パラレルAL 20話
テイルズウィーバーをやってるって聞いた社員さんに、「ルーンの子どもたち〜冬の剣」のボリスが好きで、それでちょっとゲームもやってみたけど馴染めなかったって話をしたら、BGMをクラシック調に演奏したサントラ貸してくれました。ゲーム音楽っぽくなくてかなり好きかもしれない。ゲームはやらないけど、読み返したくなりました。
「ルーンの子どもたち」は八冊とも図書館で借りたんですが、面白かったのは「冬の剣」で「デモニック」はいまいち私には合いませんでした。ごっついハードカバーなので、いつか文庫化したら買おう! と思っていたのですけど、ノベルスサイズの本になったんですよね。……いえ、買ってませんけど。あまりにもあんまりだと思う一巻の表紙>< 密林のレビューに「腐女子(絵師さん)が脳内で作った主人公」というきっつい評価ありましたが、もっともだと思う……! 誰このおんなのこ?? 何この内股……と思いましたもん……。兄×ボ/リ/スですか? それとも師匠×ボ/リ/ス? ボリスは私的にタイプ分けすると攻なんですよね。いえ、普通に女の子相手でいいんですけど。私的イメージは髪の毛おろして青に染めたアッシュみたいな感じだったんです。すごく好きなので欲しいは欲しいんですけど、これを買うくらいなら邪魔になってもハードカバーの方がマシかもしれない。邪魔、ってとこだけが欠点で、表紙は綺麗ですもん。
以下、パラレル。
ここ、一番苦戦しました。あと18話一部消去しました。松明作ってるのに焚火は作れないはないと思う><
ルークの指示に従って三十分ほど歩いたところで、目指す地底湖に到着した。ルークは思ったよりも距離がなかったことにとても驚いていたが、膿んだ足でどれほど無理をしたのかと、心が痛んだ。
ルークに湖を照らすように言いつけてシャツの袖をまくり、片膝を付いて湖を覗き込むと、白いナマズみたいな魚が水底に沈んでいる。やはりどんな場所でも水辺には何か生き物がいるものなのだ。
二人と一緒に降ってきた枯れ木には限界があり、まともに火は使えないが、おろした切り身に塩胡椒して、松明の炎で表面を炙るだけで十分においしいと思えたのは、二人共に空腹が限界に近かったからだろうか。人のいない漆黒の地の底に棲んでいるせいか、警戒心がない上に目も見えないようで、ルークの稚拙な飛礫でも十分戦力になったので、ルークは大喜びしていた。
「魔物の頭なんかより良かったろ」
「うん」
「ナマズはフライにするとうまいんだけどな」
「じゃあ、また獲りにくる?」
「わざわざここまでか? 表にも黒いのがいるぞ」
「おれでも獲れるかな?」
「お前、筋が悪くねえから、少し練習すりゃ俺程度にはなるかもな」
「ほんと? じゃ、練習する。──あ、そこは左から風が来てるぜ」
途中何度か枝分かれしていたものの、ルークの指示する通りにアッシュは歩き続けた。ルークは再びアッシュに負ぶさり、炎の揺らめきで風を確認しながら、軍用のズボンを膝までまくり上げたままの足をぶらぶらさせている。むき出しの脛は毛の一本に至るまで徹底的に処理されていて、ルークがそれなりに鍛えていなければ、男を背負っていると思えないほどだったろう。普段はあまり血筋を意識させないルークだが、そうなると確かに貴族なのだという身分の隔たりを感じた。
「おれ、漁師か猟師に向いてると思わねえ? 罠だってうまく作れるようになったしさ」
「そうだな……」
なあ? というように楽しそうに聞いてくるのに、笑いが漏れた。
「いずれそんなことする機会もなくなるんじゃねえのか。──なあ、お前、国に帰ったらどうするんだ?」
ルークは少しの間考え込み、「とりあえずおれは、王位継承権を放棄したい……。おれを殺して取って行くつもりだろうけど、俺の指に王の印璽がある」とアッシュの目の前に右手を振ってみせた。女のように華奢ではないものの、アッシュに比べるとずいぶんと小さく、細い指に、不釣り合いなほどごつごつした指輪が嵌まっている。
「出陣前に、父上に託されたんだ」そしてふと考え込むように無言になり、ややあって吐息まじりに小さく呟いた。「──ああ。もしかしたら父上は……なにか気付いていらしたのかもな……」
「……お前に後を継いで欲しかったか、お前を守ろうとしたんじゃねえか、親父さん。俺も、意外にお前は面白い王様になりそうでいいんじゃねえかと思うんだが」
ルークはそうかな、と呟いて指輪の嵌まった手をぎゅっと反対の手で握った。
「だけどおれは、王様なんて向いてねえ。だっておれは……自分のことしか考えられないもん、弟と違って……。こんなもの、別に良い王になるのにどうしても必要ってわけじゃない。自分のためだけの印璽を新しく作ればいいとおれは思う。けど、中には印璽を継承しないってだけで弟の即位を認めたくない者もいるだろうし、なんとかこれは弟の手に渡るようにしてやりたいんだ」
「そのあと頼る先はあるのか? そのまま城に残って生活するのは無理だろ? 出来るのか?」
「父上の昔からのご友人を頼ろうと思ってるんだ。おれのことも可愛がって下さったし……。争いの元にはなりたくねーし。孫息子のギンジとも仲いいんだ、おれ。おれの二つ下なんだけど、もし女の子だったら許嫁になるとこだったんだぜ」
