闘犬アッシュ15
またまた闘犬です。今私、すごい生き生きしてると思う。Voiceは終盤までエロないし(しかも今のところ、朝チュンじゃねーか というお怒りは免れますまい)闘犬は繋ぎに苦労したし……。
作中でアッシュが言う台詞の一部に、彼のひどい勘違いが混じってます。ルーク同様、お信じになりませんように。
ルーク至上主義のアッシュは無邪気に応援しているようですが、私はルークの身長、縮めることはあっても伸ばしはしないと思うな……。日頃から165cmくらいでいいんじゃないのと思ってますし……。可哀想だけど。私が身長低いので、171でも高いなあと感じてしまうんです。基本的に私は、攻↑受↓の年の差、体格差が大好物だし(年の差に関しては、内容によって逆の方が好みのことはありますが、体格で受が勝ることはないのです)。
それはちょんと触れるだけのバードキスだったけれど、今日まで唇へのキスなどしたことのなかったルークにとっては、十年分の勇気を振り絞ることが必要だった。アッシュを落ち着かせたいとか、慰めたいとか、そういう気持ちがなかったら、自分から触れることなんかなかなか出来なかっただろう。
唇を離して、見えない目でアッシュの視線を探す。実際には見えなくていい。ひどい衝撃を受けた人には、目を合わせて話すことが必要だと思ったからだが、固い手のひらがルークの頬を包み、ほんの少し角度を変えさせた。アッシュの顔からずれていたことに気付いてルークが照れ笑いをすると、触れ合ったアッシュの身体から緊張がほどけたのがわかった。
「……今、目が合ってんの?」
「合ってる。まっすぐ俺を見てる」
「見えてないんだって……っ?!」
思わず脱力して苦笑した瞬間、唇に食いつかれた。
──と、思ってしまったほど、それは枷と同時に箍も外れたような、貪られるように激しいキスだった。
「ん……っ!」
アッシュの舌はまるで遠慮を忘れてしまったみたいに、ルークの口内を不躾に嬲った。嫌なわけでは決してないのに、反射的に逃げるルークの舌を追って、アッシュの舌が奥の方まで入ってくる。さっきみたいに呼吸する余裕を与えてもらえず、苦しさに腰を浮かせ、腕を叩いて抗議すると、アッシュは両腕でルークの腰を掴み、自分の腿の上に引きずり上げた。背中が鍵盤に触れ、高い和音を立てる。
「ア、アッシュ、」
小さいと言ったって、百七十センチはあるのに。それなりに重量だってあるはずなのに、まるで猫の子をつまみ上げるようだった。アッシュにとってはほんとうになんということでもなかったのだろう、抗議の声は再び口中に飲み込まれた。
激しい息づかいと、唾液の絡まる音の合間に、ルークの背が揺れるたび奏でる秘めやかなピアノの音。ルークはもうそれだけで息も絶え絶えだった。いつのまにかシャツはすべて剥がされてどこかへいってしまったし、無遠慮に膚を撫でていくアッシュの指が、時折薄い胸の頂を引っ掻くたびに身体が震える。
「アッシュ、待って……待って……っ」
快楽による生理的な涙を滲ませ、必死で抗議しても、返ってくるのは心底不思議そうな「なぜ?」という問いと涙を舐めとるためのキスだけだ。
「なんでって……だって、だってこれ……セックスみたいじゃね……?」
すでにベルトを抜かれて前を開かれたジーンズの中から、窮屈そうに飛び出しかけているものを押さえると、アッシュがやんわりとその手を捉え、自分の胸に触れさせた。
「うん、そうだ。──嫌?」
分厚く盛り上がった固い胸に触れたとたん、指先が痙攣を起こしたようにぴくりと跳ねた。アッシュがそのままぐっと押し付けた手のひらの下で、驚くほど早い鼓動を感じる。
「すげえドキドキしてる……」
「うん」驚いて固まっているルークを、アッシュはさらにそっと抱き寄せた。「俺はルークとセックスしたい」
