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闘犬アッシュ37

気付いたら長々格闘シーンを書いちゃっていましたが、わざわざ「アッシュは強い」のだと証明するシーンを作る必要などない上、まるで引き延ばし作戦のように思えたので全部カットで短くしました。たいして戦ってないけど結構強いって設定なのねって思っていてくださると幸いです。(少し書き足しました。2015.01.13)

あと何話くらいで終わるかな〜……
誰のためでもなく、自分のモチベ上げるためだけに次の一話はエロ入れたいし、アッシュがむにゃして、コンクール終わったよ的なお話入れて、エピローグ……となると、長くても5話はかからないでしょうか。かかるかな? エロ次第ですね、きっと。

なんか思ったよりも長くかかっちゃいましたけど、もう少しおつきあい下さいませ。

相変わらずロマンス小説は読んでます。前から読みたいと思ってたけど読まずにいて、今回ご紹介いただいた「フラッシュバック」は近日読んだ物の中でも突出して面白かったです!

カメラマンのセアラは、美しいモデルよりも自分をじっと見つめる老人が気になって、真意を問いただそうと警備員を向かわせるのですが、それに気付いた老人が逃げ出し、追われて車に跳ねられ、亡くなってしまいます。
自分が余計なことをしたせいでという自責の念以上に、奇妙なほど老人のことが気にかかり、あれこれと調べているうちに、遺品の中からどうみても自分としか思えない女と、若き日の老人が写っている写真を見つける……というお話。タイムスリップものです。

ハーレクインなんだからハッピーエンドのはず、とは思いながら、どうにも信じきれないハラハラ展開が続いたのですが、最後は大満足でした。抱き合って喜び合えればもっと良かったんですけど、投げキスでも十分。エロ、というより官能的なシーンすらなく、あるのは「ベッドに入って致したよ」的な記述のみ。この小説はそこを楽しむものではないので、ハーレクインロマンスは苦手、と言う人にもおおいにおすすめします。そうですね、話が似ているわけではないんですが、D・R・クーンツの「ライトニング」を面白く読んだ方には絶対面白いと思います。クーンツは15年くらい前にすごいハマって結構読んだんですが、今でも持ってるのは「ウォッチャーズ」「ライトニング」だけです。「フラッシュバック」のベッドシーンのそっけなさでロマンス小説を名乗れるのであれば、「ライトニング」も立派なロマンス小説だと言えるかも。

話は逸れたけど、ウォードの「夜明けを待ちわびて」も面白かったです。悲惨な子ども時代を送ったせいで人を信じられないヒーローにヒロインは最初憤っているんですが、その過去を知ってすべてを許し、受け入れようとする優しさがとても良かった。ヒロインもかなり苦労しているんですが、母親から「愛する」ということをちゃんと学んで成長したのだと思います。

ヒーローは三兄弟の真ん中なのですが、常に弟を庇い続け、鳥肌が立つほど凄惨な子ども時代を送った長兄が幸せになる話が読みたいと思いました。乗り越えるひともいるのでしょうが、多くの場合虐待された子どもは自分も虐待する側に回ると言います。せめてフィクションの中では完全なるハッピーエンドの物語が読みたいです。

 首筋になにが飛んで来たのか、一瞬わからなかった。
 瞬時に蹴りに気付き腕で受け止めたものの、その脚は逆にその腕を絡め取って身体ごと引きずり寄せ、人体の関節とは逆の方向に捻られた。
「があっ!」
 紅毛の男は両腕を地について支え、一瞬のうちに両脚を絡めると、今まわしたのとは逆の方向に再度脚を捻る。骨の折れる、肉の内に籠った音が間断なく二度続いた。衝撃に身体が強ばる。男は下半身を一回転させながら二度蹴りを放ち、ピオニーを後方へ弾き飛ばしてから全身のバネで跳ね起きた。

 うまく受け身を取ったものの、ピオニーは突き当たりの窓に勢い良く叩き付けられた。大きな窓ガラスが割れる派手な音がし、衝撃と痛みに、息が詰まる。
 ガラスに打ち付けた後頭部がちりちり痛むのは、あちこち切ったせいなのかもしれないし、小さな破片が頭皮に食い込んでいるからなのかもしれない。だが後頭部に触れてそれを確かめるまえに膝が飛んできた。両腕を前に構えて押し返し、後ろに飛び退る腕を捕らえて左腕の銃創に親指を突っ込み、きつく掴む。
 だが、目の前の男は底の見えない湖のように深い翠の瞳を鋭くぎらつかせたまま、顔色を変えることもなければうめき声一つ立てはしなかった。掴まれた腕をそのまま引き寄せ、前にたたらを踏んだ直後腹に尖った膝が飛んで来る。瞬時に手を離したが、避けられないと踏んで腹筋に気を集中させ、両脚を踏ん張ってなんとか一撃を持ちこたえた。畳み掛けるように飛んで来た回し蹴りを両腕を交差し、上体を丸めて防ぐが、男は勢いのまま更に半回転して反対の足の甲をうなじに叩き込んだ。たまらず前屈みになったところで、眉間に垂直に肘が落ちて来る。

