パラレルAL 28話
ハーレクインでお薦めしていただいた「誇り高き愛人」読み終わりました。すっごく面白かったです! ……けど!
マックスはヘタレすぎ! 思い込み強すぎ! お前の(思い込みの)せいで弟やらオバサンがヴェリティを馬鹿にしたのだーっ!! 全く罪がないのに、己の罪だと思い込んだ秘密を抱えて苦しんでいるヴェリティに、年の差あるのに大人気なさすぎです! ほんと苛々します! お前はアッシュか……!!(そういやアシュルクも年の差カップルだ。いつも忘れてるけど)
対してヒロインのヴェリティの健気さは冒頭の、父親の埋葬シーンから際立っていまして、もうそれまでの境遇もそれからの境遇も可哀想で仕方ない。針の筵のような婚家を抜け出して、少年たちとクリケットをやっている安らぎのシーン、ほっとするシーンなのに、悲しかったです。誤解が解けたあとはむしろ弟の好感度が急上昇しましたので、ぶっちゃけ弟とくっついても良かったのに……。リチャードはかなり男前です!! ヴェリティの真の姿を見抜くのも早かったし。でもやっぱりマックスが良かったんだね……(´_`。)グスン こういう趣味のわるいところ、うちのルークだと思いました。
初めからそのつもりで読んだせいか、無理なくアシュルク変換どころか感情移入しすぎてかっかしながら読んでしまいました。元の文は当然わからないけど、訳も綺麗な文章でいい。最近のコレ系小説で「彼はホットよ」なんていう訳を見るとその場でしらけます。←多いんですよ〜
とにかく大変ハラハラ、苛々、最初から最後まで楽しんで読みました。お薦めありがとうございました!
お返しにハーレクインではないんですけど、しかもかなり古い小説なんですけれども、オルツィの『紅はこべ』、まだ未読でしたらお薦めさせていただきます。お好きではないかと思います^^
以下、パラレル。
先が見えてきました^^;
「アッシュ! お前、今度の剣術大会の申し込み、もう済ませたか?」
「いや」訓練場の隅に腰を下ろし、汗を拭きながら身体を冷ましていたアッシュは、息せき切って駆けてきた友人の顔をちらりと見て、首を振った。「会うやつ会うやつに言われるんだが、何だか気が乗らなくてな……」
「えーっ?! お前もう十八になったろ?! やっと一般部門で出場出来るようになったのに、なんでだよ? 陛下の御前での試合だぜ?! ……そりゃ、お前が出ないと少しは楽になるけどさ……。今年は優勝候補にヴァンの野郎だけじゃなくて、お前の名前もちらちら上がってるんだぜ? お前が野郎の牙城を崩してくれるんじゃないかって、みんな期待してるのに!」
「……賭けようってんだろ。お見通しだぜ」
「ううっ」
「やっぱ出ねえの、アッシュ?」
「まだ気ィ変わんねーのかよー」
少し離れたところで同じように汗を拭っていた仲間たちが何となく寄り集まって話を始める。話題はもっぱら半月後に行われる剣術大会のことだ。王の御前で行われるため、上位に食い込むなり、何らかのかたちで目に留まれば、身分が低くとも従騎士に取り立てられることがあった。従騎士になればいずれは騎士になれるわけで、自薦他薦問わずに大勢の者が参加する。一種のお祭りのようなものなので、実力の伴わないものでも面白がって参加するのが常だった。
「今度の大会はキムラスカの新王も見物するらしい」
「……へえ」
全く気の無さげなアッシュを、彼らは特に気にした様子もなくわいわいと話を続ける。
「和平同盟の調印かー。休戦から三ヶ月、やっと終戦かよ!」
「上つ方々は話がなげえからなあ。キムラスカの行方不明だった王太子が、これまた行方不明だった印璽を持って帰ってきて、やっと話が進むと思いきや三ヶ月だもんな」
「行方不明だったのか?」
「らしいぜ。キムラスカで働いてる従兄弟が、こないだしばらくぶりにこっちに帰ってきてさ。色々聞いたんだ。なんでも二次会戦のときからずっと行方不明だったらしいんだが、満身創痍で帰還して、必ず和平を成せって印璽を弟に託して死んだらしい」
「そりゃ気の毒に」
「二次会戦っていや、アッシュとシンク、ハイマンは二次出兵で行ったんだよな? それらしいの見た?」
「ボクは見てないな……」
「オレも」
「アッシュは?」
「……見てねえな」汗に濡れた髪を拭く手が止まっていたことに気付き、アッシュは再びわしゃわしゃと髪を拭い始めた。「さっさと戦場を離れたし……」
「ああ、捕虜。そうだったな。でもさあ、なんで逃がしちゃったわけ? 情でも移ったのか」
「──逃げられたんだよ」苦笑して答えるアッシュに、シンクはちっちっと指を振って見せた。
「そんな言い訳、信じてるやつがいると思うの?」
「……」
「アンタも吐かないね。ま、いいけどさ」
「なあ、キムラスカの新王って、どんなやつなんだろ? 若いのかな」
