闘犬アッシュ17
予約しておいたkalafinaの新譜と同時に引き取れるよう、一月発売のvanilla skyも取り寄せをお願いしておいたのを今日受け取りに行ってきたんですけれども、うーん……。残念だけど、kalafinaは二枚続けて微妙、と言わざるを得ません。3rdも一、二回しか聴いてないけど、これもそうなりそうな。キラーチューンなしで、どこかで聴いたような……? という曲がだらだら続く。多分、5thはすぐには買わないなあ
惰性で購入の(好きなんですけど、最近pop punkをあんまり聴かないので……)vanilla skyの5th『The band not the movie』は最高でした! これはpop punk熱を再燃させる……! 捨て曲なし yellow cardはもとより、エルレも聴き返したくなる。
闘犬は……ぐだぐだと楽しそうに書いてるなあと思われているのでは。初エッチ終了まであと一話……かな? その後はまた一から書かなきゃならないので少しアップ速度が落ちそうですが、このまま勢いに乗ってラストまで行けそうな気もします。どこかで詰まったりしなければ……!
アッシュの身体は大きくて広かったが、鋼のように固く、身体全体を隙なく覆った筋肉でごつごつしていて、あまり人の身体の上に乗り上げているという実感は起こらなかった。
「ほら。ルークのしたいようにするといい」
そうは言われても、どうすればいいかなどわからない。
容姿に関する褒め言葉がいくら「男らしさ」からかけはなれていたとしても、ルークとてれっきとした男なのだ。いつか自分に恋人が出来て、キスをして、服を脱がせて──その先の手順も含めて、そんなふうに想像することはもちろん人並みにある。だが想像の中で何度も繰り返した手順が、今、この局面で、まったく思い出せない。相手がアッシュ、男であっても、それなりに応用が利くはずだと思うのだが、頭はほとんど真っ白になったまま、何一つ思い出せなかった。アッシュは続きを促すようにルークの背中や腰を優しく撫でているばかりで、自分の方から動いたり導いたりする気はもうないようだ。
どうすればいい。さっきのアッシュのように、オイルを指に塗って後ろを慣らし、傷つけずに挿れられるよう拓いていけばいいのだろうか。それならば多分出来るだろう。ルークの性器はアッシュみたいに大きくはないし、時間をかければ初めてでもうまく入るかも。だが、それから?
……もちろん、ルークはアッシュを、いつか女の子相手にしてみたいと思っていたように攻めてみたいなどと、本気で思ったわけではなかった。アッシュの性器の大きさを思い出して怖じ気づいただけだ。だってどう考えても、身体を損なわずにあんなものが入るはずがないのだ。
だが、男の自分が同じ男のアッシュに押し倒されるなんて格好悪い、どこかでそんなふうに思ったことも確かだった。混乱しているとはいえ、こんなふうに少し冷静に思い返してみると、裏返った高い声で女の子みたいに喘いでしまったことが恥ずかしくて仕方ない。どうしてもっと強い意志を持って噛み殺すことが出来なかったのだろう。
そう思うと、怖じ気を退けて生来の負けん気が顔をのぞかせた。
手探りでアッシュの顔に触れ、指先で唇の場所を見つけてキスをする。少しざらざらする顎や頬にも食むように唇を落としながら少しずつ下に下りていって、首枷の痕を癒すことが出来れば良いのにと思いながら荒れた肌を舐め、恐ろしく激しい鼓動を刻んでいる場所を吸った。
「──いっ……痛い?」
「少しぴりっとしただけだ」
「赤くなってる?」
「ん……ここからは見えない」
うん、と頷いてルークはアッシュの身体のあちこちに触れ、手首の内側をちゅうちゅうと吸ってみた。「痕、付いた?」
「赤くなってる。どうして?」
「どうやって出来るのかは知らねえけど。これ、キスマークだよ。この人はおれのだから、誰も手を出すなよって印なんだって」
それはどこかで聞きかじったもので、本当にそうなのかは実は知らなかったが、ルークはとりあえず自分にもなにか男らしいことが出来たような気がして、少し得意になって説明した。
「『この人は俺の』? ……俺は、ルークのものになったのか?」
問いかけに反射的に顔を向けると、両頬を挟まれ、角度を変えられる。「こっち。ルーク……そうなのか……?」
その声は、思いがけないほど深刻そうで、怯えを内包し、それでいてどこか哀願するような響きがあった。
漠然と、キスマークを行為の中でのじゃれ合いのように捉えていたルークは、誰かのものになるという言葉がアッシュに与えるであろう影響を、今更のように悟って青ざめた。文字通り、「モノ」のように扱われてきたのだろうアッシュが、今また、ここでも「モノ」として扱われると、首枷の代わりに印を付けられたと、そう思ってしまったとしても、なんら不思議ではない。
そうじゃないよ、と言わなければならなかった。それは、誰かの所有物になるという意味じゃない。「おれは、あの首輪を付けたやつのようにアッシュを所有する気なんかない」と、説明しなければ。
「いっ……いや? これがあったら、もう誰もアッシュに触ったりしなくなるかもしれないし……。でも、そういうの困る……?」
(──ってなに言ってんだ馬鹿……!)