 口からか、鼻からか。宙にぱっと血の花が咲いた。

 ピオニーは幼いころから身体が大きくて腕っ節も強く、親のない子や家出少年の集まったグループで早くから頭角を現した。熱くなりやすいという欠点はあったが、身内に対しては面倒見がよく、幼い子らからも慕われた。彼を気に入ったグループのアマチュアボクサーから指導を受けるようになると、向かうところ敵無しになった。
 手下を従え、肩で風を切ってスラムを闊歩する彼の姿は、やがてある種の少年たちの憧れとなる。気がつけばグループは膨れ上がり、気の合わない年長の少年たちを叩きのめしてボスの座に君臨していた。そのころから彼に敵う者はおろか、対等にやり合える者さえいなくなった。

 だが、大人すら脅かしていた怖いもの知らずのピオニーの背筋を、今、汗が一筋流れて行った。彼が生まれて初めて感じる、恐怖心だった。

「てめえ……」
 そこそこやるやつだとは思っていたが、自分が負けるとも思っていなかった。なのに額から流れる血は顎の先から滴り落ち、視界は揺れて目の前の男にうまく定まらない。
 今の状況が全く飲み込めなかった。
 二発も撃たれたはずだ。身体ごと吹き飛ぶほどのパンチを何度も当ててやったし、銃創に指を突っ込んで思い切り抉ってもやったのに、男の表情は造りもののように動かない。血まみれの手で握られた銃口は、一体いつ己の額に突きつけられたのだろう。

「弾切れじゃなかったのかよ……っ」
「弾は常に一発残しておくのが鉄則とヴァンに教わった」
「卑怯じゃねえか。拳で来いよ」
 目の前の男は、明らかに何らかの格闘技を修めている。その実力は、自分と同等のはずだ。男もわかっているだろう。ならば、互いに力尽きるまでやり合ってみたいという欲求があるはずだ。互角にやりあえる敵はそう多くない。なのにこの局面で無粋にも銃を持ち出した男に、ピオニーはどこか裏切られたような気分になっていた。
「スポーツの試合をしているつもりはなかった」勝利に酔った様子もなく、男は凍結した瞳で、まるで独り言のように呟いた。
「くそっ」
 腕を握りしめたまま、ピオニーは男の右腕を弾こうとした。
 男が引き金を引くのと同時に動き、ほんのわずか銃口が狙いから外れた。こめかみから斜め後ろに向けて、銃弾が脳をかき分け、突き抜けていく。湯のように熱い液体が、どっとこめかみから溢れ、伝い落ちるのを感じた。
 ピオニーは、男の腕をぎりぎりと掴んだままにたりと嗤った。
「お、まえ、も道……」
 背後には膝高のコンクリートの壁と、ガラスの割れた窓しかない。即死を免れたピオニーは、恐ろしいほどの力でアッシュの片腕を掴んだまま後ろに倒れ込んだ。

(ざまあ……みやがれ……)

 片側の足をうまく窓枠に引っかけることが出来たが、ほっとしたのも一瞬のことだった。ばがんと音を立てて剥がれた窓枠と、ウパラと共に、アッシュは宙に投げ出された。凄まじい早さで景色が上下に流れて行く。
(落ちる……! ルーク!)
 途中でウパラの手が外れ、自由になった手が何かを掴んだ気がした。

 きりもみ状態に陥った機体に上下左右に激しく身体を揺さぶられながら、折れ曲がって開いた穴から、父の上半身が吸い出されて行くのが見えた。大勢の悲鳴や怒号が飛び交うなか、あとを追うように自分も座席ごと外へ吸い出されたことを思い出す。彼の名を呼びながら必死で手を伸ばす母と、シートベルトで固定された父の下半身が、最後に見た両親の姿だった。

 一体僕はどうなっちゃったんだろう? 

 自分に身体がある感覚がまるでなかった。

「パパ……ママ……?」
 ゆっくりと目を開けると、ビルに囲まれた長方形の空から、真っ青な空が見えた。刷毛で刷いたような雲が、ゆっくりと流れていく。アッシュは視線だけを動かして、周囲を見回した。