「──っ」言葉にされずとも十分言いたいことがわかったのに、アッシュは欲望に掠れた声で律儀に伺いを立てて来る。逃げ道は完全に塞がれた。こんなふうに直球で言われたら、答えは「いいよ」か「嫌だ」のどちらかしかないではないか。
ルークは人の肌というものは温かいのではなく、熱いのだということを初めて知った。なにも隔てるもののない肌と肌が触れ合うのは、キスよりもなお生々しい。
「嫌?」
いっそ強引に事を進めてくれたなら、「流された」という言い訳も出来るのに。アッシュは愛撫の手を止めて、ルークの返事を行儀良く待っている。
『嫌だ』
『いいよ』
どちらかの返事を聞くまでは、引く気も、続きをする気もアッシュにはないのだ。
「い、嫌じゃないみてえ……」こんなことなら最後まで流されていれば良かったと、どちらがどちらのものかわからないくらい混ざり合った激しい鼓動に呆然と呟くと、アッシュは深く息を吐いて、ルークの手をさらに下に導いた。
「──あ」
その手に触れたものは、すでにルークと同じように天を突いて屹立している。だが、いつも触れる自分のものとは、太さも長さも、そして重みも桁違いだった。その上火傷しそうなほど熱い。ルークには一瞬それがなんだかわからなかったくらいだ。
おそらく、見えていたら別だったのだろうが──カリ高でくっきりとした段差の部分と、ごつごつと盛り上がった血管は、恐怖や羞恥よりもむしろ好奇心を刺激させるほどで、ルークは自分がなにを弄んでいるのかも意識しないまま、邪魔な下着を押し下げて、全体を這うように盛り上がった筋を指先で辿った。強く押すと指の下で血管らしきものがくにくにと動くのが不思議で、しばらく無心に触っていると、急にそれがびくんと跳ねた。手の中で急激に体積を増し、より硬く、重くなっていく。それでルークは初めて我に返り、生娘のように小さな悲鳴をあげた。うろたえきって、なかばアッシュを突き飛ばすように身を離すと、勢い良く背中が鍵盤にぶつかり、騒々しい和音を鳴らした。
「大丈夫か? 痛くない?」
「お、おっきい、よ……?」
「よく言われる」アッシュは自慢するふうでもなく淡々と答えた。「でも俺は、身体が大きいから。ルークは俺と違って細いし、小さくてかわいい。だからここもとてもかわいい。色も綺麗なピンク色で、俺みたいに変な色じゃないんだな」
「…………?」
身体の大きさと性器の大きさが比例しているなんて、ルークはこれまで聞いたことがなかったが、知らなかっただけで実はそうだったんだろうか。確かに小説には、巨大な黒馬を操る屈強な騎士の一物に『思った通り』だと舌なめずりする貴婦人がいたり、政略結婚で夫になった小男の『親指の先ほど』の性器を馬鹿にして殺され、地下室の壁に塗り込められる新妻がいたりする。
男子トイレで覗き込まれ、サイズや色などを揶揄されたことはないが、ルークにはみんな気を使っている可能性もある。自分の性器は身体の大きさとバランスが取れたサイズなのか、それとも人並みより「小さくてかわいい」のか、そこは非常に大切なところだと思ったが、アッシュに問いただしてみても、困惑したような沈黙が返ってきただけだった。
なんとなく劣等感を刺激されながら、ルークは小さな声で抗議を試みた。
「アッシュはおれのこと、脆いガラス細工みたいにいうけどさ……。別におれ、普通だと思うよ? あんまりアッシュが細いとか小さいとか……かっ……かわいいとか、言うからっ。友だちにも聞いてみたけど、みんな標準じゃね? って言うし。身長は……まだ伸びると思う、よ」
