バニシング・ツイン 32

「ではまず大爆発のことから話します」
 ジェイドは全員の顔を見渡して、特に気負ったようすもなく説明をはじめた。
「人体は元素で構成されています。元素同士を結びつけるのが音素であり、その音素はそれぞれ異なる振動数を持ちます。本来一つとして同じ振動数を持つものはありません。ですから通常、被験者とレプリカは同位体とは言わない。ルークはこの音素振動数がすべて完全に被験者と一致している大変希有な例にあたります。これを同位体といいます。この音素が集合体になったとき──この例では人体ですね、第一音素から第六音素までの比率によって、それぞれの振動数とは違う、集合体としての固有の振動数を持つようになるのですが、この固有音素振動数が完全一致しているものを、特に完全同位体と呼びます。大爆発はこの完全同位体間でのみ起こりうる現象で、同位体や通常の被験者、レプリカ間では起こりません。──ここまでは皆さんもご存知ですね」
 全員がうなずいた。
 こう改めて聞けば聞くほど、これがいかに希有な例なのか思い知らされる。これが偶然ではなく、ローレライがしでかしたことなのだと知った今、ルークの気持ちはより複雑になった。一体、どの程度まで『アッシュと同じ』であることを要求されるのだろう? もしもルークが単なるレプリカであったなら、あるいはただの同位体であったなら──これだって稀なことなんだろうけれど──超振動の力を持つことが、はたしてあったのか、なかったのか。
 ローレライは、そのようにして生まれたレプリカと被験者に、どのような末路が待っているか、知っていただろうか。
「つまり固有音素振動数がわずかでも変えられれば、大爆発は避けられるということです。これには人体を構成する音素の比率を変更することが必要になります」
「そんなことが出来たとして、ルークの身体になにか悪影響はないんでしょうか?」
 不安そうに問いかけるティアに、ジェイドは少し考えるそぶりを見せた。
「同位体でないにも関わらず、被験者とレプリカの外見はよく似ています。ですから多少の変更を加えても、外見にはそれほど影響しないと思います。問題はそうでない部分で……そうですね、身体が虚弱になったり、何らかの内臓疾患を患ったり、そういうことが起こるかも知れません。それならまだ良い方で、悪くすれば記憶の一部がなくなったり、性格が変わってしまったり、そういうことが起こる可能性もあります。ですが大爆発を起こすよりはましだと思いますよ。時間の猶予さえできれば、なんとかなる問題も多い」
 しばらくは、それぞれがジェイドの話を吟味するために考え込み、ジェイドとシュウは奇妙な静けさのなか、互いに緊張感を秘めたまま話が浸透するのを待っていた。
「──確かに、一番の問題は時間がないことだもんな。でも、そんなことができるのかい?」
「理論はできています。もうすでに新しい人体の設計図──私たちは仮に『総譜』と呼んでいますが、それをおこし、そのとおりに演奏させる指揮者、というとわかりやすいでしょうか、そういう役割を持った音機関の開発に着手しています」
 ガイの問いに対するジェイドの返答に、アッシュ以外のものたちはぱっと明るい顔をした。そう簡単に解決できることではないと誰もが思っていたのに、事態は思ったより早く進展している。それも、良い方に。
「すげーな。おれ、実はまだなんにも進展してないだろうって思ってた」
「これは見損なわれたものですねえ」ジェイドは言葉通りにがっかりした表情を作ってみせたが、すぐにろくでもないことを思い出したような渋い顔をした。「これについてはまあ。──似たような機能の音機関がすでにあったのでね」

《なーっはっはっはっ! この天才、薔薇のディスト様が造り上げた『眠れ良い子のディストカプセル』があったからこそこのような短期間での開発がなったのです! 感謝なさい!!》
《いやまだ完成しとらんから》

 モニターで部屋の様子をうかがっていたのであろうディストの高らかで耳障りな笑い声と、たしなめるようなスピノザの声が部屋中に殷々とこだまする。部屋に満ちていた緊張感が一気に霧散した。

