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闘犬アッシュ26

ワンオクの新譜、視聴が出来ないので先に一回レンタルしてから……と思っていたんですが、さすがに人気があるのでいつも貸し出し中で、なかなか借りられませんでした。こういうときショップ店員はほんと便利だったなあと思います。全部のアルバムが無条件に良かったとは思わないので、必ず一回聴いてから買うバンドなんですよね……。

やっと一枚だけ戻っているのを見つけて借りて参りましたが、すっごく良いですね! どの曲が一番、って決めきれないくらい全曲いい! 前回も良かったし、私的にはどんどん好みになってきている感じです。そのぶん初期の曲の方が好きな方は複雑かもしれないなあ……。人気のある「感情エフェクト」もワンオクとしては悪くはないけど、私のCD全部含めて評価しろと言われたら星三つしか付けられない。今回は星五付けられる! 次のアルバムの出来が怖くなるくらいです。
古巣にtelしてみたら在庫あったので取り置きお願いして、明日頑張って取りに行ってきます!

以下は闘犬です。
どうもなにか気に入らないので、先を書いて行くにあたって書き直したり入れ替えたりするかもです。

 日々しごいているせいか、アッシュの食事マナーは一流ホテルの三ツ星レストランにふさわしいとはいまだ言えないものの、格段に良くなっている。同じテーブルにつくのが地下闘技場以来になるリグレットは、たった数ヶ月のこの変容に、つい食事の手も止めがちに深い緑の目を見張っていた。
「……驚いた。あれ、本気だったの?」
「ああ、少しは見られるようになってきただろう。正直忘れていたんだが、子犬のところで多少仕込まれていたから、伸ばしてもいいかと思ってな」
「あら?」リグレットが面白そうに顔を輝かせてアッシュを見やる。「ワンちゃんの恋は成就したというわけ?」
「──そのようだな」
 深い苦笑を刻むヴァンの表情に、なにか問題が起こったことを感じたのか、リグレットがますます顔を輝かせて身を乗り出す。「珍しくあなたから私を呼び出したのに、なにか関係があるのかしら?」
「これをお前のところで預かってもらいたい」
 皿を押しやり、口元を拭っているヴァンに、リグレットとアッシュが同時に顔を向けた。
「門番くらいには使えるだろう」
「この容姿なら、ボディガードだって勤まるわよ。でも、なぜなの?」
「……なぜボディガードに容姿が必要なんだ」
 リグレットは哀れみを含んだ挑戦的な視線をヴァンに向けた。「女優リグレット・オスローは、ベッドを暖めてくれる男なしでは眠れない女だと思われているのよ。常に侍っている逞しくて美しいボディガードたちは、世間の人々に格好の話題と想像を提供する愛人たちの一部というわけ」
「逞しくて美しい? そんな色男にまともに使えるのがいるのか?」
「まあ、私のボディガードを本当にガーディアンだと思っている人はいないでしょうね。みんな見栄えで揃えたと思ってるはずよ」
 ヴァンは別室で待っているはずのリグレットの運転手やボディガードたちを思い浮かべてみる。気にしたことはなかったが、言われてみればみな容姿のよい若者ばかりだった。間違ってもヴァンのところの強面と同じ職についているようには見えない。
「本当のところはどうなんだ」
 呆れてはいるものの、ほんの少しだけ好奇心を秘めたヴァンの問いに、リグレットは「神秘的だ」と世界中のファンを魅了した笑みを見せ、片眉をあげる。「もちろん「本物」も混じっているわよ。でも見栄えだけで水増ししたのがほとんどね。──惜しいわ、あなたなんて、私のボディーガードに最適なのに。あなたは強いし、逞しくて、とても男っぽい色気と魅力がある。この私の傍に並んで、見劣りしない男はそうはいないけど、あなたは希有な例外だと思うわ。いえ……そうね。ワンちゃんも当てはまるか。血は繋がってなくても、あなたたち二人はなんだか良く似てるのよね」
「少々複雑だが」ヴァンは無邪気に自分とアッシュに視線を流したリグレットに苦笑して、テーブルの上に差し出されたリグレットの手を握った。「ならば了承してもらえたと思っていいんだろうな」
「私の質問を平気ではぐらかす男はあなたぐらいよ。仕方のない人ね。──ええ、いいわ」
「俺はリグレットのところに行かない」自分の意見を抜いたところで身売りの相談が決まったと知り、アッシュが首を振った。「俺は、行かない」
「……って言ってるわよ?」
「お前の意見は聞いてない、アッシュ」
「俺は、ヴァンの所にいる」
「ふふ、愛されてるじゃないの」
「ふざけるな」
 ヴァンらしくもなく、鋭い声でリグレットを叱責してからヴァンは冷たい顔をアッシュに向けた。「うちには置いておけん。リグレットの所へ行くんだ」
「嫌だ」
「ならば、二度と小僧に逢わんと約束するか?」
 なぜ突然ヴァンがこんなことを言い出したのか。リグレットが間接的に問いの答を悟って目を見張る。
「わかっているだろうが、私には敵が多い」
 アッシュがうつむき、首を振った。唇を固く噛んで眉を寄せるアッシュの顔は、まるで小さな少年が涙を落とす一歩前の表情だった。リグレットが優美な腕を伸ばして、背中を丸めた大きな男の背を撫でる。
「可哀想に。でも見捨てられたなんて思っちゃ駄目よ。普通の男の子がマフィアの男と繋がりがあるなんて、誰にも知られない方がいいの。ヴァンは有名人よ。いつかきっと、他の組織やマスコミが、ヴァンの弟が親しくしている男の子のことに気付くわ」
「でも、俺は……」
 承服しかねる様子でアッシュが頑なに首を振るのを、ヴァンは奇妙な表情で見つめた。あの少年と共にいられるのなら、己の身の置き場所などどこであっても気にしないと思っていたのに、なぜこうも嫌がるのかわからなかったのだ。
「今すぐにとは言わん。だが近いうちに私か小僧か、どちらかを選べ」デザートがまだだったが、ヴァンは犬を追い払うようにアッシュに手を振った。「先に戻ってろ。バダックにここのスイートを押さえるように言っておけ。迎えは明朝でいい」

