闘犬アッシュ30
波動砲〜
ヤマト発進のときはじわっとしたけど号泣はしませんでした。発進前に砲台動いてるし……><
波動砲は発射前のタメで興奮、直前の戦闘も興奮、ああ……っ!
なんかもう、なにもかもが良すぎて泣けてくる。沖田館長は今回の方が声渋くて好きだ。
本当かどうか亡くなってるので本人に確かめたことがないんですが、母方の祖父(職業軍人であったそうな)が戦艦大和で通信兵だったという話を幼いころからこっそり聞かされて育ちましたので、あの名前と形にはそれなりに思い入れがあったりします。いろいろ極秘だったはずなんで、嘘くさいなあとは思ってるんですが。
興奮覚めやらないまま、以下闘犬。
夕暮れになってもまだなお人の多いロビーにアッシュを残し、ルークは一人インゴベルトの病室の前に立った。話した以上はいつ会わせても構わないのだろうが、やつれたところをみせたくないという伯父に甘えて、いまだに会わせていない。アッシュが何ものであるのか詮索されたくもなかったので、今ずっと家に泊めているということも話していない。
大好きな伯父に隠さなければならないこと、話せないことがあるのは本当に辛い。こんなふうに伯父に会いに来るのが苦痛になる日が来ようとは、ルークはこれまで想像したこともなかった。
以前はどんなに時間がなくとも毎日だって会いに来ていたのに、このところ足が遠のきがちになっているのは、ただ単にアッシュと二人で過ごすのが楽しいから、などという単純な理由ではなかった。隠し事をしたまま会うのが辛いのだ。アッシュを一目見て、伯父はなんと言うだろう。漠然とした不安を抱きつつ、アッシュ自身が自分たちは「似ていない」と言うのに、ルークは心のどこかですがっていた気がする。その不安はヴァンに会って、彼等が血の繋がった兄弟ではないということを聞いてから強くなるばかりだ。アッシュに聞いてみても、婆に会うまでのことは良く憶えていないと言う。兄は大きな事故に遭ったのだと分かっているだけに、ルークは恐ろしかった。不安が募れば募るほど、ルークはより強くアッシュを求めてそれを忘れようとし、終われば胎内に残されたものと自分との繋がりを──ルークは結局、キスマークを制限しなかったのと同様、中に出さないで欲しいと願わなかった──思って更に恐ろしくなる。
体型の変化は毎日顔を合わせる人には分かりづらいと言うが、頻繁に身体を合わせているアッシュにごまかすことは難しい。「少し骨っぽくなった」と抱き心地でそれに気付いたらしいアッシュは、単純に食事が足りてないのだと決め込んで、ルークが喜んで食べていたケーキをたくさん買って来たり、ルークの好きな鶏肉を使ったレシピをローズや常連の主婦たちにあれこれ教わってきたりと、一生懸命食の進まないルークになにか食べさせようと努力してくれている。それが申し訳なくて無理に詰めこみ、結局こっそりと戻すはめになるのだが、それをいつまでアッシュに隠し通すことが出来るだろう。
昨日はとうとう身が入っていないとトリトハイムにも叱られるはめになり、やる気が無いなら帰りなさいとレッスン途中で放り出されてしまった。本選が迫っているこの時期、こうも調子が戻らないことに焦りを感じ、食欲は余計になくなった。そのせいか、身体もずっと怠いような気がする。
伯父にだけは気付かれまいと、ルークは病室の前で大きな深呼吸をし、ノックをした。インゴベルトもやがては退院するのだし、いつまでも隠しておけることでもないのだが……。
「ああ、ルーク。良く来たね」
「伯父さん」
先日会いに来たときと同様に声には張りがあり、ルークは鬱々とした日々の中での小さな喜びに頬を緩ませる。以前は飛びかかるようにしがみついて、まるで子どものようにキスをしていたのに、今は体調や体型の変化に言及されないかと窺いながら手探りで顔を探り、キスを落とす。「調子、どう?」
「いい、悪くないよ」
「本当かな。伯父さん、結構見栄っ張りだもんな。おれが顔色の一つもわかんないと思ってさ」
「本当に悪くない。──今日の昼間、ローズが見舞いに来てくれたんだ」
途端に、身体が大げさなほどびくりと震えた。
「あ──ああ……そう。ローズさん、が。良かったね……」
「アッシュのことを話していたよ」
「……っ」
凍り付いたように動けず、立ったままで椅子に座ることさえ出来ないでいるルークに何を思ったか、インゴベルトが深いため息を落とした。
「……ルーク。座りなさい。話がある」
「で、でも……。も、う帰らなきゃ。練習を……」ルークはイヤイヤと首を振った。背中を冷たい手で撫でられたように、冷えた汗が流れて行く。なのに眉間のあたりだけがカッと熱くなって、何も考えられなくなる。ぼうっとする。
「ローズはアッシュが一体わたしたちの何なのか知りたがっていた。お前は友達だと紹介したそうだが、アッシュは恋人だと答えたと。それは別に構わないが、あまりにお前たちの顔立ちが似ているので、ローズは大丈夫かと心配になったらしい。彼女は古い友人だ。──わたしの甥が一人、行方不明のままなのを知っている」
裏でそんな疑いを抱きながらアッシュにはにこやかにレシピの教授などしていたのかと思うと、こみ上げてくる怒りに吐き気がしそうだ。
「アッシュは……アッシュだ。名前も違うし……きょ、兄弟だって別にいて。お兄さんにだって、おれ、会ったもん……」
「……それは、本当の家族なのかね? もしもアッシュがあの子なら、事故のあと別の家族に引き取られたのかも知れない。ローズは、アッシュが幼いころのことを憶えていないと話したと言うんだ。ルーク、頼む。アッシュをここに、」
「ち……違う!」ルークは激昂して叫んだ。「違うってば! アッシュは兄ちゃんなんかじゃない!!」
「ルーク……!」
そんなはずはない。だって、事故が起こってもう何年になる。伯父は遺体の見つからない甥の死を受け入れられず、死亡届を出そうとはしなかった。事故の後しばらくは他の行方不明者と同じように張り紙だってしていたし、ネットが普及してからは行方不明者を探すためのサイトに、行方不明時の概要と共に写りの良くない当時の写真が載っている。にも関わらず、兄に関する情報は二、三入って来た悪戯の他は皆無だった。当時ならばまだ見つかる可能性があったが、これまで杳として情報さえ入ってこなかったものが、今ごろになって見つかるはずなどない。年月も経ちすぎ、写真の面影はとうにその効力を失っていた。
今更見つかるはずがない!