 ここはどこ?
 目に入ったものは、蔦の這う古いビル、そう古くもない赤い煉瓦のビル。二つのビルに挟まれた、日の射さないどこか湿ったような行き止まりの空間。生育状態の悪い楓の木。安っぽいバスケットボールのゴール。おそるおそる窓から下を窺っている顔がいくつか。ぽかんと口を開けて見ていた子どもを、背後から伸びた母親らしきものの白い腕が乱暴に窓から引き離し、ここまで音が聞こえてくるような勢いでカーテンを引いた。
「ああ……」
 ゆっくりと状況が掴めてきた。
 アッシュは全身が砕けたような痛みに喘ぎ、片腕で身体を支えながら上体を起こした。ひどい眩暈に片手で顔を覆い、収まるのを待つ。顎を突き上げられたときの力の抜け方に、少し似ているような気がする。起き上がれるだけましなのだろうが。衝撃が少しずつ去ると、ゆっくりと呼吸を繰り返しながら全身のダメージを確かめた。
 右の肩と左の上腕に銃創。弾は抜けている。どこを、と考えるのも馬鹿馬鹿しいほど、全身をひどく打ちつけていた。骨折は──少なくとも呼吸の妨げにはなっていない、肋は大丈夫。手足は動くか──しびれるような激痛が身体を突き抜け、アッシュは獣のように唸りながら歯を食いしばった。
「僕……ルークは……」
 生きているのは、奇跡のように思えた。ビルの五階から転落して命があったのは、運良くいくつかの幸運が重なったからだ。大きく枝を張った楓の枝を掴めたこと。大通りの街路樹のようにきちんと剪定されていたら不可能だった。枝はすぐに折れてしまったが、落下の勢いを殺すことが出来たのだ。そして、落下した場所に駐車していた車の上に落ちたこと。ウパラが下になったこと。アッシュは骨が砕けて突き出たウパラの死体に手足を取られながら、へこんだ屋根から這い出してボンネットの上を滑り落ちた。地面に足を付いた瞬間に全身を痛みが貫く。かろうじて立っているようなありさまで、車にすがりついてなんとか姿勢を立て直す。壮絶な唸り声が満ち、血の混じった赤い汗がぼたぼたと白い車体を流れ落ちた。
「早く帰ってやらなくちゃ。きっと怖がって泣いてる……」
 アッシュは触ると粉のように崩れるビルの壁に血の跡を擦り付け、枯れた蔦を引きはがしながら、じりじりと進んで行った。一歩を歩くたびに、片足に痛みが走る。折れてはいないが、相当傷めたようだ。もしかしたらひびくらいは入っているかも知れない。
 なんとかエレベーターのボタンを押し、騒々しい音を立てて五階から箱が降りてくるのを待った。立っているのが辛くて、全身で壁にもたれる。ひんやりとしたコンクリートの壁が、頬に心地よかった。どのくらい気を失っていたのか、すでに発熱しはじめたようだった。
「ルーク……」
 状況がまるでわからないまま、盲目の身で一人怯えているだろうルークを想う。早く迎えに行ってやらないと。この腕にしっかりそのぬくもりを抱きしめて、無事だと、守り切れたのだと安心させて欲しい。
 よろめくようにエレベーターに乗り、四階を押して顔を覆った。涙もなく、ただ嗚咽が漏れた。

 一体なぜこんなことになったんだろう?

 扉が軋みながら開く音と、重いものを引きずるような足音が聞こえ、ルークは固く閉じていた目を開けた。
「……ルーク。無事か……」
「アッシュ……っ!」
 アッシュの声は低く掠れたうえ、鼻にかかったように湿り気を帯びていて、くたくたに疲れ切っているのがわかった。
 立ち上がって声の方へよたよたと向かうと、ずっとしゃがみ込んでいたせいか途中でよろけてしまった。だが転ぶ前に、力強い腕がちゃんと受け止めてくれる。ルークの身体をかき抱くアッシュの身体は燃えるように熱く、瘧にかかったようにひどく震えていた。噎せ返るような汗と血の濃いにおいが、辺りにむうっと漂い鼻を突く。
「アッシュ、怪我をっ……」
 言葉は最後まで発することが出来ず、濡れた手が頬を掴んで唇を塞がれた。どんなことになっているのか確かめたいのに、口の中を鉄の味がする舌が這い回っている。恐怖ともどかしさで押しのけようともがいたが、ぶるぶる震えているくせにアッシュの身体は微動だにしなかった。気付けば壁に押し付けられるようにして唇を貪られ、股間の強ばりを強く押し付けられていた。
「……怪我……こんな、ことっ、して……場合じゃ……!」キスの合間になんとか止めようとするルークを完全に無視して、アッシュはまるで突き上げるような動きで腰を擦り付けてくる。その強ばりは大きく、固くなるばかりだ。
 これって、もしかして戦闘の興奮でアドレナリン分泌がさかんになるとかなんとかいうやつじゃ……?
 どこかで聞いたような話が、ぼんやりと思い浮かんだ。そうでもなければ、こんなこと、絶対アッシュらしくない。酷い怪我を負っているのではないかと強く出られないから、アッシュはルークが本気で抵抗していると思っていないのだろうか。
 戸惑いが大きくなり、抵抗する力がゆるんだ。だけどこのまま無理矢理のように抱かれてしまったら、あとでアッシュは絶対後悔する。どのみち抵抗したって力では適わない。それなら、少しでもアッシュの負担が減るやりかたのほうがいい。
「アッシュ、おれ……立ってんの、辛い。ここに座ってしよう?」
 なんとか腕を伸ばしてソファの背もたれに触れると、中断せざるを得ないと悟ったのか、アッシュは不快げに唸り、なかばルークを引きずるようにしてソファを回り込んだ。
「おれがするから、アッシュはじっとして」
 囁いて、ジーンズの上から完全に勃起したものを強く撫でる。アッシュは息を飲み、苦しげな唸り声を上げ、ルークを抱きしめたまま崩れるように座った。

 

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