Entry

パラレルAL 21話

もう諦めて追記は無地にしました。

気力のあるときに順次訂正していきます。前のサイトの時から気に入ってたテンプレなので、なるべく元のデザインのまんまで使いたかったのですが……スキルが足りず……orz

以下、続きです。

 なんとか上に登れそうなところを探して崖の上に登り、方角を見定めて歩き続け、洞窟の天井を踏み抜いたところまで辿り着くと、案の定開いてしまった穴の側にルークに持たせていた荷物が落ちている。思った通りここまで一時間もかからなかった。地下ではうねうねと迷路状にのたくった道をずいぶんぐるぐるしたのだが……。今度落ちたとしてもあれほどのヘマはやらかさないだろうが、面倒になることに変わりはないので、適当な枯れ枝を引っ掛けて荷物を引き寄せると、まず中身を確かめた。ルークの着替え、薬、財布。そしてルークが妹たちから持たされて大切に食べていた焼き菓子がたくさん。悪いと思ったが、二つ、三つを頂戴する。魚だけでは損なわれた身体を修復するためのエネルギーが少し足りず、洞窟でルークを背負って歩き出したときと同じく、軽い眠気が襲っていた。このまま無理を続けたら、遠からず仮死状態になっているはずだったから焼き菓子はありがたい。これがあるのを知っていたからこそ荷物の回収を急いだのだが、盗み食いがバレたらさぞ食い意地が張っているやつと思われるだろうなと、少し肩が落ちた。
 崖の側まで戻り、もう一度方角を確認した。今目の前に見えている川より半日とちょっと行った先に流れの激しい大河があるが、それがキムラスカへと続く最短で安全なルートだろう。流れが急なので滅多に使われないが、岸には対岸へ渡るための小舟が繋いである場所もある。

 アッシュはしばらくの間、鬱蒼とした木々の向こうにあるはずの見えない川を凝視し、果たしてルークを国へ帰すことがいいことなのか考えた。臣下の多くを掌握しているというルークの弟がルークの命を狙っている。国へ帰れば、父親のようにみすみす暗殺されるだけなのではないか。だが、ルークだって馬鹿じゃない、先に信頼出来るという亡き父親の友人の元へ出かけるというのなら、彼の味方になってくれるものも少なからずいるのかもしれない。
 それに……。今後どうすると聞いたアッシュに、ルークは即座に返事を返した。多分、ずっと考えていたのだろう。その返事はきっぱりと簡潔で、このまま身分を隠してダアトで暮らせば良いのになどというらちもない誘いをかけさせなかった。もちろんそんなことを言うつもりもなかったけれど……。今ルークが楽しそうにしているのは、これが期間限定の冒険にすぎないからだと、アッシュはわかっているつもりだ。
 きっと、しばらくは淋しく思うだろうが──
 引き止めたいと思ってしまうのにも後ろめたさを感じるほど、二人の身分と生きてきた世界は遠く深く隔たっていた。

「わたしは……たをずっとあいしてきたから……あなたのそば……だけでしあわせで……」

 荷物を抱えて下へ戻ると、特に変わったこともない様子で、固まった血を落としてすっきりした様子のルークが、機嫌良く歌を歌いながら汚れた荷物袋と中身を洗って干したり、拭ったりしていた。
「変わったことはなかったか?」
「たった今、ゾンビが現れたこと以外は」ルークは笑い、アッシュの手の中の荷物を見て、ほっとしたような顔をした。落としてきてしまったことを、気に病んでいたのだろう。
「ありがとうアッシュ。疲れたろ?」
「いや。すぐに見つかったしな」
 ルークはもう一度ありがとうと言ってアッシュに笑いかけ、洗濯に戻った。腰にタオルを巻いていたが、おそらくそれも一度洗ったものなのだろう、濡れてぴったりと小さな尻に張り付いていて、思わず目のやり場に困った。同じ男じゃないかと言い聞かせて無理に視線を戻すと、白い滑らかな首筋や小さな肩、背骨の浮いた背中に、銀朱から金へ鮮やかに色を変える、これまでに一度も見たことのないような美しい濡れ髪が流れている。それは、しっかりした筋肉がついていてさえ性の区別がつき難い、少年期から青年期へと移り変わる端境期にのみ見られるような、あやういバランスの上に成り立つ奇跡の造形物だった。確か神話の中にも、こういう曖昧な性の美神がいたはずだ。男も女も人も神も関係なく、その姿を見たものの愛と欲望を喚起する……。
「アッシュ?」ルークがひょいと振り返った。
「お前もそれ、流してこいよ。お前の着替え、血で汚れてたとこ洗って岩の上に干してあるし。天気いいから、ゆっくり浴びてたらすぐに乾くぜ!」
「あ、ああ……」
 夢から覚めたような表情で瞬きしているアッシュに、ルークは不審そうに首を傾げたが、またすぐに洗濯に戻ってしまった。