「伯父さんはおかしいよ、兄ちゃんはもうとっくに死んじゃってるんだ。アッシュはアッシュだ、兄ちゃんなんかじゃない! 兄ちゃんは死んじゃったんだ! きっと魚にでも食わ」
ぴしりと頬に熱いものが走った。
継いで焼けたように痛みが起こり、伯父に、優しい伯父に手を上げられたのだとわかった。
「ル、ルーク……」
とっさに手を出してしまったらしい叔父の声は、一瞬の激昂ののち我に返ったあとは狼狽えきっていて、頭が真っ白になった。
「伯父さんの馬鹿! に……兄ちゃんなんかっ、兄ちゃんなんか、もう死んじゃってればいい!!」
甥ががたがたとあちこちにぶつかりながら走り出て行ったあと、インゴベルトは大きく呻いて顔を覆った。
ルークはきっと、もっと前からその可能性を疑っていたのだろう。だから自分には会わせようとしなかったのだ。一目見ればわかると言ったから。初めてアッシュの話をしたときは、顔が似ているらしいなんて話を不思議そうに、だが楽しそうにしていたものだが、好きになったと話してくれてからは一言もない。
ローズの話を聞く限り、アッシュの人柄は好ましいものだ。目の見えないルークが二人でいるときはすっかり緊張を解いているというし、このところ頻繁に店に来て、ルークの好きそうな料理のレシピを熱心に聞いていったりもするという。ルークをとても大切に想っているのが、話だけではなく態度からもわかると、容貌があれほど酷似していなければお似合いのカップルだと言えるのに、と言っていた。
ルークに同性の恋人が出来たと聞いたときは驚いたしショックを受けもしたが、日が経つに従って、自分のいないあいだ年上のしっかりした男がルークを愛し、守ってくれているというのは、むしろ良かったかもしれないと思い始めていたところだった。何ヶ月もあのアパートメントに独りぼっちでいるよりはよほど。これからきちんと紹介してもらってその人となりを確認できれば、同じようにルークを愛するもの同士として仲良くやって行けるかもしれないとすら思い始めていた。
だが、もしも二人が兄弟なのだとしたら。
二人共にクリムゾンとシュザンヌの子なのだとしたら、それは到底受け入れられることではなかった。
「あの子の目が、見えてさえいれば……」
物心つかぬころからルークは盲目で、そのことに対して不平不満を零すことはない。もちろんなにかを「見てみたいな」ということならあるが、強い熱意はなかったように思う。インゴベルトも同様に、甥の目から光が失われたことを気遣いながらも受け入れてきた。今になってこんなことを思うのは、やはりあの優しい子にあんなことを言わせてしまったからだろう。
ルークはいつも兄ちゃんが生きていればいいね、と言ってくれていたが、ルーク自身は記憶に残らない両親や兄のことをさほど恋しがらない。恋しいのはむしろインゴベルトのほうだった。遺体に取りすがり、号泣して泣きつかれ、葬式を取り仕切って埋葬した妹夫婦については心の整理が出来たが、遺体の見つからない甥に関してはいつまでも心の整理がつかない。そんな伯父をルークは気遣い、どこかで元気に生きていればいいね、と夢のようなことを言ってくれたのだ。そんなルークに、「死んでいればいいのに」などと言わせてしまった。
だが、小さなルークを目に入れても痛くないというほど可愛がっていた甥を思い出すと、ルークのその言葉は、たとえ本音ではなかったとしてもあまりにも惨い気がして、涙が溢れる。
「シュザンヌ、クリムゾン……お前たちなら、どうする。わたしは、どうすればいい……」