《一日の三分の一を睡眠にとられる時代はもう過去のもの! これを使用すれば皆さんの作業効「三十分程度中に入って眠っただけで疲れも眠気もすっかり取れるという……まあ、今の我々にとってはありがたい代物なのですよ。彼は発想力だけはずば抜けて良いですからねえ。あの愉快なヒトガタ?譜業はともかく」
 話がそれて行くのを恐れたか、横合いからジェイドの声が割って入る。
 元素をつなぐ一つ一つの音素が集合体になって奏でる旋律は、疲労や体調不良、寝不足などで少しずつ音階が乱れてくる。『眠れ良い子のディストカプセル』がその乱れを短時間で正しく調律してくれるものであるとジェイドは心底面白くなさそうに説明した。これがあるからこそ、大爆発回避のための道が早く見つかったのだと。「そうですね、それを元にした新しい音機関は、調律というより誘導というほうがより近いかも知れません。うまい言葉が見つかりませんので、我々は暫定的にそれを音素誘導器、と呼んでいます」
「ティアさんの身体は降下作業のたびにパッセージリングを通して大量の第七音素を取り込んでいます。パッセージリングは創世歴の音機関ですから、大量の第七音素を含んでいるはず。それも、高度に汚染された」
 肩をすくめるジェイドのあとを、唯一の医者であるシュウが引き取った。ティアの症状を説明するシュウの声は、先ほどの冷たい反駁の声と同一人物とは思えないほど穏やかだ。
「障気中毒ということですわね?」
「ええ」シュウはおそるおそる問いかけたナタリアに、厳しく引き締まりがちな顔をむりやりゆるめて頷いた。「それは排出されずに蓄積されていき、内臓器官を極端に弱めます。このままいけば、命の保証はありません」
「でもその音機関は、それが治せるってものなんだろう?」
 ガイがジェイドに確認するように視線を向けた。ジェイドはわずかに眉を寄せ、無言のままガイを見つめ返したあと、音素灯の照り返しで内側を見せずに光る眼鏡を押し上げ、アッシュに向きなおった。
「ええ。ティアの音素は障気で変質したわけではなく、正常な音素の間に汚染された音素を付着させている状態です。要はその不必要な音素を取り除いてやればいいだけですから、大爆発回避などより話ははるかに簡単だ」

「……俺には無理だ」

 全員がジェイドの話を一言も聞き漏らさないよう集中していて、どこか遠くでなにかの音機関が駆動している断続的な音のほかはなんの物音もしなかった。
 その部屋に、アッシュのものとは思えないような、怯えて震えた声が落ち、ルークはジェイドに習ってアッシュに目を向けた。
「やはりあなたは察しが早い」
「バルフォア博士」
 ほとんど憐れむような笑みを浮かべるジェイドに、シュウが咎めるような声をあげる。
「あなたが八歳からおよそ二年間、ここで超振動の研究に『協力』していたあいだの研究資料は、残っていたものはすべて目を通させていただきましたし、音譜盤に保存されていた映像記録も拝見しました。残念ながら、この七年の間に多くが散逸していて全部ではないのですがね」
 ジェイドが言うのに、ナタリアとガイがいぶかしげな顔をアッシュに向けた。なにか思い当たることがあったのか、ガイがはっと目を見ひらく傍で、ナタリアはなんのことかわからないというように戸惑っている。
 アッシュはなにも答えなかった。紙よりも白く漂白された顔からはすべての感情という感情が削ぎ落とされていて、もともと整った顔のせいもあり、まるで出来の悪い人形のように妙に無機質に見える。ジェイドに暗い眼差しを向けながら、シュウが気づかうようにアッシュの背に手を当てた。
「──それで?」
「残っている資料では確認出来ませんでしたが、有機物の成功例はありますか?」
 アッシュが力なく首を横に振る。
「なるほど」
 話がまったく見えず、ルークは思わず周囲をうかがった。彼らの表情から、自分と同じく話について行けていないのがわかったが、この場合なんのなぐさめにもならない。
 だが『八歳から二年間』『超振動』というキーワードから、そしてジェイドが『協力』という単語をわずかに強調したことから、ルークに対しては一度も行なわれなかった実験のことについて語られているのはわかった。
 アッシュの身体を壮絶なまでにいろどる傷跡のいくつかは、おそらくその結果残ったものだろう。一体、どれほどの苦痛を耐えなければならなかったのか、アッシュは決してルークにはそれを話そうとしなかったし、ルークも一度も聞かなかった。聞いて欲しくないと思っているように感じたからだ。今だって、その顔色を見るだけでアッシュがその話を苦痛に感じているのがわかる。ナタリアの様子を見るかぎり、小さなアッシュは心の支えであった婚約者にすら痛みを感じさせなかったのだろう。当時のアッシュにとっては、ナタリアもガイも弱みをさらせる相手ではなかったということか。それとも、子どもながらにも男としての矜持があったからなのだろうか。アッシュの誇り高さを思えば、それはとても彼らしい気がする。苦痛に弱いルークならば、一も二もなくナタリアやガイに泣きついていただろうに。
 だがそれほどまでに隠し通そうとしたアッシュの苦しみは、四人の研究者たちによって暴かれてしまった。その必要が本当にあったのか、話についていけないルークにはわからない。
「その前段階で力の膨張を停止する訓練に切り替えられたのは、あなたの体力の問題ですか?」
 ジェイドから続けてなされた質問にアッシュの返答はなかった。ジェイドはアッシュの顔を探るように見つめ、「資材切れ、ということですかね」と呟いて、さらに質問を続けた。
「ルークならば可能だと思いますか?」

