なんかハマる
私はホームセンターで3、4千円程度で買える包丁しか買ったことないので(関孫六とか)、独身時代は差し込んで往復するだけみたいな研ぎ器で研いで、二年くらいは騙し騙し使い、刃こぼれして切れ味がどうしようもなくなると買い替えていました。
結婚してからは、主人が包丁を研いでくれてました。彼は学生時代ずっと都心のとある料亭でバイトをして煮方までのし上がっており、包丁の研ぎ方なんかも教わっていたようで、荒いのと仕上げ用のが一つになってる安い砥石でも良く切れるようにしてくれてました。無精な人ですが、これだけはかなり執拗にねちこくやるので、鈍っていた切れ味が気持ちいくらい回復するんです。
今年に入ってから深夜にへろへろになって帰宅することが多く(一年のうち今が一番の繁忙期でもあるんですが……)切れ味が鈍ったなあと思ってもなかなか頼めずにいました。そしたら鳥もも肉の皮とかぎこぎこしないと切れなくなってしまったんです>< 昔ならさっさと買い替えていたんですが、「使い込んだ包丁はだんだん小さくなるんだよ〜」と料理もしないくせに大切に研いでいる様子が思い浮かぶとなんか申し訳ない気がして。私が愛着をもって鉄のフライパンや銅の卵焼き器を育てているのと同じようなものなのかもしれないと思うと、捨てるに捨てられず。でも切れ味がいい包丁に慣れちゃってるとぎこぎこするのは怖いので、この度自分で研いでみました。
興味津々でへばりついて見ていることが多かったので、門前の小僧よろしく研ぎ始めましたが、これがまた難しいのです。ずっと同じ角度で研げていないような気がしますし、事実そうなんだろうと思いますが、一時間近く頑張ってなんとか満足できる出来になりました。帰宅した主人に見せたら、疲れてるくせに15分くらいかけて修正されましたが
いや、これがすごいハマるんですよ! 一応ウォークマンをスピーカーに繋いで音楽もかけてるんですけど、意識の遠いとこで「あ、(アーティスト名)だ」とか「(曲名)だ」とぼんやり判断するくらいで頭真っ白というか、ほんとに無心になれるんです。面白くて、三徳包丁二本と、菜切り、ペティナイフも研いでしまいました。(どれもちょっとずつ直されましたが、おおむね褒めてもらえました)結婚祝いにいただいたお高い出刃包丁だけは台無しにするのが怖いので手が出せないんですが、昨日鳥モモ切ったとき、ぎこぎこしてた鳥皮がまたすぱっと切れるようになってて、清々しかったです。
以前海外の反応系ブログの記事へのコメントに、「包丁研ぎが趣味。研ぎたいがために料理する」というようなのがあり、「ないわー」と思ったんですが、すごいわかる気がします。もっと研ぎたいのに、うちにはもう研げる包丁がないから、頑張って使って切れ味を鈍らせるしかないとか。
「ハサミ男」というミステリ小説で、主人公の「ハサミ男」は文房具屋で普通に売ってるハサミにヤスリをかけて千枚通しみたいにつるつるにするんですが、模倣犯(『ハサミ男』は、次に殺そうと狙っていた少女を先に殺された連続殺人犯の主人公が模倣犯を探すという、簡単にいうとそんな感じのお話です)はそこまでの根性がなく、同じようにヤスリかけてるけど刑事は早々に別人と判断する、というところがあります。その主人公もこんなふうに無心につるつるにしてたのかなあと思ってしまいました。