ルークとアッシュには、劣化によるもののほか、利き手の違いによる腕の太さの違いを初めとして、生活環境や食生活、癖、性格の違いによる後天的な差異が数多くある。
今ルークが一生懸命舌を這わせている部分もその一つで、やはりアッシュとルークでは色も形状も、直径や長さに至るまでが異なっていた。共通点といえば、着ているものを互いが剥ぎ取るころには、そこが柔やわと下を向いていることがないことくらいかもしれない。
ルークはいつも性器を硬く、大きくするのに苦労していた。女たちがルークのものを口に含んで一生懸命大きくしようと試みているときに、ルークはこれが終わったらガイと何をして遊ぼうかと考えていることが多かったし、反応の薄いルークに女たちが苛立ちを感じて来たのがわかると、身体はますます冷たく醒めたものだ。ルークはあのころ、「こいつらが巧くできないせいだ。おれのせいじゃない」と思っていたけれど、節くれ立ったアッシュの硬い指がすっとうなじを撫でるだけで、そこは硬く、熱を孕んで行くのだから、結局のところルークが触れられて嬉しいと思うかどうかの問題だったのだ。
(あの人のやりかたはこんなんじゃなかったっけ……?)
思い出そうとすると、どうしても嫌な思い出も付いてくる、これまで記憶の彼方に押しやっていたあれこれ。その中で唯一とも言える良い思い出の「彼女」は、受け入れ側のレッスンを受けていないルークに取って、今や心の師匠だった。
そうでなくてもこれは大好きなアッシュの身体の一部であり、ルークの胎内に入って幸せな気持ちにしてくれるものだ。そのうえルークの腹の中にファブレ家の希望をもたらしてくれる大切な器官でもある。記憶も感覚もすでに遠い中、ルークは手も口も唾液でべとべとにしながら夢中で口淫に没頭していた。開きっぱなしの頬と唇の端は痛むし、顎もがくがくで気を抜くと歯を当ててしまいそうになるけれど、不思議と嫌気が差してきたりはしない。それどころか、くっきりした段差やごつごつと浮いた筋や血管で口の中全体を擦られるたび、何故かルークまで気持ちよくなってきて、触るまでもなく性器が濡れそぼってくるのがわかる。
アッシュのものはいっかな萎えることなく固くそそり立っているし、ぎゅっと目を閉じて眉を寄せた顔や、荒く早い呼吸などから見ても感じてくれているのは間違いないようだ。少しもったいないけれど、「彼女」が美味しそうに飲んでいたものだし、一度くらいは味わってみたい。これだけたくさんしているのだから、一回くらいは構わないだろうとルークは思うのだが、期待に反して今日も途中で止めさせられてしまった。無駄な真似を嫌うアッシュの責任感の強さが、ルークはたまに寂しい。
引き起こされて仰向けにされると、アッシュはルークの耳朶やほとんど毛の生えない脇の下、硬く凝った乳首を感じすぎてぼろぼろになるまで舐めたり吸ったり時に齧ったりする。濡れてどろどろになった性器には自分で触れることさえ許されず、足の付け根やぎゅっと硬くなった小ぶりの双珠、アッシュが欲しくて疼いている後孔の入り口だけを意地悪く舐め回した。ルークが泣き叫びながら触れてもらえない性器から白濁を噴き上げると、ようやくアッシュはルークに四肢をつかせ、ぬるっとした潤滑剤を塗り込めて挿入の準備を初めてくれる。手のひらで少し暖めてから塗ってくれているらしく、冷たさに身を竦めるようなことはない。
「──んっ、おれ、最初のが良かったなあ……」
別に、今使われているものが気に入らなかったわけじゃない。ただ、あっちのほうが気持ちよかったなあという程度の呟きだった。
「あれはもうねえし、二度と使わねえ!」
語気の強さに驚いてルークは身体を震わせ、怖々と振り向いてアッシュの顔色を窺った。目に見えて顔色が変わっているのを見てひどく驚いたが、その後じわじわと喜びがこみ上げてきた。
気色ばむアッシュの様子で、あれは良くないものだったのだろうということを、ルークもさすがに悟った。
良くない、とわかっているものを最初は気にせずルークに使ったのだとしても、途中でそれを使いたくないと思ってくれた、その気持ちの変化が嬉しかったのだ。
アッシュが、もうどうしようもなく好きだ。
だからどうしても、アッシュの期待に答えたい。アッシュの喜ぶ顔が見たい。
──でも、ルークの期待に反して、望むような変化は何一つ起こらない。
