パラレルAL 3話
一月ほど前から断捨離実行中です。
また読みたくなったら図書館で借りればいいや、ってことで(昔は好きな本は手元に置いておかなければ駄目でした)ばさばさ処分しております。手元から離せないと思う本は不思議ともう何十年も持ち歩いているようなものばかりです。作家買い、シリーズ買いしていたものも、それほど好きではないものを処分するとほんの数冊づつ残すだけになりました。あれっ? って感じです。
いい気になって逃亡中。
得したと言って下さってありがとうございます(*´∇`*)
戦場を移動して行くダアト軍を、少し離れて追うような形で、二人は主に山中を移動している。脱走扱いにならないのかとルークは少し心配だったのだが、手柄の横取りを恐れて直接捕虜を連行することは、そう珍しくないとアッシュは言う。
「それも捕虜の身分次第というわけだが。そこが大したことねえと、捕虜の連行を免罪符に戦場から逃げたという誹りは免れない」
「だいじょうぶ。おれの領地、ベルケンドだぜ? イル大公、或はベルケンド公、おれは国ではそう呼ばれてる」
ルークはアッシュの反応を確かめるようにそれを告げてみたが、アッシュは思わず踏んづけてしまった枯れ枝を拾い、ためつすがめつしながら「よくわからんが、確かに偉そうな肩書きだな」と感心したような返事を返すだけだ。
ルークの身分、立場をずばり言ったにも関わらず、さして感銘を受けた様子のないこの下っ端兵士は、やはりキムラスカ・ランバルディア王国において『ベルケンド公』が何を表すものなのか本当に何も知らないのだ。もしかしたら知っていても捕虜は捕虜として扱うのかも知れないが、ルークはこんな風に遠慮なくぞんざいに扱われるのが珍しくて、楽しくて、そして嬉しくて仕方ない。手と首に縄がかかっているのさえ意識しなければ、まるで下々の友人同士のやり取りのようだと。
「魚? 棹とかどうすんの」
「まあ見てろって」
日が暮れる前に、アッシュは小さな小川のほとりで野営の準備を始めた。薪を組んで譜術で火を熾したり、木立を引き下ろして煙を隠したりと、やることなすことてきぱきとそつがない。薪はどうしたというと、それはアッシュが道々拾っていた枯れ枝がそれなのだった。
アッシュはルークを河原のごつごつした石の上に座らせ、ブーツを脱いで裸足になると、膝までズボンをまくり上げ、同じような大きさの石をいくつか拾うと、重さを確かめるように手のひらの上で何度か弾ませて川面をじっと見ている。何が起こるのかと、ルークも息を飲んで川面を見つめた。
次の瞬間、チッ、という微かな音と小さなしぶきをあげて小石が沈む。すると川面に白い腹を見せて魚がぷかりと浮いてきた。
「マジで?!」
ルークは目をまん丸くして身を乗り出した。その目の前に小さな水しぶきが上がると、またもや魚が浮いてくる。
「こんなもんか「もう一回もう一回!!」」
比較的大きな魚だったし、二匹もあれば、と思った途端に横から声が上がった。は、とルークを横目でみると、大きな目を爛々と光らせてほとんど水面に顔が付くほど乗り出している。
「落ちるぜ?」
「アッシュ! もう一回!」
苦笑して小石を手のひらでもてあそびながら獲物を探し、残照できらりと輝く鱗が目に入った瞬間に弾いた。
「すげーっ! 頭! 魚の頭に当たってる! すげーアッ、わ、ぶっ!!」
「あっ、おい!」
言わんこっちゃねえとアッシュは慌てて駆け寄ると、頭から川に突っ込んだルークの襟首を掴んで引きずり上げ、反対の手で流れ去ろうとした魚を掴んだ。
「大丈夫か」
「もう一回!」
「何度やったって、当たんのは頭だぜ?」
陸に上がった人魚のように、濡れて張り付く後れ毛をしぶきを上げて振り払い、ルークは笑った。
「今度はお前の手!お前の手元、見るんだよ!」