「王太子はなんでもすげー『美少女』らしい。弟ってんだからやっぱ『美少女』なんじゃねえの?」
「王太子って男だろ。なんで『美少女』なんだよ?」
「うーん、俺も良くわからないけど、従兄弟はそう言ってた。女みたいな男ってことなんじゃないかな。普通、こういう話って尾ひれが付いてて実物はたいしたことなかったりするじゃん? 従兄弟は出陣式のパレードで初めて見たって言ってたけど、とにかくその話を聞こうとすると顔真っ赤にして『天使、天使』って言うばかりでさ! ──その『天使』だけど──実は、帰還してきたところを弟に暗殺されたって噂もあるらしい」
「なんと」
「『美少女』が」
「『天使』が?!」
「もったいないことしやがるなあ……」
「ま、それで休戦派の二番目の王子が戴冠して、膠着してた和平の話が動き出した、と」
「ならいいんじゃね? それで平和になるんならさ」
「そうそう! 俺らは兵士だけど、だらだら訓練だけして給料貰ってんのが一番だからな!」
「……なあ。今度の大会の申し込みって、まだ受け付けてんだっけ?」
横で笑みを浮かべて仲間の話を聞いていたアッシュが、ふと髪を拭く手を止めて聞くと、一瞬の沈黙ののち、全員がわあっと歓声をあげてアッシュの全身を叩き、押し、肩を組む。
「やあっとその気になったのかよう?! 今日の十八時までだぜ、急いで行ってこいよ!!」
「やった! オレ、元締めのカンタビレ師団長に報告してくる!」
「まーた賭けかよ、ほどほどにしろ!」
「あの姐さんもほんっと好きだよな……」
「あっ、アッシュ! 前祝いに今日、一杯どうだ?」
「……なんの前祝いだよ? 店、どこだ? 後で行く」
「なんと、仕送り命のアッシュが?!」
「どうしたんだよ、なんかいいことでもあったのか?」
「……どうかな」
ひらひらと手を降ってアッシュは歩き出した。しばらくは何処をどう歩いているのかもわからなかった。仲間たちの姿が完全に視界から消えると、口元から笑みがかき消える。
「『美少女』はまあ、当たらずとも遠からずってとこだが、『天使』ってのはなんだ?」
三ヶ月近く前に別れた面影が脳裏に浮かぶ。興奮に目を輝かせた顔、楽しそうに笑う顔、悲しげに笑う顔、おいしそうに食べる顔、心配のあまりに怒る顔。泣き顔。──それから。それから……。
遠ざかって行く、悲鳴のようにアッシュの名を呼んでいた悲痛な声が、身の内を鋭く抉っていく。
「……普通のガキだっての」
呼吸がうまく出来なくなって、アッシュは兵舎の壁に寄りかかり、胸を掴んで喘いだ。着込んだ軍服の最も内側──素肌の上に、ルークが残した小さなリングが下がっている。別れてしばらくして、荷物袋の底から見つけた。ルークが最初に着ていた軍服の裏地を切り取ったものに、華奢な鎖に通されたリングは丁寧に包まれていて、忘れ物ではないことがすぐにわかった。何を思ってアッシュにそれを託したのか。思い当たることはそう多くもないのに、それのどれが彼の真意であったのか、アッシュには見極めることが出来ない。もう、彼に問いただすことも……。
「……死んだのか」
三ヶ月も前に。別れて間もないうちに。
「殺されたのか……?」
印璽を弟にやりたいと言っていた。アッシュは、ルークが父親の友人のところまで落ち延びてその手段を探すものと思っていたが、ダアトの王都を死に場所だと思って生きていたのなら、命など惜しみもせず案外あっさりと直接届けに行ってしまったのかもしれない、暗殺者を放つようなもののところへ。諦めが早いやつだったし、案外無造作に殺されてしまったかも──。
何か重く、大きなものが胸の奥からせり上がってくる。心臓は尋常でなく激しく跳ね回り、耳元で太鼓を叩かれているように脈拍が大きく聞こえた。息苦しさが身の内から全身を炙り、一度引いたはずの汗が噴き出して来る。呼吸が出来ない。──苦しい。アッシュはますます強く胸元を握りしめ、呻いた。
だが、激しく喘ぎながら苦痛を堪えているうち、少しずつ衝撃が引いて行き、呼吸が元に戻ってくる。口から飛び出るのではないかというほど乱暴に脈打っていた心臓も、徐々に治まってきた。目を閉じて、二、三度大きく深呼吸すると、冷えて行く汗の他は、身体の異変はすべて何事もなかったかのように元通りになった。
涙一滴、浮かんでこなかった。
「おー! アッシュ、登録するのか?!」
「……気が変わってな」
「カンタビレ師団長が狂喜するぜえ! あの人はヴァンの野郎と相性悪いからな!」
「……気が早えよ。勝てるとは限んねえだろ」
苦笑するアッシュに、陽気な同僚は背や肩をバンバン叩いて駆けさっていった。「痛えよ!」
抗議の声は哄笑にかき消される。何もかもか元通り、だが胸だけがじくじくと痛む。軍服ごと、ルークの遺したリングを強く握った。
「……痛えよ」