このままでいくと、もしかしたらルークは嫌でもアッシュを解放してやらなければならなくなるのかも知れない。アッシュにはまだナタリアがいて……ノワールも……もしかしたらもっともっと大勢、彼の望みを叶えるための候補がいるはずだ。ルークが屋敷にいた時だって、名前を憶える気が失せるほど入れ替わり立ち代わり来ていたのだし。
だけどルークは、もうコレをアッシュ以外の人としたいとは絶対に思わないし、アッシュにもルーク以外の人として欲しくなかった。アッシュがすべてを体内に収めたときに小さく漏らす吐息の熱さが、達した瞬間に噛み殺しきれずに漏れ出る唸り声が、どれほどルークを幸せな気分にしてくれるか……。ナタリアやノワール、自分ではないどこかの誰かが身体の奥までアッシュを受け入れ、激しく突かれるたびに手のひらの下に律動する筋肉のうねりを感じ、腿でアッシュの腰を締め付けながら達してその汗と精を浴びるのかと思うだけで気が狂いそうになる。あの女たちがルークを共有していたように、誰かとアッシュを共有するなど考えられない。ましてや、奪われることなど耐えられるわけがない。
優しいアッシュ。
ルークがアッシュの望みを叶えようと一生懸命なのを知ってか知らずか、彼は全く達せられない目的の責任をルークに被せてなじってきたりはしない。
女たちの一人はなかなか目的が達せられないと知り、ルークを責めた。寝室には他の家人の目もなく、諌めるものもいないのをいいことに、「彼女」たちのうち誰一人として目的が達成出来ないのは、あなたのせいだと泣きながら喚かれて、初めてルークは定期的に行われるその行為に、なんの意図があったのかを知った──そんなことを、ルークは聞かされていなかったから。
責められればカッとなるもので、ルークは傲慢にもおれのせいじゃないと「彼女」を素っ裸のまま部屋の外に放り出した。それきり二度と会うことはなかった。ルークの溜飲は下がったが、父がそれをどう思ったのかと思うと、父に会うのも憂鬱になった。幸いにもその件で父がルークに何か言ってくることはなかったが、そのことでルークは逆に、父の失望をより感じることになってしまったのだ。
「彼女」たちにはいくらでも強く、傲慢に振る舞うことが出来るルークだったが、それが父となるとやはりそうもいかなかったし、ましてやそれが大好きなアッシュでは……。
アッシュを失望させたくない、。
誰とも、分け合いたくない。誰にも渡したくない。
でも……。
もしもアッシュが、ルークに見切りを付けて、別の誰かとコレをしようと考え始めたら。
きっと死んでしまいたくなるだろう。それか本当に狂ってしまえたらいい。けれど、そうしたらアッシュは他の誰かのものになるだけだ。
どうすればアッシュをずっと自分一人だけのものにしておけるのかと考えたとき、思いつく方法はもう一つしかなかった。
(おれ、おれ……。もしかしたら、いつかアッシュを、)
「考え事とは、随分余裕じゃねえか!」
舌打ちまじりの怒声にルークが我に返る間もなく、まだろくに慣らされていないそこに、凶器のように硬くなったものがぶつかるように突き入れられた。
「俺に犯られてる時に他のことを考えてんじゃねえ……!」
「──っあ、ぐぅっ……ごめっ! ──く! ひ、ぃっ……!」
ごめん、という前に再奥をがつんと突かれて息が詰まった。その衝撃に二度目の絶頂を迎えながら、ルークは悲鳴を上げて仰け反った。犬のように這わせられ、両腕を後手で掴まれた不安定な体勢のまままだ収まらずに小刻みに痙攣している肉壁をアッシュがめちゃくちゃに突き上げてくる。もう何度もアッシュに拓かれたそこはすっかりアッシュの雄に馴染んでしまって痛みなど感じない。あるのは快楽と。腸壁を突き破るのではないかというようにあちこちにペニスがぶつかる衝撃だけだ。慣れる前は確かに微かに痛みを感じることもあったような気がするし、乾いてくるたびに潤滑油を垂らされたものだったが、今は最初にそれを塗り込めたアッシュが入って来た後はほとんど追加せずとも勝手に濡れてきて、ぐちゃぐちゃとねばった水音を立てる。
嵐に翻弄される小舟のようにルークは揺さぶられ、上体がくずおれる。閉じる間もない口からは喘ぎと悲鳴と唾液がひっきりなしに滴り落ち、快楽の涙とともに押し付けられたシーツを濡らした。
アッシュを受け入れているところから、身体が溶け出しているようだ。このまま何もわからなくなって、どろどろの液体のようになって、アッシュの中に戻ってしまうのかも。まるで二つに分たれたことなどなかったみたいに。
──ルークなど最初からいなかったみたいに。
(いやだ……!)
