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闘犬アッシュ12

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ご主人の仕事の都合で兵庫に住んでる20年来の友人(というか、そろそろ四半世紀の付き合いか……)からチョコレートが届きました。ご近所にショコラティエールが一人で切り盛りされてるかわいいお店が出来たのだそうです。なんでも二月には午前中完売の日が続いていたそうで……。

しばらく見入ってしまいました。一昨年のバレンタインSSでルークが買ったチョコってこんなんかな〜……と。

ルークではありませんが、私もやはり全種類食べて見たかったので、今朝主人に見せ(昨夜……というか今日? 主人は残業で午前様でしたので)三つだけを半分こづつ食べました。冷蔵庫に入れていたけど、中は柔らかくて、死ぬほどおいしかったです。一気に食べたい気持ちと、大事に取っておきたい気持ちが半々です。

右下は「きゅうり・レモンのはちみつ・ココナッツのショコラ」

食べる前は、

「ええええ〜……コンテスト入賞作品だって」
「えええええ〜……」

って感じでしたが、おいしかったですhappy01 半分づつ食べた後、二人して笑ってしまいました。出勤前なのに大吟醸の原酒の入ったチョコを食べてしまい、「えええええ〜……」と言いながら主人は出勤していきました。

あ、写ってるのは太郎(通称・♀)です。すり寄ってきたあとにおいを嗅ぎ、おもむろにごめん寝しました。ほんとに意味わかんない子!

以下、闘犬。順番ぐちゃぐちゃだなー><

「……殺すのが嫌とはどういうことだ」
 椅子にもたれてゆっくりと葉巻を燻らせながら、ヴァンは面白そうに目の前に立つ戸籍上の弟、アッシュを見つめた。「なぜ急にそんなことを言い出した。お前は他人のみならず、自分の命にすら興味がないと思っていたんだがな」
「汚れた手でルークに触りたくない」
 ところどころに血の飛んだシャツの胸元をつまみ上げるようにしてアッシュが言うと、ヴァンは馬鹿にしたような笑い声を立てた。
「今更だな。私たちの手はとっくに血塗れているぞ。それに殺さなければいいというものでもあるまい。──やれやれ、ほんのちょっとだけ思い出に浸らせてやるつもりが、まさかまた会うことが出来たとは。余計な真似をするのではなかったな」
「今朝、マリィベルにも会った」胸元から顔を上げて、アッシュは嗤うヴァンに告げた。
 一瞬だけ動揺を隠せずヴァンは表情を強ばらせたが、すぐに表情を綺麗に隠して、いつもの皮肉な笑みを浮かべた。
「……それで? 私は先代とは違う。出て行きたいのなら、止めはせんぞ。犬にしかなれんお前が、一人で飼い主を見つけられるというなら、好きにするがいい。親父の首輪も外してやろう」
 物憂げに腕をのばし、首輪に引っ掛けるようにちょいちょいと動かしてみせたヴァンの指先を、アッシュは避けるように一歩を後じさった。少し怯えの混じったアッシュの表情を見てヴァンは無言のまま片眉をあげ、口元に嘲笑を浮かべる。

 マリィベルの様子も、何を話したかも、ヴァンは聞かなかった。興味がないわけではないことくらいわかっている。ただ、何も聞かずとも、おおよその察しはついているようだった。アッシュはほんの少しだけ悲しげにヴァンを見つめ、小さな吐息を零した。
 ヴァンの瞳に興味の光が灯る。ファミリーの者がそれを目の当たりにすれば、短い間にずいぶん人間らしい顔をするようになったと目を見張っただろう。ヴァンにとっても、アッシュのそんな表情は、普段見慣れぬものだったのだ。

 戸惑ったように自分を見つめ返してくるアッシュの腕を、なだめるように軽く叩き、マリィベルは思いのほか固く真剣な顔で告げた。「私のお願いを憶えている?」
「……憶えている」
「そうね。あなたは『必ず』と答えてくれたわね。きっとそうしてくれているだろうって、疑ったことはないの。でも、今は愚かだったと思ってる。これまでありがとう、アッシュ。でももう、」
 アッシュは腕をのばして、その無骨な指をマリィベルの唇に触れるか触れないかのところで止めた。意図は明らかであったため、マリィベルは息を飲むようにして押し黙った。
「撤回しないで。ヴァンが一番じゃなくても……まだほんのちょっとでも、ヴァンのことを好きな気持ちが残ってたら。ヴァンは今でもマリィベルが一番好きだ。なかったことにしないで欲しい」
「……あの人が言ったのよ? ずっと一緒にはいられない、父の言う通り堅気の男のところへ行けって」
「……それでも……」
 アッシュは言葉を失い、目を伏せた。本当のところ、アッシュにはヴァンの行動は良くわからない。好きなのにそうじゃなくなったふりをするなんて、アッシュには到底出来ないことだ。不安にさせたくないなら、させないよう頑張ればいいだけのこと。わざわざ遠ざけるなんて、ルークに二度と会えなくてもいいなんて、決して出来るはずがなかった。
「……すまない。俺にはよくわからない。ヴァンがまだマリィベルを好きなのはわかるのに、なぜ離れたのか……。俺は、もう二度とルークと会えないかも知れないと考えたら、ここが、」アッシュは目を伏せたままシャツの胸元をぎゅっと掴んだ。「──痛いし、苦しいから。ヴァンだって同じなのに、なんで我慢できるのか、俺にはわからないんだ」
「素直な子。……本当は私にもわかってるの、ヴァンの気持ち」マリィベルは苦笑して恥じ入るように伏せたままのアッシュの頬にそっと触れた。「ね、ヴァンのところから、ファミリーから離れなさい、アッシュ。あなたが普通の……ルークと同じ世界で生きられるよう、私も手助けするわ。そうなさい。あそこがあなたの『ファミリー』であったことなど、これまで一度だってなかったはずよ」
「俺は……」
 アッシュは曖昧に首を振った。ルークと一緒にいるためにそうすることが必要ならそうしたい気持ちと、ヴァンがひとりぼっちになることを承知の上でそんなことを言うマリィベルに、酷い裏切り行為だと怒りを感じる気持ち、どちらも正しくアッシュの本音だった。
「……アッシュ」
 声をかけたとたんびくりと身を震わせ、なおも首を振るアッシュに、マリィベルは悲しげな、だが哀れむような視線を向けた。
「すぐに決めろとは言わないわ。心が決まったら、ここに電話を──掛け方わかる? そう、なら電話してちょうだい。……待ってるから」