それを聞いて、アッシュはふと貴族や王族では早いうちに結婚相手が決まっていることも多いということに気付いた。それはきっと早いうちに後継ぎをもうけておこうという考えからなのだろうか。
「今はいねえのか?」
「いるよ。──いた、かな?」
「なんで過去形なんだよ?」
「王妃になるために育てられたような子なんだ。気位が高い。王位を譲って地方に逃げ落ちるような敗残者には絶対付いてこねーだろ」
背中から、とてもひんやりした声が落ちた。きっと、あの似合わない暗い顔をして笑っているのかも知れないと思うと、胸が塞ぐような思いがする。命を狙われているルークが帰国しても大丈夫なのかとつい聞いてしまったが、もしもそんな顔をさせてしまっているのだとしたら、聞くのではなかった。伴侶になろうというものとすら、そんな冷えた関係しか作れない王侯貴族というものが、アッシュが思っていたほど気楽に、面白おかしく暮らしているわけではないということがわかっても、胸のすくような気分にはなれない。
「……アッシュが思うほどひどいことじゃない。戦場からかつがれて敵国へ来たって、幸せになる女の人もいるんだろ? 父上たちだって……。父上の最初の婚約者は病気で亡くなって、他の貴族の婚約者だった母上が急遽父のところに嫁いだ。周囲の都合で勝手に決められた結婚だったけど、すごく仲良かったってみんなが言う。父は愛妾を一人も置かなかったし、母上が身罷られたあとは誰の進言も全部蹴ってずっとお一人でいらしたから、本当なんだと思う。あの子とも、一緒に暮らしていたらそんな夫婦になれたのかも知れないけど……」
「……」
そうかも知れないが、数ある選択肢の中から一つを選ぶのと、最初から選択肢がそれしかないのでは、やはり違う気がする。もちろん限られた中でなんとか幸福を掴もうとする姿勢はいいことだと思うけれども……。
「なあ、アッシュ。──なんか臭わね?」
物思いにふけっていたアッシュは、突然ルークに声をかけられてはっと顔を上げた。遅ればせながら腐った卵のようなつんとする臭いが鼻を突く。「……これ、硫黄の臭いだな」
「ああ……これが。なら近くに温泉でもあるのかな?」
「だといいな。温度が高けりゃ空気まで温かいし、臭いで魔物も寄ってこねえし、野宿に最適かもしれねえ」
確かに、周囲の温度までじりじりと温かくなってきたような気がする。じんわりと汗をかいてくると、むせ返るような血の臭いが立ち上り、アッシュがげんなりした声をだした。
「──臭え!」
「風呂に入りたいな、確かに」
背負われているルークの声も心無しか力ない。しばらく言葉も無く風の源を探して歩いていたが、ふとアッシュが立ち止まった。「水の音がする」
「え。ほんと?」
「外、近えぞ」
アッシュの足取りにも声にも力が戻った。二人の期待感が膨らんで爆発しそうになったころ、真っ直ぐいった先の下の方に、小さな白い光が見えた。
「一人ずつ這って行けば、広げなくても出られそうだな……。ちょっと待ってろ、確かめてくる」
出た先に危険が無いか、アッシュは慎重に這って進み、狭い穴を抜けた先に所々に湯気の立つ白い河原があるのを確認して這い出、奥に向かって声をかける。「外だ。出ていいぞ。足、大丈夫か?」
「足首に力かかんねーから、平気だ。火、受け取って」
後ろからついてきていたらしく、ぬっと手首から先が見え、アッシュが松明を受け取って片手でルークを引っ張り出した。
「ぎゃっ、ひでえ!」
外の景色を堪能する前に、明るいところで改めてアッシュを見たルークはおかしな悲鳴を上げた。まるで立っている死体、といった態で、これももうどうにもならないほど上から下まで血で真っ黒になっている。思わず仰け反っているルークを、アッシュは軽く口笛を吹いてにやにやと見つめた。「お前こそ、どこの殺人鬼かっての」
周囲を見回すと、浅く狭い川、白い石ばかりの広く平らな河原、そして左右に切り立った崖がある。
「ここ、どこ? ルート結構逸れちまったんじゃ?」
「ああ……大体居場所がわかった。ずいぶん歩かされたが、落ちたところからそう遠くもねえな」と上を見上げ、ずいぶん久しぶりに思える強い日の光に目を細めた。
「水、浴びていいかな? 石鹸、お前の荷物の方だよな」
川とアッシュを見比べ、そわそわしているルークに肩をすくめ、アッシュは周囲を見回した。「そこらへん歩いて探してみたら、意外に風呂っぽい温度のところがあるかも知れないぜ。俺、お前の荷物探してくる。剣も持ってるし、危険はねえと思うが……。何かあったら俺が戻るまで一人でなんとか切り抜けてくれ。すぐに戻る」
「……荷物なんか……!」
「着替え、いるだろう。薬も金も半分はお前が持ってたんだし、お前のキラキラしたお高そうな軍服だって入ってんだ。ちょっと行ってくる、いい子で待ってろよ!」
「アッシュ!!」
憤慨して声を張り上げたルークだが、アッシュはちょいちょいと手を振って、さっさと張り出した崖の向こうに姿を消してしまった。
「ちぇっ。やっぱしっかりしてる……」ルークは急にひとりぼっちになった心細さを誤摩化すようにちゃぷちゃぷと川のあちこちで温度を確かめながら独りごちた。「……あいつ、おれのこと一体いくつだって思ってるんだろう……」