「いま わたしはべっせかいにとりのこされている こころをあなたにとらわれたまま……」

 ふ、と目を覚ますと、辺りはすっかり薄暗くなっていた。もうぼんやりと星の瞬きが見える。
 アッシュが拾ってきてくれた荷物の中から、鍛冶屋に貰った服を取り出し、今日の夕飯はどうしようと考えたところまでは憶えていたが、どうやらアッシュが水から上がるのを待っている間に眠ってしまったらしかった。
 地熱のせいかとても温かく、ぼうっとしたまま起き上がり、「アッシュ?」と声をかけると、ほど近い河原の方から同じくぼんやりした返事が返った。アッシュも眠ってしまったのだと笑い、ふらふらと立ち上がって河原に行くと、ルークが洗濯物を広げた平たい大岩の上で、ズボンだけかろうじて身につけた裸のままで転がっている姿が目に入った。
「アッシュも寝ちまったんだな」
「髪、ガチガチで時間かかっちまって。上がったら疲れて眠くなった。悪い、菓子何個か貰ったぞ」
「うん……」
 ふらふらと引き寄せられるように、ルークはアッシュの側にいき、座り込んで覗き込むように見下ろした。固く盛り上がった胸や、反対にぎゅっと締まって割れた腹は、同じ男として憧れずにはいられない。ルークはこれまで何度も著名な彫刻家の作品を鑑賞してきたけれど、これほどまでに見事な裸体像を作り上げたものはいなかったように思う。『理想の肉体』と褒め讃えられたそれらが、所詮貴族の流行に合わせただけのものだったのだと良くわかった。触れたい、という強い欲求が起こり、ルークは素直にそれに従い、そっと手を伸ばして腹に触れた。呼吸に合わせてゆるく上下している筋肉の割れ目を指で辿ってかたちをあらわにしていく。一瞬、ぴくりと身体を強張らせたあと、アッシュが何をやっているんだというように目を開けた。

 濃い、森の色の瞳。まるで魔物のような──澄んでいながら底の見えない、深く、そして強い瞳がルークを射抜く。指は胸から鎖骨、喉仏、顎、唇、鼻を真っ直ぐにすべり、訝しげに細められた目元へ触れた。でも足りない。もっと触れたい、もっと──。
 生まれて初めて押し寄せてきた深い官能の波に、ルークは全く抗うすべを持たなかった。日に焼けた、なめし革のような頬を両手で包み、両の瞼に唇を落とす。鼻の頭を啄み、唇にも……。でも、まだ足りない。もっともっとキスしたい。唇にも、顎にも耳にも喉にも。胸や腹や──それ以外のところにも。
 アッシュの胸にほとんど上体を預け、上と下の唇を交互に甘噛みする。昨日と同じように舌を差し入れ、アッシュのざらりとした口蓋を何度も舐め、舌を絡めて根元をきつく吸い立て、唾液を啜った。固く目を閉じたアッシュの喉の奥から低く唸るような喘ぎが漏れる。その声と、少しずつ熱く、忙しなくなる呼吸に背を押されるように、下唇を舐り、唇でアッシュの顔中を食んだ。手のひら全部ででこぼこした腹筋を撫で、腰骨を撫で、軍服のズボンを押し上げるように固く立ち上がっているものの形を確かめるように撫でる。途端に、軽く押し返されるような力を感じ、ルークは動きを止め、唇を離してアッシュの顔を覗き込んだ。そこに、欲望と困惑とが混じったような複雑な表情を見いだして、ルークは悲しげに眉を下げる。「──どうして? 駄目? ……男は抱けない? それとも……駄目なのはおれ……?」
「そうじゃねえよ……。だけど、俺、何の責任も取ってやれねえだろ……」
「せき、にん……?」
 わからない、とルークはゆるく首を振った。「セックスするのに……責任がいるのか……?」
 アッシュは怒ったような顔をして、尚もルークを押し返そうとしている。
「お前は男娼じゃねえんだから、抱くんなら……いるだろ。でも俺は……」

 意味が飲み込めると同時に、ルークは嗤った。目の前のこの男ではなく、恋もセックスも駆け引きを楽しむゲームのようなものと思っている故郷の貴族たちを。
 ──そして自分を。

Pagination

Utility

Calendar

10 2024.11 12
S M T W T F S
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

About

料理、読んだ本、見た映画、日々のあれこれにお礼の言葉。時々パラレルSSを投下したりも。

Entry Search

Page