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闘犬アッシュ2

ダニー・ザ・ドッグパロ続きです。
最後まで話を作ってみたら、私的には少し意外なことになりました。
基本はピュアなひとですから、エロは入れなくてもいいような気がしますが、あったほうがいいですか?

入れる場合はルークがちょっと可哀想というかしんどいことになるかも知れませんが(身体的に)w
設定的に精力が一番旺盛なアッシュの気がするのでhappy02

ってことで考えてみた。

闘犬A>>>>>記憶喪失A=連作A>バニシングA=にょたA>>嫁かつぎA>>>>>>>逆行A

って感じでしょうか。あー精力っていうか性欲?

「赤毛……と言ったか?」

 先日突然倒れて病院に運ばれ、ようやく意識が戻ったものの、いまだ集中治療室から出ることが出来ないインゴベルト伯父の手を両手で握って、ルークは突然始まった一人暮らしの生活のことを心配性の伯父に語って聞かせていた。
「それがさ、アスターさん? だけじゃねえんだよな。帰りにローズさんの店に寄ったんだ。ほら、ローズさんなら食材選んでもらえるしさ。そしたら『驚いた、すごくよく似てる! こんな親戚がいたのかい?』って言われたんだ。ローズさんは……伯父さんがべルケンドからグランコクマに移住してきて以来の長い付き合いなんだろ? おれのことだってあれこれ知ってるよな? 初対面の人とは違うだろ」
 けれどそれほど似ているなら、アッシュがそうと気付くだろう。アッシュは髪の色は似ていると言ったが、顔も似ているとは言わなかった。

 慣れないにわか一人暮らしの生活には、苦労や失敗の方が実は多かったのだが、ルークはあえてそれを省いて、面白おかしいことだけを選って話していた。幸いにも、伯父が常日頃から裏表のない誠実な人付き合いを育んできてくれたおかげで、ルークには助け手も多く、大変ながらもなんとかやっていけている。伯父には何の心配もなく治療に専念して欲しかった。
 ここ一週間の生活で最も伯父に話して聞かせたいこととなると、アッシュの話が一番だ。アッシュは『髪の色が似ている』と言っていたから単純にアスターの勘違いだと思っていたのだが、アッシュを荷物もちに入ったなじみの食料品店で、知人にまで血縁関係を問われるのは、ルークにとって大きな事件だった。
「お前や私のような赤毛はファブレ家という家系においては珍しくもないものだが、通常はそうないはずだ。アッシュ、か。年はいくつだと?」
「わからないって言われた。──困らせる質問だったみたいで、すげえ謝られたんだけどさ。歳を答えられない事情ってなんだろうな? ほんとにわかんないってことはさすがにねえと思うし……」
 ルークはうーんと唸ってあの日ただ一度接触した男のことを思い返した。

 思えば、おかしなところはたくさんあった。廃業して十年は経っている無人のホテルで、一体なにをしていたのか。ピアノを調律して運び出すのだし、取り壊して新しい建物を建てるのだろうと思っていたから工事関係の人かと思えばそうではないという。人を殴る仕事とはなんだ? それに、連れてきておいて同僚を一人乗せ忘れて帰る?
 ルークの数々の質問にも、まともに答えられたのは「アッシュ・グランツ」という名前だけだった。年がわからないってどういうことなんだろう。言えない事情がある、もしくは単に言いたくなかったとしても……男が名前ではなく歳を濁す理由がルークにはわからない。
 それに、彼は地下鉄に乗ったことがなかった。それどころか切符を買って改札を通るというシステムも、切符という言葉すら知らなかったのだ。移動はいつも車で、何かを買うために自分で金を払ったこともないという。自動販売機にコインを入れてボタンを押すと切符が出てくるというのを、とても不思議がっていた。今時、そんなことも知らない人がいるだろうか。彼は、轟音と共にプラットホームに入ってくる電車に身体を強ばらせ、かすかな怯えさえ見せたのだ。
「ホームレスとか、そういう感じの人なのかもって思ったんだけどさ。帰る場所はあるみたいだし、もしそうならローズさんは絶対心配してなにか言ってきたと思うんだ。けど『親戚がいたの』だけだろ。身なりは普通だってことだよな? 少なくとも服の手触りは悪くなかったし、なんのにおいもしなかった。いや──クリーニングから返ってきたばっかみたいな? そういう香りはほんのりしてたけど。だからそれならむしろどっかいいうちのお坊ちゃんなのかなと思いそうなところなんだけど……。なんていうか……何か違うっていうか……すごく、奇妙なんだよな」