 それを聞いた瞬間、アッシュの肩がびくりと跳ねた。驚愕に目が見ひらかれ、血の気の失せた顔がみるみる怒りでどす黒く染まっていき、唇が震える。
「別にあなたがやらなくてはならないというつもりはありません」
「まさか……っ!」
 突然自分の名前が挙げられたこと、アッシュが激昂してジェイドに掴みかかり、彼の襟首を締め上げたことに驚いて、思わずルークは止めようとアッシュの腕を掴んだが、アッシュはルークの顔を見もせずに強くそれを振り払った。ケテルブルクで想いが通じ合ってから、アッシュがルークを振り払ったことなどない。締め上げられながらジェイドが首をわずかに動かして、もう一度アッシュに触れる勇気もなく立ちすくむルークに視線を向けた。
「ええ、そのまさかですよ。私と洟垂れは、それも考慮に入れています」
「私とスピノザ博士は、過激な方法に納得がいっていません。もう少し研究を進めて、身につけるものや埋め込み式、あるいは飲み薬の開発に賭けるべきだと考えています」
 シュウが労りをこめた手でジェイドの胸からアッシュの手を外し、肩を抱えるようにして二人を引き離した。
「音機関はいつか壊れるものです。薬はなんらかの事情で飲めないこと、紛失することもありえます。いずれの場合にも、すぐにフォローができる環境にないこともまたありえます。──なにより、残された時間は多くない」
「すまない、よく話が……」
 頭をかきながら苦笑するガイを、アッシュが一度睨みあげ、ふいと目を逸らす。
「……頼む。話は俺が聞く。あとの者は休ませてやってくれないか……」
「待って。私は話を聞かなければならないはずよ、私は当事者だわ」
「ことがことだから、なにかあったとき互いにフォローしあうためにも、隠しごとはなるべくなしにして欲しいんだが……」
 部外者として排除されそうになっているのを感じ取り、ティアが決然と遮った。次いでガイがのんびりと発言したが、それはある意味真理をついており、ナタリア、アニスも大きく頷いた。

