ことん、ことんと赤く熟れた林檎が床に散らばり、甘酸っぱい芳香が周囲にふわりと広がった。
突然ソファに押し倒されたルークは、何が起こったのかもわからないままに、きょとんとした顔でアッシュを見上げている。
「アッシュ?」
……馬鹿な劣化レプリカ野郎でも、使い道が全くないわけじゃねえ。さっさと殺してしまうより、俺の下位に位置するものと思い知らせ、俺の意のままに動く駒になってもらう。こいつ自体がそもそも丸ごと俺のものなんだ、初めはその腹積もりだったはずだ。暴力で操る? まさか。そんな温情かける必要なんざねえ。もっと屈辱的で胸のすく方法があるじゃねえか。
──ただ単に、ルークのうなじの白さに、その頼りなさに、欲情してしまっていただけだとしても、アッシュはそれに気付かなかったし──彼は身勝手な理屈でそれを正当化することが出来た──気付いていたとしても決して認めはしなかっただろう。
吸い寄せられるように、とまどうルークの陶器のように白く滑らかな首筋に顔を寄せ、べろりと舐め上げると、仰天したルークが両腕を突っ張ってアッシュの胸を突いた。
「アッシュ?! 何してんだよ、おれ、汗、汗かいてて汚い、から……」
その両腕を左右に弾いて、白い上着の釦を二つとも外し、両脇から擂り上げるように丈の短い黒いシャツの中に両手を滑らせると、レプリカが再びアッシュの両肩に手を付いた。
構わずに更に手のひらを上に擂り上げ、ついでのようにシャツを上に押し上げる。甘やかされたおぼっちゃまはさすがに生っ白いと思っていたが、これでもまだ日に焼けた方であったらしく、境目はぼんやりとしていながらも、腹より更に白い胸が現れた。
己の身体で、全く日に晒されていない箇所も当然あるが、これほど白くはないだろう。衣類を通して焼けてしまったのかも知れないが、このレプリカの己のものより色素の薄い髪や瞳を見る限り、肌の色も元々薄いのかも知れなかった。
その上元々は寸分変わりのない身体のはずが、後の生活がそれなりの差異を生じさせている。見栄えのために鍛えられた意味の無い筋肉は落ち、少しずつ本当に必要な筋肉がうっすらと付いて来ているが、アッシュに比べるとその身体はかなり薄い。ルークは骨に必要な栄養素を含む食品を避けがちなため、骨格もアッシュに比べるとやや線が細いのだ。
汗をかいていると本人は言うが、とてもそうは思えなかった。アッシュの肌はまだ乾き切らない汗でねばついているというのに、ルークの肌はもう乾いてさらりとしている。熱く火照った手のひらの下で、それは不思議なほどひんやりと心地よかった。
淡い紅色の乳首に唇を寄せると、ほのかに抱えていた林檎の香りがした。乳首には触れず、乳暈の部分のみ円を描くように舐めていると、あぁ……という吐息を漏らして、ルークが突っ張った腕からも、突然伸しかかられて強ばっていた身体からも力を抜いた。
「……忘れてた」
ルークがぽつんと呟いた。一瞬、ほんの一瞬だけなにを、と疑問に感じたものの、その時のアッシュは吸い付くように滑らかなレプリカの肌に気を取られて、愚かにも聞き流してしまったのだった。
被験者とレプリカの優劣を知らしめようというだけではなく。
これは、純粋に力を示すための行為でもあった。雄同士の序列を決定させるための。
強姦という手段を選んだのは、それがおそらく、雄にとって屈服を強いられるために使われる最も屈辱的な行為だからだろう。少なくとも、アッシュにとってはそうだった。
子どもの頃は、今のルークと同じように少し中性的な容姿をしていたため、アッシュもその手の危機には幾度も陥って来た。その相手が女性や受け身の男であるときは気分次第で世話にもなったが、そうでない時は持てる力のすべてを使って返り討ちにしてきた。自分を、まるで女の代わりのように使おうと言う薄汚い欲望には、決して屈服しなかったのだ。
どんなに出来が悪くとも、これは一応己のレプリカなのだ。敵わないまでも、自分と同じく反撃くらいはするだろうと思っていたのに、どこまでも愚かなレプリカは全く抵抗してこないどころかアッシュが服を脱がせるのを自ら身体を浮かせて協力し、四苦八苦しながらではあったがアッシュの下衣を脱がせようとさえする有様だ。
「……なんで抵抗しねえ」
控えめにではあるが、堪えるそぶりもなく素直に声を上げているルークに、立ち上がって来た乳首をなおも攻め続けながら問うと、ルークは上気した顔にとろりと潤んだ視線を向けて、「ていこう」と呟いた。もう、問いの意味さえわからなくなっているという有様で、アッシュは苦々しさに顔を歪め、口を噤んだ。