「俺は出て行くつもりなんかない。でも……ヴァンは俺を追い出したいのか?」
 考えてみれば、アッシュに他に出来ることなどない。役立たずはいらないと言われれば、従うほかなかった。
「好きにしろ」ヴァンは葉巻を灰皿に押し付けながら呟くように言った。「殺さずに戦意を喪失させることが出来るのなら、やってみるがいい。用心棒の役にくらい立って見せるんだな。でなければ、皆がお前を侮るだろう。お前の飼い主である私のこともな」
「──わかった」
 ルークやマリィベルなど、極一部の人間以外の誰に馬鹿にされようが怖がられようが、アッシュは毛ほども気にはならなかったが、ヴァンはことあるごとにそれを気にしているそぶりを見せたため、アッシュは神妙に頷いた。
「……お前と会話が成り立つ日が来るとはな。私はその少年に感謝状でも贈るべきなのか?」ヴァンは少し吹き出すように笑ったあと、おもむろにデスクの上の受話器を取り上げた。外に繋がっているものではなく、アッシュと話すために席を外させている側近の待機する部屋に直接繋がるものだ。「私だ。急だがディストを寄越してくれ。──すぐにだ、昼まで時間がない」
 受話器を置いたあと、ヴァンはアッシュの頭の上から下までねめつけるように眺めた。
「準礼装で整えても、所詮犬は犬にしか見えん。相手に侮られないためにも、これからは少し改めてもらうぞ。まずは風呂だな。──女付きではないが」
「湯なら浴びた。さっき」
「浴びた? どこでだ?」
「ルークのうち」
 ヴァンの顔から瞬時に表情というものが失せ、ヴァンらしくもなく恐る恐ると言った態でアッシュを窺った。「…………やったのか?」
「? ……ルークは男だ。前、言わなかったか」
「聞いたが……男でも出来るだろう」
「どうやって…………ああ」アッシュが驚いて何かを問いかけようとし、ヴァンが答える前に自分で悟って頷く。「わかった、尻か。男のルークにぞくぞくするなんて、俺は変なのかと思ってた」
「お前……自覚もなしにかわいいとか好きとか……」ヴァンが途方に暮れたように呻いた。自分の放った何気ない一言で、見知らぬ堅気の少年を窮地に陥らせるはめになったのに気付いたのだ。
「……おい。頼むから、堅気の子供と問題を起こしてくれるなよ。そんなことで手入れを食らったら、俺は業界中の笑い者だ」
「問題?」アッシュはヴァンの言葉の意味を理解し損ねたまま首をひねって呟いたが、ルークの話題が出たことで大事なことを思い出した。「ルークが家の鍵をくれたんだ。いつも持っていたいけど、無くすのも怖い。どうしたらいい?」
「家の鍵だと? 会って二度目でか? ──ったく、ガキもガキか。尻の軽い」
「ルークはそういう子じゃない。悪く言うな」
 会って二度目なのはアッシュも同じだが、アッシュはすでにルークと離れがたい気持ちになっている。照れ屋のルークは決してそういうことをアッシュには言わないけれど、アッシュはルークがきっと同じような気持ちでいてくれているような気がしていた。
 二人はしばらく無言でにらみ合ったが、先に目を逸らしたのはヴァンの方だった。ヴァンは目を逸らしたまま、腹立たしげにアッシュに手を突き出した。
「貸せ」
 アッシュがポケットから鍵を取り出し、ヴァンに渡すと、ヴァンはそれを胡散臭そうに手のひらで弾ませた。そしておもむろに自分の首から付けていた銀色のチェーンを外し、小さな幸運のコインを付けたまま鍵を通してアッシュに投げ返した。
「……ありがとう」

 アッシュが受け取った鍵付きのネックレスを首に通し、肌の上へ滑り落とす。本当に大事そうに、シャツの上からそれを押さえるのをヴァンは鼻を鳴らして見つめ、唇の片端だけを上げる皮肉な笑い方をした。「犬め。新しい首輪がそれほど嬉しいか」

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料理、読んだ本、見た映画、日々のあれこれにお礼の言葉。時々パラレルSSを投下したりも。

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