「ぃや、やあ、っ……いっ、やっ、いや、いや……ぁ」
びしょぬれのシーツを噛み締めた歯の隙間から、拒絶の言葉が迸った。ほとんど呂律の回っていない口調でうわ言のように繰り返される。二度逐情したあとのルークの陰茎からは力が抜け、ぐんにゃりと小さく垂れ下がり、突き上げられるたびにひどく揺れてとろとろと白濁を零した。イキっぱなしになっているようで、抱えこんだ尻や腿は止まらない痙攣に震え、意識しているようすもなく身体は跳ねて逃げを打つ。アッシュのものを喰い締めた内壁は、今や恐怖を感じるほど不規則に蠕動していた。
今、何を考えていた?
誰と比べていた?
(もう遅え……! 俺がお前の身体を放せなくなってから嫌だと言われたって)
苛立ちと憤怒が腹の底から吹き上げてきて、身の内をどす黒く染め上げる。アッシュは肩から崩れ落ち、絶息寸前のように虚ろな喘ぎを零しているルークを力任せに突き上げ続けた。
ルークの口から出る言葉は、もうまともに意味を成していない。
「──あっ、あっ、ふぅうぅっ、んっやぁ……や、ぁぁ、もぅ、たすけ……たす……」
こわい。
突かれるたびに身体の隅々にまで激しい快感が波状に広がっていく。もう一体どこでアッシュを受け入れているのか、ルークにはわからなくなっていた。濡れたシーツに頬を擦られながら、力なく縋るものを探して手を彷徨わせる。──アッシュ。
「あ、あっしゅ、どこ──どこっ、まえ、まえっ、が、い! まえ……っ」
うわごとのように要求すると、背後から舌打ちと「屑が!」といういつもの罵りが聞こえた。
だが片足を持ち上げるようにルークをひっくり返し、足を両肩に担ぎ上げたのは眉間に壮絶な皺を寄せながらもルークの要求を飲んでくれるつもりだからなのだろう。
──あっしゅはやさしい……。
嬉しさに、ふにゃりと頬が緩む。
「──くそっ、どんだけ淫乱なんだよてめえは!」
必死で腕を伸ばし、汗と涙の幕の向こうの影に縋り付く。汗に濡れた肌は滑り、ルークは喘ぎながら爪を立ててその影を掻き寄せる。その瞬間、再奥を犯すものがぐっと質量を増した。
「あ────っ!」
どこまでが『ルーク』でどこからが『アッシュ』? 境界が融け合い、混じり合っていく。
こわい。
ああ、とける。
とけ。る。
とけて、まざって──。
「ルーク」が消える…………。
ルークは力の入らない腕を必死で伸ばして、アッシュの首にしがみついた。
言わないと。拒絶されたっていい、今言っておかないと。ルークがアッシュに戻ってしまったら、二度と伝えられない。憎んでいたルークに好意なんて持たれても、きっとアッシュは迷惑に思うだろうけど。
でも知ってて欲しい、アッシュのレプリカはアッシュのことが大好きだったんだって──。
「──っしゅ、あっ、あいして、る! す……好き、すき、すき、すき……っ!」
「──な?!」
誰でもいい、おれの望みを叶えて────!