 シャワーを浴び、バスローブだけを纏ってリグレットが部屋に戻ると、ヴァンは上着だけをソファの背に放り投げて、どこか疲れたように葉巻を吹かしていた。
 セックスに乗り気でないのがありありとわかるその様子に、今夜はもう楽しめそうにないとリグレットはため息をつき、スイートルームの片隅にしつらえられたバーに向かって簡単なカクテルを作ってやり、ヴァンの前に滑らせ、正面に座った。
「すまんな」
「妬けるわね。そんなに寂しいなら、なぜ手放すのよ。別れさせればいいじゃないの」
「……何日か前、ほんの偶然でな、相手の少年に会った」一口味見をして、ほっと脱力したようにヴァンが身体から力を抜くのに、リグレットは肩を竦めた。「教わったばかりのレシピなの。私にはドライすぎるけれど、あなたには合うかと思って」
「──美味い」
「ね、どんな子だったの?」
「普通の少年だ。真っ当な家庭できちんとした躾を受け、愛されて育った、ごく普通の。顔もまあ、小綺麗に整っている」
「面食いだと言っていたものね。でも、そのくらいの年頃の子の恋愛なんて、あんまり長くは続かないわよ?」
「……」
 ヴァンが葉巻を灰皿でもみ消すのを見て、リグレットは少しばかり目を見張る。相当苛ついているか、動揺しているのか。ヴァンが彼女の前で、演技ではない真の感情をあらわにすることなどこれまでなかった。
「──少々子どもっぽいが、十年くらい前のアッシュと同じ顔だ」
「……どういうこと?」
「幼い子どもが熱病に罹って病院に入った。付き添うためだろう、両親は長い夏休みの間上の子を──アッシュをグランコクマの伯父に預かってもらうためキムラスカを経ち、事故にあった。十六年前の飛行機事故だ」
「……憶えているわ。悲惨な事故だった」
「両親は死んだが、アッシュは生きていた。事故の後遺症か、記憶を失っているがな。拾った老婆は届け出ず、自分で育てた。──そして、親父が目をつけた」
「……」
「その子は、アッシュの実の弟だ」
「そんな」さすがにリグレットも驚いて、わずかばかり身を乗り出した。「間違いないの?」
「DNAを調べるまでもないな、あの顔では。他人のそら似と言うにも白々しい」
「なのにその子はアッシュがお兄さんだと気付かなかったわけ? 兄がいるって知らないの?」
「私とアッシュが実の兄弟だと思い込んでいたからな。──それに、小僧はその熱病で視力を失っている。あの特徴的な赤毛はキムラスカの一家系にしか出ないそうだが、小僧は色がわからんのだ。周囲から似ていると言われて不審には思っていたようだ……。ま、信じたくはないだろう、実の兄と寝ていたということなど。可能性を悟って、ひどく震えていた」
「……背徳感のあるセックスを楽しめるほど不健康なタイプではないということなのね。なら、なおのこと引き離した方がいいんじゃない?」
「だが、兄弟だ。実の」
 言ってはみたものの、ヴァンはもうアッシュをファミリーと関わらせないと決めている。たとえアッシュがその子どもでなくヴァンを選択したとしても、ヴァンがアッシュを手元に残すことはきっとないだろう。
 リグレットはそっと立ち上がり、ヴァンの隣に寄り添うように座り直した。
「可哀想な人。マクガヴァン夫人といい、アッシュといい。あなたは大切なものを手元に置くのが本当は怖いのね。誰よりも寂しがりやの癖に……。アッシュを手放せる理由が出来て、きっとあなたは今、ほっともしているんでしょう」
「……なんだと?」膝で頬杖をついたヴァンが、鋭く霜の降りた横目でリグレットを見やる。うっすらと笑んだままそれを正面から見つめ返していると、不意にその瞳が和らいだ。


※葉巻はもみ消しません。

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