 アッシュはおそらく自分で思っているよりもはるかに押しに弱い。舌打ちしながらも結局は受け入れてくれるだろうとルークは思っていたのに、今回に限ってアッシュは簡単には折れなかった。誰が聞いてもガイの言い分が正しいのはわかるだろうに、頑固に首を横に振り続ける。シュウはもとよりジェイドですら、アッシュの希望を優先したいようで、黙って結論が出るのを待っていた。
 しばらく経って、アッシュの結論を待って別室で待機していたらしいスピノザが合流し、少しのあいだその話し合いを聞いていたが、どうやら事態はなにも変化しないどころか膠着してしまったと気付いたスピノザがとうとう横から口を出した。
「さきほどバルフォア博士が、アッシュが超振動の研究のためにここべルケンドで協力をしていたと言われたがの、実体は生体実験にすぎん。アッシュが誰にも知られたくないと思うのは当然のことじゃ、特にルークやナタリア姫にはのう」
「黙れスピノザ!!」
「お待ちになって!」激昂してスピノザに詰め寄るアッシュを、ナタリアがするどく制止した。「生体実験、わたくしには知られたくない、そのことだけでおおよその予想がつきますわ。超振動という力をキムラスカが気にしないでいられるはずありませんのに、何も気付かなかったわたくしは愚かです。でも、いずれはわたくしも為政者になる。あなたを苦しめたものになり、苦しめる側にまわります。我が国の暗部を、そのわたくしがなにも知らないでは済まされませんのよ」
「……わしもその通りじゃと思う。アッシュ」
「待ってくれよ」苦痛に満ちたアッシュの顔を見ていられず、ルークは仲間たちの言うことに内心同意しながらも、思わず反対の声を上げた。「アッシュがつらい思いすんの、おれ、嫌だ。なにかほかの方法とか……」
「時間をかければ、シュウ医師やスピノザ博士の提唱する方法も見つかるかもしれません。ですが、それまで大爆発が待ってくれますかね? 外殻大地降下作戦はまだ終わっていません。ティアの身体はどうします?」
「……っ」
 ルークは唇を噛みしめてうつむいた。おれは、いい。例えアッシュと同化して存在がないものとなっても。アッシュは一緒に死んでくれると約束してくれた。ルーク以外の誰のものにもならないと誓ってくれた。確かに記憶を見られるのはいろいろと恥ずかしい。つらい記憶もアッシュに余計なものをしょい込ませてしまいそうで申し訳ないと思う。それでも、アッシュが今以上に苦しむことがないのなら、それでいいと思える。
 でも、ティアは……。
「──必要のないことまで話す気はありませんよ。我々はティアの障気中毒の治療と大爆発の回避のために、我々が考えた方法が使えるかどうかを知りたいだけです」ジェイドが彼らしくもない気遣いをみせる。そういうことは日頃ないことなだけに、わけもなく不吉な予感を感じさせたが、アッシュは眉を寄せて目を閉じ、何かを思い切るように大きく息をはいた。
「アッシュ」
「……いいんだ。だが、お前にも厳しい話になる。覚悟がいるぞ」
 アッシュがルークからわずかに目を逸らしたまま、どこか途方に暮れたように念を押してくる。だが打つ手がないなら死ぬ覚悟をしなければならないのに、それ以上のなにを覚悟しろというのかルークにはわからない。わからないまま、ルークは曖昧に頷いた。
 それを了承の意と取ったジェイドが、質問を再開した。
「キムラスカを出てから、自分の意志で力は数回使った。いずれも無機物を破壊するためだった。力は膨らもうとするが、引き時がわかるようになったからその程度ならまず安定して使える。が……」
 アッシュは観念したようにおとなしく答え、ジェイドは頷いてまた何やらメモをとり、ルークに向き直った。「細かい制御を試みた回数ではルークの方に軍配があがりますか。タタル渓谷はどうでしたか、ルーク」
「あ……うん。うん、それが、ほとんど集中力がいらない感じだったんだ。いつもみたいに疲れなかったし、制御も利いた。狙った通りのところに寸分違わず線が引けた感じ」
 ジェイドが顔を上げ、まじまじとルークを見つめた。「ほう……。それはあとで詳しく調べたいですね」
「うん。──なあ、焦らさないで教えてくれよ。アッシュとおれに、なにをしろって? おれに出来ることなら、なんでもするから言ってくれよジェイド」
「人体の分解と再構築ですよ」

