【8】


「だ、大丈夫か?!」
 驚いて中腰になるルークを制し、アッシュは手の甲で口元を拭いながら飲む気を失ったカップを押しやった。「驚かせんじゃねえよ、急になにを言い出すかと思えば──」
「ご、ごめん。でも、おれはそのためにケセドニアに来たんだ。思いつきで言ってるんじゃない。グランコクマへ行ったころから──行く前から? もしかしたらバチカルへ帰ってすぐからかも知れないけど……ずっと考えてたことなんだ」
 憮然として小さなテーブルに散った水滴を拭き取っていたアッシュの指が、一瞬痙攣でも起こしたかのようにぴくりと跳ねる。ルークの視線の先で、節の立った長い指がぐっと台拭きを掴んだ。
「……考えてた? 何をだ? 被験者への罪悪感を払拭するために一度くらいは犯らせてやろうかって?」
「ち、違う!」呆れ果てたと言わんばかりの口調の奥に、憤りと落胆、そして微かな軽蔑の色を感じとり、ルークは慌てて首を振った。「同じ部屋でいいって言ったとき馬鹿って言われたし──お前がそんなふうに考えて腹を立てるかもしれないって覚悟はしてた。だからさ、手紙なんかで一緒に暮らしたいって言ったって、お前絶対駄目だって言うだろ。だからおれ、連絡せずに直接来たんだ。こうやって目の前でいろいろ話し合って、ちゃんとわかって欲しくて」
 考えて決めたことだと答えてはみたものの、ルークは自分の本音と言うものを未だアッシュにきちんと説明出来るほどまとめきれていない。ちろりと上目遣いで窺うと、アッシュは腕組みしたままじっとルークを見下ろし、「いろいろ」の説明を待っていた。
「アッシュに、師匠になって欲しいんだ。……それが一つ」
 意外な答えであったのか、アッシュは微かに目を見張り、引き結んでいた唇を微かに開いた。なにか言おうと思ったのだろうか、ルークがその唇に目を奪われた瞬間、それは再び閉じられた。
「つまり──おれが、左利きでも使いやすいように工夫したところとか、変な癖がついちまったけど困らないからほっといたところとか、そういう剣の記憶で練習を繰り返していたら、それは行き着くところアルバート流じゃなくて、我流の剣になっちまうかもって」
「……そこまで極端なことにはならねえだろ」
「ペールも、記憶と、今の体の筋力や瞬発力が釣り合ってるなら問題無いだろうって言ったよ」
「……」

 実戦を繰り返すうち、修めた型はより身を守れるよう、あるいは殺傷力を増すよう、使い手の勝手の良いように変化するものだ。アルバート流もフレイル・アルバートが開祖とされるが、元は違う流派の名を冠していたのかもしれないし、剣の才があった彼が独自に鍛えていった我流の剣だったかもしれない。今のアルバート流は、おそらく二千年の間に大勢の使い手がより良い剣に研鑽していって今の形になったものだ。
 左利きであるルークは、特にそれが顕著だった。だからあのまま研鑽を積んでいけば、それは更なる流派の進化に繋がったかもしれない。
 だが、ルークはまだまだ修行中の身だったのだ。今の身体で──頭と身体、それぞれの反応速度が釣り合っていない状態でそれを繰り返すと、無意識に現在の体に負担がかからないよう型が崩れて行く可能性があった。もちろん、それは進化という形で良いほうに作用する可能性もないではない。だが、アルバート流は新興の剣ではなく、二千年の伝統があるすでに完成された剣術。崩してしまう可能性の方が高いとルークは思っている。だからこそ、剣に焦がれながらも一人で稽古を再開するのが怖いのだ。
「……悪いが。俺自身まだまだ修行中の身でな。到底弟子なんか取れる腕じゃねえよ」
「でも、アルバート流を正しく継いでるのは、もうアッシュしかいねえじゃん。一応、父上も伝手を当たってくれたんだけど……。ペールにも頼んでみて、その上で今最適な師はアッシュしかいねえって結論になったんだ」
「……なるほど。だが、買いかぶりだと思うがな。他には? 一つというからには、他にも理由があるんだろう」
 深いため息をついて、アッシュは一旦引いてくれた。だがそれは、いくつかある理由のうちの一部でしかない。アッシュに二つ目以降の理由を問われ、ルークは狼狽えて口ごもった。
「お前、俺が言ったこと、ちゃんと理解してるか?」
 そのようすに大した理由はないと踏んだのか、アッシュは再度ため息をつき、疲れたように目を伏せてうなじを揉んだ。
「……! し、してる」
 顔がかっと熱くなって、ルークは見られないように顔を逸らした。アッシュの零した大きなため息が、酷く冷たく耳を打つ。
 アッシュは呆れているのかため息ばかりだ。どれだけ拒否されても引かない覚悟で来たけれど、こういう対応は怒鳴られるより辛くて、心が折れそうになる。
「屋敷に居辛いのか?」
「そんなことない。居辛いどころか、すげーわがままを言ってる」
 そうなのだ。反対はされなかったけれど、後を継いで欲しいと言われていながら家を出ると言うのはわがままに違いない。ルークは少しだけ丸くなりかけていた背筋をしゃんと伸ばし、居住まいを正した。

