自分のものが小さいと思ったことはないが、格別大きいと思ったこともない。娼婦たちは大きい方だと言ってくれたが、他の男と比べてみたことがあるわけでなし、馬鹿な男どもから気分良く金と精液を搾り取るためにはいくらでも世辞を言うだろうと、本気で受け取りはしなかった。
彼女らの誰も、ここまで深くアッシュを飲み込めたものはいなかったが、ルークに出来るのならば彼女らに出来ないはずはない。つまり彼女らは、全部を口に含めないとアピールすることで、「馬鹿な男ども」の一人であるアッシュの気分を良くしようと試みたわけだ。
だからルークの唇が紅い茂みを掠めるほど深くまでアッシュのものを飲み込んだとき、やはり娼婦たちの世辞など信じるものではないなという苦笑が漏れた。
アッシュの両手はルークの頭に添えられていたが、無理に押し込んでいるわけではなかった。最初は確かにその意図で頭を掴みはしたのだが、アッシュがそれを実行に移す前に、ルークはなんの躊躇も見せずに自分から喉の奥まで吸い込んでしまったのだ。今はその手をどうしたいのか自分でもわからないまま、そこから脳天へ突き抜けるような快感に耐えるため、縋るように掴んでいるだけだ。どこまで、どのように収まっているのか、まさか己のものがルークの喉を突き破りはしないかと埒もない恐怖に駆られて、眉を寄せ、荒い息を吐きながらも時折無意識に手をルークの項に彷徨わせる。
ルークの身体を拓いていく過程では、誰にも暴かれていない固い蕾のような体だと思ったのに、どれほど屈辱的な行為や体勢を強いても素直に従い、媚態を見せ、ほんの少しの誘導で嫌がるそぶりも見せず嬉々としてアッシュのものを口に含むさまは、商売熱心な新米娼婦そのものだった。だがその口淫の巧さが、アッシュの知るどんな娼婦も太刀打ち出来るレベルではないというのは、一体どういうことなのだろう。
ルークの喉の奥で、アッシュのものが時折びく、びくと小さく跳ねる。そのたびにルークは大きく嘔吐き、涙を零した。だが、彼は口を離しもせず、逆にますます奥に押し込もうとすらしている。その苦しみに返って興奮を誘われたかのように、ルークの色の淡い桃色の──こんな表現はどうかと思うものの、美しいとしか言いようのない性器もぴくりと痙攣し、先端から快楽の涙を滴らせた。
舌を絡ませたまま、あるいは裏筋を舐め上げながらゆるゆると引き抜かれ、鈴口を舌先でつつき回したかと思うと、まるで後ろの蕾か女の花弁を模したようにすぼめた柔らかい唇の輪が、ねじ入れるように硬く漲った性器を吸い込んで行く。そのねっとりしたいやらしい動きは何度も繰り返され、アッシュの劣情を煽るだけ煽った。時折そのリズムを崩すように、先端を柔らかい喉の粘膜でぎゅうっと締め付ける。その締め付けはわざとやっているだけに、女の膣よりも質が悪かった。
女の躯で逐情するのに慣れた今、もうどんなに技巧をこらされたところで、口淫では達することができないはずだったのに。
「もういい、止めろ」
この調子で続けられたら遠からず限界も来るということを悟り、初めは逆の意図を持って添えられたはずの両手で頭を掴み、強引に押しのけると、軽く嘔吐くような音と一緒に白く泡立った唾液の絡んだ赤黒いペニスがずるずると引き抜かれ、添えるように突き出された舌から、行く筋もの白い唾液が束になって筋を作った。その筋が切れると顎の先にまでそれを垂らしたまま、ルークは軽く咳き込みアッシュを見上げたが、涙を一杯に湛えて赤く潤んだ目に軽く非難の色が混じっているのに気付き、アッシュはますます興奮させられるのと同時に、自分のやっていることの虚しさと、何を根源とするのかあまり定かではない苛立ちを感じて眉を顰めた。
──初めはどういう意図でもって己のレプリカを組み敷いたのだったか。段々、そのレプリカを悦ばせてやるために、自分の方こそが奉仕をしてやっている気分になってくる。
肩すかしを食らったどころの話ではなく。
