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パラレルAL 16話

オリジナル小説で大好きなサイト様は消失が激しく、毎度毎度放置かな……と思わせておいてそうではないを繰り返しているんですが、完全なる放置でないと断言出来るのは、そのサイトがかなり頻繁に改装をしているからです。
これでそのサイトにハマった! と言える看板小説は、以前は結構話数が進んでたんですが、書き上がる前に修正に入ってしまわれて、読み返すことも出来ない有様です。それも一度目ではなく……。多分、高村薫さんと一緒で、読み返せば読み返すほど書き直したくなる難儀な管理人さんなんでしょうね……。

そんな私もふと気付くと、小説を何にも書かずにプチ改装に勤しんでおります。
現実逃避の手段なのだと今日悟りました。

以下、続きです。

1122(いい夫婦の日、忘れてました>< アシュにょたルク夫婦でなんか描くなりすれば良かったですね^^;
なぎさ様、お返事は拍手横のResで致しますね。

 荷物袋の中を丁寧に整頓したあと、ルークは焚火の向こう側で丸くなっているアッシュを見つめた。
 不寝番を交替したあともなかなか眠れない様子で、具合の良い体勢を探してしばらくごそごそしていたようだが、どんなときでも休めるときには休まなければならないという兵士として──剣士として骨の髄まで染み付いた習性が、彼を悩ませていたものから一時彼を解放したようだ。
 彼をずっと悩ませているものが自分であることなど、ルークはとっくに気付いていた。自分がアッシュに好意を抱いているように、アッシュが自分に好意を抱いてくれていることも。それはそう思うだけで心が熱くなり、思わず叫び出したいくらいに嬉しいことなのだけれども、アッシュはこれ以上、自分のような生きた人形に拘ってはいけないと思う。一時の衝動に駆られて得るはずのものを台無しにするのは、アッシュにとっても、あの陽気で優しい彼の家族にとっても良くないことだ。何かとぐずぐず時間を稼ごうとするアッシュに対して、王都を早く見てみたくてはしゃぐ少年を演じながら、ルークは焦燥に駆られるように早く──少しでも早く、王都へと急かす。

 枯れ枝を一本焚火に足して、ルークは抱え込んだ膝に頬を寄せた。ちろちろと踊る炎をしばらく見つめ、身じろいで右の手のひらを目の前にかざす。
 昼間、おっくうそうに山道を登るアッシュを急がせようと、手を掴んだ。アッシュの方からは振り払われなかったので、それをいいことにルークは引っ張るフリをしてずっと手を繫いでいたのだ。

 思い出すとうずうずと喜びがこみ上げてきて、手のひらをじっと見つめた。あまり大きくもないくせに、女性ほど華奢でもない手。いつまでも『男』になりきらない少年のような手。いつも心密かに疎んじていたその手が、今日はとても尊いもののように思える。まるで心のありさまをあらわすようにひんやりとしたルークの手に比べて、アッシュの手は切なくなるほどに温かくて、一瞬は驚いたもののすぐに身体の芯をぎゅうっと掴まれるような、苦しく、でも嬉しくて幸せな気持ちになったものだった。いつかルークの身体が打ち捨てられて野に朽ちてゆく前に、この手だけを切り落として、どこか景色の良いところに埋めることができたらいいのに。

 しばらくそんな気持ちに浸ってぼんやり手を見つめていたのだが、指に一つだけ嵌まっている指輪を見て、もう一つ指輪を持っていたことを思い出した。亡き母が、父から贈られた指輪。父はそれを生前の王太后から伴侶となるものに渡すようにと贈られた。代々の王妃から王妃へと渡ってゆくその指輪を、ルークは去年の誕生日に父からこっそりと贈られた。
 ルークは胸元に手を入れて、細い鎖に通したそれを取り出して見つめた。妃への贈り物だから、それはとても小さく、ルークの小指でちょうど良いくらいだ。アッシュの指になど到底通るまい。だが金の質も、ちりばめられたエメラルドもダイヤもさほど大きくはないが最高級のものだ。売れば大きな金額になる、それが一番大事なことだった。

