヴァンと同格のところまで堕ちてやるほうが早かったんだ。

 だが、ひとしきりくつくつと笑ってしまうと、後には深い自己嫌悪の念だけが残った。今までで一番下らないことに力を使った。まして、あんな風に自分の力の大きさを誇示するなど、どうかしている。自分の力の限界など、把握出来ているわけもないのに……。心配そうに眉をひそめるルークの姿が目に浮かぶような気がした。
「……ごめん。心配すんな、もう使わねえよ……」
 小さな呟きは、風に攫われて、消えていく。

 馬車に半日以上揺られ、アッシュの村から一つ手前の村で降り、そこからは街道を通らず真っ直ぐに山を越えた。魔物が出るので大概の旅人は迂回するが、アッシュは帰省のときに街道を通ったことなどなかった。道なき道を進むのでかなり汚れはするが、これで半日は時間を短縮することが出来るのだ。
 山中で一夜を明かし、早朝に発って歩き続け、見慣れた赤い煉瓦が目に入ったとき、アッシュは重いため息を付いて足を止めた。結局会いそびれた父はともかく、家の女たちがルークのことを忘れているなど考えられない。捕虜を連行した恩賞の仕送りがなかったことで、家族はアッシュがルークを解放したことは気付いているだろうが、その後の彼の運命を、彼を気に入っていた家族に伝えるのは気が重かった。

 荷物を揺すり上げ、再び歩き出す。両脇には刈り入れ間近の小麦が黄金の穂を揺らしている。今年もありがたいことに豊作のようだった。誰か雇わなければと言っていたが、人手は確保出来たのか──。

「……あなたが……のならば……たしはすべてさし……そう
 このいのちも……も、あなたのあい……られるのなら」

「……?」
 どこかで聞いたことのあるような声が、アッシュの知らない歌を歌っている。ボーイソプラノというほど高くはなく、だが完全に声変わりをしたとも言えない、不思議に透明で、澄んだ声。心臓が大きく跳ね、足取りが早くなる。まさか──? いや、何考えてるアッシュ、あいつは死んだんだ──

「……はかみにいの……かの……ちゅうせいにきづい……
 しぬ……いちどでもいいから わたしにあいをあたえて……」

 ──ありがとうアッシュ、疲れたろ?

「……っ!」

 ──お前もそれ、流してこいよ……天気良いから、すぐに……

 知らない曲じゃない、一度、たった一度だけ聞いた……!

 真っ先に目に飛び込んだのは、毛先が小麦のように黄金色に変わる、鮮やかなスカーレット。

 前庭に飛び込むと、井戸の側の洗い場に、歌の主がいた。曲調は淋しげに聞こえたが、実に楽しそうだ。高い位置に淡い黄色のリボンで括られた、馬の尻尾のような髪が、動きに合わせて左右に揺れる。柔らかそうな、白いリネンのシャツの襟元から覗く小麦色のうなじは、若い牡鹿のようにすんなりと伸び、頭の重さに耐えかねているようにほっそりしていながらも、痛々しさは感じない。肘までまくり上げられたシャツから突き出た腕も、踝の突き出た裸足の足も、同じように良く焼けている。
 ティアの見立てだろうか、服も、リボンも、およそ男の身につけるものとは思えなかったが、その小さな体には良く似合っていた。だがそれでも、その人物はもう、少女にも、天使にも見えない。波状の板を使ってリズミカルに洗濯をしながら、楽しそうに歌を歌っている。

「……わたしはあなたのしんじつのこいびと
 もういちどここにきて わたしをあいして……」

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