耳を掠める、手負いの獣のようなアッシュの唸り声。
背骨を真っ直ぐ撃ち抜かれたように何かが頭の上まで駆け上り、脳裏と、視界とが真っ白に染まる。
意識が飛ぶ瞬間、アッシュが吐き出した熱いものが体内に飛び散り、ゆっくりと広がってそこを満たしていくのが、はっきりと分かった。
アッシュの首に巻き付いていた白い腕が、ずる、と力なくシーツの上に落ち、軽く跳ねた。
「レプリカ!?」
それを残念に思う気持ちが湧いたのを、いつものアッシュなら屈辱と捉えたかも知れない。だが今はそれどころではなく、アッシュは戦いて小さく痙攣したままのルークの頬を両手で掴み、軽く揺すった。ぽたぽたとルークの顔の上に滴っていく汗が、ルーク自身の汗と涙に混じり合い、すうっと下に流れていく。
「──おい!」
頬を軽く叩いてみたもののまるで反応がなく、閉じられた目蓋を捲って眼球が回ってしまっているのを確認した。完全に気を失っている。
(お前、今なんだと言った……?)
それは、ルークの口から出るはずのない言葉、決してアッシュに向けられるはずのない想いだ。
すぐに叩き起こして真意を問い質したい。だが、身の内を苛み続けた激しい律動からようやく解放されたルークの、奇妙に穏やかな、それでいてどこか稚い顔を見るとそれも憚られる。
涙のあとの残る頬や唾液で濡れた口元を、手のひらでこするように拭ってやっていると、怒りに任せて惨い抱き方をしたと強く罪悪感が込み上げた。同時に、ルークと自分が次第に、深入りしてはまずいところへ踏み込みつつあるのを自覚しないではいられなかった。
男を抱くのはルークが初めてではないし、同僚たちから話も聞く。戦場での猥談は、兵士にとってはもはや武勇伝の一つでもある。だが、男がこんな達き方をするなど、比喩ではなく本当に失神するなどと、聞いたことがあっただろうか。痛みのあまりに気絶しそうになった、という話ならば何度か聞いたような気もするが、ルークの反応はそれとは明らかに違う。
白目を剥いて、まるで壊れたマリオネットのように上下左右にがくがくと痙攣し、アッシュを深く飲み込んだ場所は、女の蜜壷よりも強く、不規則な動きで激しく収縮した。ことに入り口の締め付けは、まるで自分を犯し続けた汚い欲望の証を噛み切らんとするばかりで、さすがのアッシュも息を詰め、歯を食いしばって痛みに耐えねばならないほどだった。
おかしな痙攣はなおも続いていた。まるでただ一滴の精液でさえ残さぬというようにきゅうきゅうと強く、時に柔々とアッシュのものを扱くように締め付けている。万力で締められたような付け根部分はかなり痛んでいたが、いつまでも続く痙攣が心地よく、アッシュはそのままうぞうぞと蠢くルークの体内の感触を感じながら体の上に突っ伏した。
金で男の欲望を搾り取るだけの娼婦でさえ、演技ではなく本当に達してしまうような女は可愛いと感じるのだ。愛撫してやれば狂ったように喘ぎ、感じる場所を突いてやれば息も絶え絶えに失神する。抱いた相手のそんな姿を見れば、それがずっと憎んできた己のレプリカだからといって、男として嬉しく感じないわけがない。澱んだ怒りと憎しみの上に、レプリカを可愛いと思う気持ちがどんどん降り積もっていることを、もう「認めない」と意地を張ることは出来なかった。
今ルークに怒りを感じるのは、彼が手駒にもならない愚かな劣化レプリカだからではなく。彼が自分以外の者を相手に抱かれ慣れているせいだ。
憎しみを感じるのは、彼が居場所を奪ったからではなく。そんな馬鹿げた怒りを抱かせるからだ。否が応でもなく醜い自分に気付かせるからだ。
抱いた相手の性の遍歴など気にする質ではないと思っていたが、やはりそれが自分の気になる相手ならば別であるらしく、アッシュはルークの背後に見え隠れする過去の男たちが気になって仕方がない。これが嫉妬というものであることを、アッシュはすでに悟っていた。