ルークは内心で自分を罵った。これじゃまるで、自分がアッシュの言動の端々に感じた女の人の影に嫉妬心でも抱いているようではないか。
「嫌じゃない」だが、予想に反して、返ってきた声は、押さえようともしていない素直な喜びに満ち溢れていた。「……そうか、俺はルークのものなのか。──それなら俺は、これから先もずっとルークの傍にいていい……?」
急になにか重たく、だが甘いものがこみ上げてくる。胸が詰まりそうだと思った。
「なあ……アッシュは嫌じゃねえの」
「嫌なわけがない。嬉しい」
「そうじゃなくてさ。その……おれがアッシュに……っていうか、女の子の役をやるのが、さ」
「……? 嫌じゃない。どっちでもいい。こうやって、ルークが俺に触ってくれるなら」
心からそう思っているのだろう、何の屈託もない、嬉しそうな声だった。
初めて会ったとき、感情がわかりにくいと思ったのが嘘のようだ。アッシュと接すれば接するほど、彼が何の裏表も打算もない、純粋でとてもわかりやすい人柄なのだということがわかる。歪んだ意思で人に首枷を填め、その意思を奪い、他者を傷つけるよう命じた人物も、彼の本質まで歪めることは出来なかったのだ。もしかしたらそれは、彼の口から時折こぼれる人たちのおかげなのかも知れない。婆、ヴァン、リグレット、マリィベル、名もなき女たち。アッシュを見ていると、それらの人々がどのように彼を慈しんだか伝わってくるような気がする。たとえ彼らがその境遇からアッシュを救い出すことが出来なかったのだとしても、ルークがその中の女性たちを嫉妬めいた目で見てしまうのは、筋違いだった。
ルークは項垂れて、額をアッシュの胸に押し付けた。その人たちに比べて、自分はどうだろう? 彼らの想いと自分の想いは種類が違うかもしれないが、まっすぐに向けられたアッシュの気持ちに、ただ自分だけがまっすぐ応えられていないような気がする。ルークが受け身になるのを拒否してしまったのは、怖いからという理由だけではなかった。自分は男なのに、この役割は女みたいでみっともない、恥ずかしい、そんな気持ちも大きかったのだ。アッシュはカッコいいとか悪いとか、そんなこと少しも考えずまっすぐにルークを求めてくれているのに……。
──本当は、アッシュの胸の中にすっぽり収まってしまうのが嫌じゃなかった。同じ男として、まったく劣等感を感じないでいられるかと言われればそれは無理な話だが、これほど「守られている」と感じて安心出来る場所は他にないように思える。
それが女々しくて男らしくないことなら、きっと自分はそういう人間なのだ。無理して「男らしく」しようなんて思わなくても、アッシュはきっとルークのことを軽蔑したり、女の子のようだと思ったりはしない。
多分、それが一番大切なことではないのか。
アッシュの唇をまた手で探ってキスをして、ルークは素直に全面降伏することにした。
「あのさ……アッシュはおれのものだけど、お、おれは、アッシュのものなんだ。──多分、きっと。だから、あの……。アッシュも、おれに、印をつけるべきだと思う、よ」
「俺が? ルークに?」
「そう」ルークは頬に触れるアッシュの手を上からそっと押さえて言った。「そしたら、おれはアッシュ以外の人とこういうことをしないんだって、みんながわかるんだよ」
「俺以外の人と……?」
「そう。こういうこと、普通は好きな人としかしないじゃん。あー……アッシュはあんまり気にしないかもしれないけど……」
「好きな人」アッシュは呆然とルークの台詞を鸚鵡返しに呟いたあと、ぶんぶんと首を振った。見えなくても、風圧でわかるほどだった。「ルークのことは気にする。嫌だ! 誰にも、こんなふうに触って欲しくない。俺も、ルークが好きだ。だからルーク以外の人とはもうしない」
子どものように興奮して、また少し言葉が拙くなってしまっているアッシュに、ルークは愛おしさに涙がにじみそうになるのを堪えて苦笑した。手探りでアッシュの耳を探し、髪をかき分けて、キスの距離まで顔を近づける。
「……おれもアッシュが好き。だから、おれはアッシュのものだ。誰にも盗られないように、ちゃんとアッシュの印をつけてくれないと」
「ルークは俺のもの? ……すごいな。これで宝物が全部で四つになった。一番最後だけど、一番大事なのがルークだ」
残りの三つがなんなのか後で聞き出そうと思いながら、ルークは深呼吸して息を整えた。
「印をつけたら、さっきの続きをしてよ。……おれはこういうの初めてで上手くやれないし、もしかしたらアッシュに怪我とかさせちまうかも知れない。それは嫌なんだ……。だから今日はアッシュがしてくれる? おれも、憶えるから」