取り上げた居場所の替わりに、身体くらい寄越してやろうというのか。それとも単なるスキモノか。
──慣れて、いるのか。
だが指でなで回したそこは堅くすぼみ、容易に異物の侵入を許そうとしない。
この行為によって屈辱感を与えたいならば、痛みは一切与えてはならなかった。快楽に屈服させてのみ、精神的な打撃を与えることが出来る。少なくとも特務師団では拷問の一種としてそう考えられていたし、そのための道具や薬品も様々にあった。
そこでアッシュはふと思い出し、立ち上がってソファの後ろにまわり、放り出したままになっていた荷物袋の底を漁った。ややあって見つけた布製の袋の中、数種類の毒薬や自白剤にまぎれてそれはあった。小ぶりの瓶の中に、水に一滴の血を溶かし込んだような色合いのどろりとした薬品が入っている。
ルークは上体を軽く起こして、何事かという不安げな眼差しをしてアッシュの動向を伺っていた。その身体を腹這いに返し、尻だけを上げさせると、アッシュは手のひらにその薬品を少し出して、ルークの堅い蕾を解きほぐしにかかった。
「アッシュ……?! なに……??!」
跳ね起きようとするレプリカの後頭部をソファに押し付けて、濡れた指を頑なそこにゆっくりと入れていく。少しずつ出し入れを繰り返し、薬品を中に塗り込めていくのだ。
直腸の粘膜が薬品を吸収して行くにつれ、不安に強ばっていたルークの身体が少しずつ弛緩していき、息づかいが早く、荒くなって行く。かなり強力な催淫剤の混入した潤滑剤は一般には出回らない高価なものだが、特務師団のものは任務上全員が持っている。習慣性が強い麻薬なので、あまり多くを使うと危険だが、アッシュには繰り返された訓練で耐性がついているし、この一瓶程度の量ではそこまでの効果はない。
──あったとしても、気にはしなかっただろうが……。例えこのレプリカが廃人になったところで、なんら困るわけでもなし。
アッシュはあまり気の長い方ではないので、こんなまだるっこしい方法よりも手っ取り早く知りたいことを吐かせる自白剤の方が好きだし、それも役得の一つと考える一部の強者の他は、みんな自分も疲れるこの方法を避けがちだった。だが、相手によっては自白剤に耐性を付けているものもいたし、暴力では決して口を開かない相手にはこの方法を試すこともある。何度も現場に立ち会ったが、使われた者は例外無く快楽に狂わされ、呂律の回らない口調でこちらの聞きたいことを良く囀っていた。だがその中で、自分のレプリカには劇的といえるほどの変化はないようにも思える。一際良い声で啼くようにはなったが……。薬の強い催淫効果に、はなから抵抗する気がないからなのだろうか。
薬のせいか、ルークだけでなくアッシュの昂りまでがいつまでも収まらず、少しずつ乾いて粘り、滑らなくなったと思ったらまた薬を垂らし、悲鳴のような甲高い声で喘ぎ続けるルークの中に深く沈み込んだまま揺さぶり続け、気が済むまで何度も吐精して、ようやくアッシュは萎えてくれた己のものを引き抜いた。ずっと開かれたままだったルークの蕾が途端に激しく収縮し、注がれ続けた白濁を押し出していく。
どれだけ胸がすくかと思ったのに、ぐったりとソファに沈み込むルークを見下ろして、苛立ちが収まらないどころか、増しているのに気付いた。長い前髪の先から、鼻、顎、鎖骨から、ポタポタと雨のようにルークの上気した身体の上に滴り落ちる汗が、身体を伝ってソファのカバーに染みて行くのを呼吸を整えながら目で追いかけた。ルークはアッシュ以上に荒い息をしていたが、整って行くのと同時に意識も遠のいたようで、そのまま眠りに付こうとしている。
「寝るな。水しか使えねえが、シャワーを浴びて中、掻き出してこい」
「……かきだす……? ……なんで?」
「なんでって、腹、壊すだろうが」
「そうなのか? で、でも……そんなことしたらまずくね……?」
「出さねえとまずいことになるぜ?」
「う、ん……」何か納得のいかない顔をしていたルークも、腹を壊すのはやはり嫌だったようで、ふらふらと立ち上がり、よろける身体を壁で支えながら、アッシュが指示したバスルームへ向かった。その白い内ももは、アッシュが何度も放ったものでいやらしく濡れ光り、ルークが一歩を踏み出すたび、さらに溢れてきたものが幾筋も伝い流れていく。
それはまるで、処女の破瓜の血のようにも見えた。