 今日の夕飯はなにジェイド? 親子丼ですよ、というように、答えは淡々と返された。あるいはそう装っていたのかも知れないが……。

「……へっ?」
 それが一体どういうことなのか、ルークはすぐに理解出来なかった。素っ頓狂な返答を返し、まじまじとジェイドを見つめる。
「ティアを構成する元素をつなぐ、正常な音素の振動数をすべてこちらで記録します。『総譜』を作るのです。そして、超振動でティアを分解し、『総譜』通りに再構築していただきます。その際、『総譜』にない音は再構築されないよう、音機関で誘導します」
「……分解」あっけにとられたまま表情のないジェイドの顔を見つめる。「それって……それって、どういうことだ? ティアを殺せってこと?」
「再構築出来なければ、そうなりますねえ」
「ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれよ! そんなこと、できる──のか?」ガイがジェイドとルークの間に身体を割り込ませて叫んだ。
「超振動はそれを可能にする力ですよ」
「じゃ、音素のバランスを変えるって言うのは?!」
「ええ、どちらかに相手を分解し、再構築してもらいます。ルークがアッシュを分解するならば、六種類の音素のバランスを変更して再構築します。ルークは第七音素のみで元素を接続していますから、その場合は一部第七音素以外の音素へ入れ替えを行わなければなりません」
 第七音素以外の音素が混じる。それは、レプリカと──ルークと言えるのだろうか。
「かつて、第七音素を覗く六種類の音素で作成したレプリカは失敗作でした。あるゆる能力が被験者を凌駕していましたが、音素が一部欠落していたせいで破壊願望の塊のように凶暴で残忍なレプリカになりました。ですがルークの音素はほとんどが第七音素ですし、その問題点は解決出来ると考えています」
 ルークはジェイドから目が離せないまま、よろけるようにアッシュの傍へより腕を掴んだ。今度は振り払われなかった。 
「別にレプリカであるルークの方を必ずしも分解すると決めつける必要などありません。バランスどころか元々ない音素を構成するのですから面倒も多いですし、先ほど聞いたローレライの解放とやらにルークが望まれているのなら、万が一のことを考えた場合やはりルークを残しておいた方がいいような気もしますしね。でも力の制御ができるほうでいいのですよ。そのために、どのくらいの制御力があるのか、実際に実験させていただきたいのですが、」
「待ってくれ」アッシュがジェイドの話を遮った。「……レプリカにはやらせないでくれ。出来るようになるまで、俺がやるから」
「いきなり有機物ではじめるつもりはないですし、そんなに悲壮な決意は必要ないんですがねえ」仕方ないと思ったのか、それとも呆れたのか、ジェイドが肩をすくめた。では、と口を開いたところで、ナタリアがすすみ出た。
「──アッシュ。それではルークも納得がいくはずありませんわ。わたくしに気を使わずとも結構です。はっきりおっしゃって」
 アッシュがナタリアにのろのろと視線を向けた。苦痛、怒り、悲しみ、憐れみ? ルークはアッシュがこんなに暗い、陰惨なほどの凄みを込めた視線をナタリアに向けるところなど初めてみた。ナタリア自身もそうだったのだろう。ひるみそうになる自分を必死で叱咤して、それをなんとか真っ向から受け止めている。
「──それはご命令ですか、殿下」
 アッシュの痛烈な皮肉に、ナタリアは唇を噛み締めて睨み返した。
「そうするまえに、話して欲しいとお願いしているのです、アッシュ」

「罪人を」アッシュは舌打ちして顔をそらし、かすれた声を絞り出した。「人を、分解した。死刑囚から身寄りのないこそ泥まで──もしかしたら罪人ではないものもいたかもしれねえが……。再構築までが実験の目的だったが、成功したことは……ない。一度も。──それをレプリカにやらせたくない……」

 人はあまりの恐怖や緊張に晒されると、かえって笑いたくなってしまうものなのだと、ルークは初めて知った。口元が引きつるように持ち上がり、ひくひく痙攣しているのが自分でわかった。


あれっ? と思われた方も多いと思います。森川の哀れな頭では、完全同位体と同位体の違いだの固有音素振動数のなんたるかがいまだ理解出来ていません。どっかに書いてあったりしないかなー……。この話は「こういうことかしら」という想像の上に書いちゃっててもう変更出来ないんですけど(話が更に破綻していく)こういうことだよ、と正しい設定をご存知の方、ぜひソース込みでお教え下さりませ。別の話で活かします!(2012.07.01)