 ファブレ家の家系図に記された『ルーク・フォン・ファブレ』の名は、本来アッシュを示すものだった。だが、ルークがファブレ家へ送り込まれて七年間は、その名はレプリカのルークを示すものになっていた。そのため、ルークはどうしてもアッシュの居場所を盗んでしまったという罪悪感から逃れられずにいたのだが、その『ルーク・フォン・ファブレ』が新たに『アッシュ・フォン・ファブレ』の名で書き換えられ、その下の位置に改めてルークの名が書き加えられたことによって──ルークのための居場所を新たに作ってもらったことによって、アッシュの居場所を取ってしまったという罪悪感からは解放されることになった。
 いや、まったく無くなったというわけではないのだが、二人が同じところに、別々の存在として居場所を確立出来たのを嬉しく思うのと同じくらい、アッシュの名を背負うと言う重圧から解放された気分になったのは確かだった。アッシュはアッシュ、ルークはルークでいいのだと言われたような気がして──今のままで良いのだと認めてもらえたような気がして、萎縮していた心もゆるゆると溶け出してきている。
 戸籍上では祖父母になってしまったクリムゾンとシュザンヌだが、アッシュのところに行きたいと話を通すときに「祖父上」と呼んだのをクリムゾンが意地悪くからかい──大方、己の小細工を盾に取ってルークが家を出ることを決めた意趣返しだろう──時折自分のことを「祖父じじ」と称したりするのもあって、なかば意地のように「父上」「母上」と呼ぶようになった。偽物の自分がそんなふうに彼らを呼んで良いのか、あれほど悩んでいたというのに。だがそんなやりとりを経て、父母とルークの仲は、貴族らしからぬほど気安いものに変化しつつあるのだった。

「……そうか。わがままが言えるのか」
 アッシュはルークを見つめる強い瞳を少しだけ和ませた。アッシュの気持ちをまるで無視しているかのような無神経な申し出に怒りも感じていたのだろうに、ルークが家族と馴染んでいくのを本当に喜んでくれているようすが嬉しく、切ない。
「──こんなことを言い出すのがお前でなければ、あのころさんざん傷つけた腹いせをされているのかと思うところだが」
 ため息をついて肩を竦めるアッシュに、ルークは飛び上がるほど驚いて噛み付いた。「おれがそんなこと考えるわけねーだろ!!」
「ああ、もちろんわかってる。お前でなければと言ったろう。お前はそんなこと、思いつきもしねえだろ」憤るルークを宥めるように、アッシュは気弱げに笑んだ。「いっそそうしてくれればどれだけ良いだろうと思うが。だが、そうなれば俺はまた、勝手にお前に失望するのかも知れねえな」
「……っ、アッシュはほんとに勝手だ……」
「……そうだな」
 その顔を見て、ルークはアルビオールからアッシュを見下ろしたときに感じたことが勘違いではなかったことをはっきりと悟った。

 アッシュはルークを好きだと言いながら、こういったことに奥手なルークに先に意識させたもの勝ちと嘯きながら、本当にルークを手に入れたいとは、実は思っていない。いや、手に入るかも知れないと、期待すらしていないのだ、初めから。