 ルークはこれをアッシュに贈りたいと考えた。自分にはもう必要のないものだし、好きになった最初で最後の人に贈ることを、きっと母上は許して下さるのではないだろうか。

 熱に浮かされたようにぼんやりそんなことを考えていた意識の端に、何かちりっと嫌な気配がかすめ、ルークは瞬時に意識を切り替えた。柄に手をかけ、荷物を引き寄せながら周囲を見回す。
「アッシュ!」
 ひそめた声で呼びかけると同時にアッシュも跳ね起き、焚火から燃える枝を取って周囲を確認しようとした。
「囲まれてる?」
「いや……まだ少し遠い。今のうちに移動しよう」
「火、あった方がいいんじゃね?」
「焚火の近くにいると、夜目がきかねえ」
「あー……」

 二人は深夜に再び移動を開始した。あまり眠っていないアッシュのことがルークは気になったが、アッシュの顔は厳しく引き締まり、眠気の残滓など残っていない様子だ。
 むうっとするような獣の臭いが漂っている。もちろん実際に鼻につくほどの距離ではないのだが、周囲に満ちた悪意としかいえないものが、敵がただの獣ではなく、魔物だと知らしめた。
「魔物が増えたって言ってたなそういや」
「戦域の拡大で魔物も住処を追われてんのかな?」
「そうなると所詮自業自得ってわけだ」
「アッシュが、下の人たちが戦争を始めたわけじゃないじゃん」
「人間として、ってことだ──っち、気付かれたぞ。走れ、ここじゃ木が邪魔して満足に剣が振れねえ」
 恐怖を感じても仕方がないはずだったが、何故か恐怖は沸いてこなかった。隣にはアッシュがいて、そのアッシュはちっとも焦っているように見えないし、恐れてもいない様子なのだから、ルークが恐怖を感じるようなものは何一つない。むしろ戦いの予感に気分は高揚しているようだった。
 じりじりと足音が聞こえるようになり、時折振り返り、勇み足の過ぎるものを切り捨ててなおひた走る。切った魔物に数頭が群がって行くのを気配で感じながら、尚も走っていると。唐突に広く開けた場所に出た。白く煌々と輝く月の光が暗闇に慣れた目に眩しく、一瞬たたらを踏む。
「こんなに開けてなくて良かったんだが……。ツイてねえな」
 そうぼやきながら押し寄せる魔物に向き直るアッシュの顔は、言葉とは裏腹に楽しげな笑みを浮かべている。アッシュは敵と対峙したときに見せる顔が一番色っぽい──荒々しく獰猛な男の色気に満ちているとルークは思い、一瞬見蕩れてしまった。集中しろと叱られて我に返る。
 こんなときにずいぶん余裕があるもんだなあと半ば人ごとのようにルークは思い、アッシュの背中に続いて魔物の群れに飛び込んでいった。

 魔物は動物よりも知能が高い。敏感なものは二人の人間よりも余程容易い獲物──つまり倒された仲間で飢えを満たすことを選択した。アッシュもルーク以外のものがいないせいか、遠慮なくあの力を使ってまとめて音素に変えている。残っていた数頭が仲間の死骸を銜えて逃げ去っていき、ルークはほっと息をついて額の汗を拭った。アッシュはまだ殺気を緩めることなく周囲を警戒していたのに、思えばルークは少し不用心だったかもしれない。

 突然、殺したと思った魔物が跳ね起きると、思い切りルークの足首に噛み付いた。頑丈なブーツをはいていなかったら足ごと持って行かれたのではと思うような衝撃にルークは悲鳴をあげ、足を振りながら数歩後退した。
 ──そこには地面がなかった。
「ルーク!!」

 生い茂った草や木々の根で覆われていた穴に落ちたと気付いたのは、そこを踏み抜いた直後のことだ。
 そこには、まるで奈落の底のような深い闇があった。

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料理、読んだ本、見た映画、日々のあれこれにお礼の言葉。時々パラレルSSを投下したりも。

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