「そうか。でも俺は……ルークほどかわいい人を、これまで見たことがなかった。えっと……ルークは身体が大きくなっても、小さいままでも、かわいいんだと思う。……俺はそのままでもいいと思うけど、ルークは大きくなりたいのか? 早く叶うといいな。俺より大きくなるといい。そしたら思い切り抱きしめられるのに。今のままだとルークを潰しそうで、少し、怖い」
「……はっ? お、お前なに言ってんの……」
アッシュの「かわいい」は、一般的な「かわいい」と著しくずれていることに、ルークは今ごろになってやっと気付いた。アッシュより大きくなってもかわいい? なにか、ルークには理解の出来ない謎のフィルターがかかっている。人が小動物を愛でるような、そんな「かわいい」だと思っていたのに……。
「アッシュって、もしかして、おれのこと、好きだったりする? その……」
もちろん好かれてはいるとも懐かれているとも思っていたが、それは友人たちがルークに抱いてくれる「好き」とそれほど変わらないとこれまでは思っていた。友達同士ではけっしてやらないキスや愛撫で、その好きとは少し違うようだぞとは当然気付いたけれども、アッシュの言い分を聞いていると、まるで。
まるで……。
「? ずっと好きだ。……ヴァンやマリィベルが好きなのとはちょっと違うんだが……俺はやっぱりどこかおかしいかな?」
かあっと頭に血が上ってきて、ルークは両腕で顔を覆った。顔が、異常に熱くなっている。
「おかしくはないんじゃねーの……だって……おれだって」
同性のアッシュにセックスしたいと言われて嫌な気持ちになってないし、好きだと言われて喜んでるし。
「多分、好きとか……そ、そういう感じだと思うし」
「ルーク」
「んっ」ふっと鎖骨に熱い吐息がかかり、突然乳首に濡れた感触がした。舐められた、と気付いたとたん強く吸われる。「あ、あっ」
思わず声を漏らしてしまい、慌てて口を押さえると、アッシュがその手に触れ、不思議そうに言った。「なぜ口を押さえるんだ?」
「だ、だってみっともないだろ……」
「どうして?」
「どうしてって……おれ、男だし……」
「男は声を出してはいけないルールなのか?」
皮肉ではなく、心底不思議そうに発せられる問いに、ルークは呻いた。そんなものはないが、そういうものではないか。
「だって、女みてえじゃん……」
「ルークはどんな女よりもかわいい」
「それ、褒めてねーから」
困惑して黙り込んでしまったルークに見切りをつけて、アッシュは再び乳首を口に含んだ。
「あっ、ふうぅぅっ」
歯を食いしばって声を堪えようとするルークをなだめるように撫でて、アッシュは途方にくれたように言った。「……どこが気持ちいいのか、教えてくれないと」
「だって……だって……」
アッシュはしばらくなにか迷っていたようだったが、いきなりルークを片腕で子どものように抱え上げた。アッシュが立ち上がる、椅子の軋みが耳に入る。膝裏に手が回り、脚が宙に浮いて、子どものころ、ソファや絨毯の上で寝こけたルークを伯父が寝室に運んでくれたように横抱きにされたのがわかった。
アッシュがルークを横たえたベッドは、ルークのベッドより広い。なにかと話し込んで──主にルークがだが──いる間に隣で眠ってしまうことが多く、少し固く感じるベッドマットの感触にも少し馴染んできたような気がしていたから、アッシュがここに泊まるときに使うゲストルームのベッドだとすぐにわかった。アッシュはその上に丁寧にルークを寝かせ、ルークが我に帰って抵抗を始めるまえに、前を開けたままのジーンズと下着を一緒くたに取り去って、すっかりルークを裸にした。羞恥に、胸を抱え込むように身を丸めるルークの横で衣擦れの音がして、なにか大きくて重いものが乗ったように、ベッドがぎしりと軋む。
ぐっと沈み込んだベッドから逃げようかどうしようか決めかねている間に、横向きの身体を正面に戻され、太腿の付け根に少し固い髪が触れた。