この貴族のフリをした、愚かで傲慢なレプリカが、アッシュの代わりに納まったあの屋敷の中で、一体どれほど堕落した日々を過ごしたのかが知れるというものだった。
向かい合わせに膝に乗せ、尻朶を掴んでゆっくり前後に揺すり続けていると、上から雨のようにパラパラとルークの涙が降ってくる。自重で深くまで入ってしまうこの体勢が辛いのか。痛いか、と聞くとルークは一生懸命首を横に振った。
「──辛いか」
「ん、あっ、あっ……やっ、やだ、やだぁ……」
問いかけの意味を理解しているのかいないのか、ルークの首が振られるのは横にだけだ。「イイか」と聞いてもやはり横に振るのだろう。だからアッシュは「気持ちいいか」とは決して聞いてやらない。
目の前にある赤く凝った乳首に唇を寄せ、軽く歯を立てると、ルークは瀕死の子鹿のような鳴き声を立てて強くアッシュの肩を掴む。そこはすでに黒や黄に変色した痣が壮絶に覆っていた。ルークが力一杯掴んだ指の痕、それは癒える間もなく、上から上から増えて行くばかりだ。時に息が止まるかと思うくらいの痛みなのだが、これがルークが感じていることの証でもあると、痛みはますますアッシュを熱く追い上げた。
ルークの声が泣き声とも悲鳴ともつかないものに変わって来て、アッシュは彼の限界が近いことを悟り、勃ち上がったルークのものを潤滑剤で濡らした指先で掴む。滑らせるように軽く上下するだけで、ルークは強く体を強ばらせ、あっけなく極まった。幾度も達かされ続けたせいで、もう蜜を吐き出すことはなかったけれども。
シャワー浴びなきゃと呟きつつも眠り込んでしまったルークを見下ろして、泣きすぎて腫れた目蓋を少し撫でた。
最初のころはセックスの最中に泣き出すようなことはなかったのに、この頃は頻繁に涙を流すようになった。いや、やだ、といった否定の言葉もうわ言のように繰り返される。
今頃になってやっと拒絶する気になったのか。
にしても、もう遅い。最初から抵抗してくれていれば、ここまで深入りすることもなかったかも知れないのに……。
あるいはこの愚かなレプリカを、 勃起すらしないほど蔑んでいられたなら。
そうすれば痛めつけ、従わせるために、もっと別の手段を使っただろう。
(木菟引きが木菟に引かれる……か。先人は、上手いことを言う)
ルークを最初に抱いた日から、アッシュには心穏やかに過ごせる日が一日たりともない。
濡れた睫毛に唇を寄せて、そっと涙の雫を舐めとった。強い憐れみが去来する。
アッシュはわかっていたつもりになっていたが、レプリカというものがなんなのか、レプリカであるということがどういうことなのか、本当は何もわかっていなかったのだ。
己の身代わりになるため、人の手によって身勝手に生み出され、身勝手な望みを押し付けられ、身勝手な憎しみを買い、今また身勝手な暴力に晒される。
そう、これも暴力だ。体を傷つけていなくとも、ルーク本人が楽しんでいようとも、この行為がどういう意図で始められたのか、ルークが理解していないのなら。何もわかっていないからこそ無邪気に楽しんでいるのなら。
それは陵辱行為と何が違うというのだろう。
眠ってしまったレプリカの身体から流れ落ちる精を、起こすことの無いように気をつけて掻き出し、湯で濡らしたタオルで拭ってやる。微かに浮いた己の汗はそのままにルークの髪を手で弄んでいると、暖炉の灯りしかない薄暗い部屋でも、目を凝らさなければ気付かないほど慎ましやかに、ルークの身体と、それを包む汗と精で湿ったシーツから淡い光の揺らぎが立ち上る。初めは疲れから来る目の錯覚かとも思ったが、見慣れてくるといっそ神々しいほどにそれは美しく、そして悲しい……光景だった。
アッシュはそれが収まるまでルークの髪を撫で続け、やがてさらりと乾いた彼の体を抱き込んで肩口までデュベットをかけ直してやった。ルークが無意識にしがみついてくる。
ルークが目を覚ます前までのほんの数時間だけ、眠りという恩恵を以て、アッシュは過去ルークの体を通り過ぎたであろう者たちの存在を忘れることが出来る。その短い時間だけ、アッシュはルークを独占することが出来るのだ。