 ルークの通うグランコクマ高等音楽学院は音楽を学ぶものが通う学校としては当代一の名門校である。
 奨学金制度なども取り入れて貧しくとも才あるものを積極的に受け入れてはいるが、音楽を学ぶにはそれなりに大金がかかるため、必然的に生徒は裕福な家のものが多い。ファブレ家も元はキムラスカの貴族で、代々そこそこの資産家であるうえ、ルークには亡き両親の死亡保険などもあり、この学校に入るにしても入学金や授業料、個人レッスン料などの捻出に悩むことはないが、上に上があるものだ。級友には傍系ではあるが他国の王族もいるし、ファブレ家など及びも付かぬ資産家の子女も多い。その誰とも、アッシュは違っていた。それこそ、『におい』というものがである。

「聞かれて答えられないことがあんまりにも多くて本人が一番驚いてたみたいだったし、ただでさえ恥ずかしがったり困ったりしてんのにすげえ謝られてさ……。だんだんおれ可哀想になって何にも聞けなくなっちまって」
 すぐに違うとわかったが、一瞬自分とは違う所に障害を負った人かもしれないと思ったこともルークは告白した。
「私がここを出て一般病棟へ移ったら、連れて来られるかね? 一度会ってみたいんだが……」
「……伯父さんは、彼がお兄ちゃんかも知れないって思ってんの?」
 ルークは恐る恐る口を開いた。誰が聞いているわけでもないのに、自然と声が落ちる。
 インゴベルトが小さな吐息をつき、身体から力を抜いてベッドに沈み込む気配がした。わずかな可能性への興奮に汗ばんだ手のひらを改めて握り直すと、反対側の手のひらもやってきてルークの手を包んだ。
 父母の遺体は近くの浜に上がったが、兄の遺体は結局見つからないまますでに十五年以上が経つ。もうとうに死亡届を出しているべきなのに、未だそれを出さない伯父が諦めきれていないことを、ルークはずいぶん前から知っていた。
「……お前はシュザンヌに似ているが、あの子は私の親友に……クリムゾンによく似ていた。お前が生まれて、一度だけバチカルに会いに行ったとき、お前のことを目の中に入れても痛くないほど可愛がっていたよ。シュザンヌが自分は乳をやることしかしていないと笑っていた。なぜかお前のときは出が悪かったらしくてな、粉ミルクを与えることも多かったようだが、作って飲ませるのも、ゲップをさせるのも、家にいる限りはあの子がやっていた。お前のベッドからいっかな離れようとしなかったなあ……。泣けば抱いてあやし、寝かせる時には絵本を読み聞かせたり歌を歌ったり。お前はまだ赤ん坊だったが、不思議と良く似た兄弟に見えたものだ」インゴベルトは懐かしそうに目を細めた。「あの子がいくら歳を重ねて変わってしまっていたとしても、私には絶対にあの子がわかる」
「──うん。また会えたら、来てもらえるよう頼むよ。名前はともかく、住んでるとこもわかんねえし、すぐには無理かもしれねえけど、待ってて。あ、顔のことなら、ローズさんが一般病棟に移ったら見舞いに来るっていってたから、聞いてみてよ」

 ルークが物心ついたときには、すでに両親も兄もいなかったから、ルークは彼らに対して伯父ほど強い哀惜の念を持っていない。何度も話を聞いているので親しみもないわけではないし、生きていてくれれば良かったのにと思うことは当然あるが、それだけだ。ルークにとって、身内、親とはすなわちインゴベルトのことだった。だからこのときも、そうだったらいいのに、お兄ちゃんが生きていればいいのに、と。伯父さんも喜ぶし、身体も早く治るかもしれないと、その程度にしか考えられなかった。

 だが当時、兄はすでに十を超えていた。赤ん坊ではなかったのだ。自分や両親の名前も、住所も、飛行機に乗っている理由、伯父の名だって彼は知っていた。伯父が言うように兄が本当に利発な子だというなら、訪ねていく伯父の住所さえ憶えていたかもしれない。どこを、誰を頼ってでも伯父のところに辿り着いたはずだ。生きてさえいれば。だが兄は、結局伯父のところに現れなかった。
「伯父さんが調律に行っていれば、一発でわかったのに。これに懲りて、調子悪かったらこまめに病院行くとかしてくれないと駄目だぜ?」
「ああ……そうだな。すまん」
「謝るとこじゃねーっての。とにかく、早く一般病棟に移れるよう元気になんなきゃな! アッシュに会えても伯父さんがここじゃ会ってくれって頼めねえしさ。──ん、もしかして「身内」で通せんの? でもおれにはどれだけ似てんのかわかんねえしなあ……」
 どれだけ疑わしくても、伯父が元気になってくれるなら、ルークはどのようにでも話を合わせるつもりだった。

 ──祈るような気持ちで他人であることを願う日が来るとは、このときはまだ知る由もない。

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