 憤ろしさがどろどろと噴き上げてくる。こんなにもアッシュのことだけを考えるようしむけておいて、本当に勝手すぎる。
「……アッシュは、ずっとおれのことを好、み、見てたって言うけどさ。おれはあいつにも言ったようにアッシュのこと、なんにも知らねーもん。おれの被験者で、十七で、男で、出来が良くってみんなに期待されてて。ナタリアのほんとの婚約者ってことくらいしか知らなかったもん。貰い物を一つも捨てられずにいるとか、神経質だと思ってたのに実はすげえおおざっぱなやつだったとか、すけべな本枕の下に突っ込んでたりするようなやつだったとかっ、そんなの、戻ってくるまでおれは知らなかったもん!」
「すけ……? いつ、いや、あれは違……っ」
「言い捨てなのかよ?! おれのこと好きだって言った癖に、その気になったら受け入れてくれって言った癖に! もしおれが本気に受け取ってお前のことを好きになったりしたら、本当は迷惑だって思ってる? おれだってお前のことちゃんと知りたいんだ! だから傍にいたいって、それって変なのか?! お前は言いたいこと言ってすっきりして、同じ男だからとか、被験者だからとか、なんかそういうわけわかんねー理由でおれがお前から遠ざかれば良かったのかもしれねーけど! おれは……おれだって……っ?!」

 ──おれはいったいどうしたいと思ってんだろ? 恋人同士になりたいのかと問われれば、その答えはまだ否であるような気がする。

 もしかしたら、好意を持ってもらえているかも? と思うことなら多少あった。ティアや──本当にもしかしたらノエルとか? 
 だがどうせ乖離して消えてしまう自分に、それを突き詰める資格はないと思っていたし……それにそれが「もしかしたら」ではなかった場合、それはそれで辛くなるような気もした。
 はっきり恋愛感情があると口に出してくれたのは、だからアッシュが初めての人ということになる。
 それはとても嬉しいことだったし、そんなふうに自分を求めてくれる人が本当にいるんだと、ぱっと目の前の世界が広がったようだった。その喜びに比べたら、相手が被験者だとか同じ男であるとか、そんなことは些細な、どうでもよいことのように感じた。そんなふうに感じること自体、ディストが指摘するようにすでにアッシュに好意を持っていたという証拠なのかもしれないが。

 今、胸元にぎゅうっと抱き込まれて、落ち着くどころか大声で喚きたいくらい恥ずかしく、逃げ出したくて足はうずうずしているのに、ずっとこうしていて欲しいと思ってしまったり、とりあえずは誤解を解いてくれたのか怒りが収まったようだと安堵のあまり涙が出そうになったりするのも、すでにルークの中でのアッシュの印象が良い方に変化している証拠だ。
 好意と恋愛感情は違うものだとディストは言う。ルークにもそれはわかっているし、今や「愛」にも違いがあるのだということも理解していた。アッシュに感じていた好意は、いつのまにか愛と呼べるものに変化していて、その愛も両親やガイに感じるものとは違うと、ルークははっきりと自覚している。だってルークはガイと唇をくっつけて、舌を絡めたいとは思わない。
 それでも、自分の感情がアッシュの求めるものと同じかどうかの判断はまだつかなかった。ルークはこれまでそういう愛情を示されたこともなかったし、自分がはっきりそうだとわかる感情を抱いたこともなかったから……。
 ルークは、間違えたくなかった。間違いでしたと一度与えたものを取り上げるような真似をしてアッシュを傷つけるのは嫌だ。だからもっと一緒にいて、もっといろいろな、思いもよらない顔を見てみたい。傍にいて、自然に育まれて行く感情に自分で納得の行く名前がつくのを待ちたい。けれど、ルークがもたもたしている間に、アッシュの気持ちは変わって行ってしまうだろうか。

「迷惑なわけない」
「……嘘ばっか」
「嘘じゃねえ。俺のことを真面目に考えてくれてたんだな」
「もう考えねー」
「俺の傍にいたいと思ってくれるのか」
「バチカルに帰る!」

 ルークはしばらく腹を立てたままアッシュの胸の中でもがいていたが、どうあっても抜け出せないと悟ると力を抜いてことんと額を預けた。
「おれさあ……。最近なにかあるたびに、あのころのお前のこと思い出すんだ。あのとき、何を考えてたかな、なんて言ってたっけ、どこで何をしてたんだろ……ってさ。でも、ごめん。知らねえし、思い出せないんだ。それがもどかしくて……。アッシュのことばっか、考えちまうんだよ。今どうしてるかな、寝てるかな起きてるかな、とか。まだ……おれのこと好きでいてくれるのかなって。母上にはするのに、どうしておれにはキスしてくれなかったのか、とか。どうしてもっとキスしたいって思うのか、とか。いろいろ……」
 話はどんどん支離滅裂になっていき、だんだん自分が何を言いたかったのかわからなくなる。恥ずかしくなって、アッシュの胸元に縮こまるように俯いていた顔に指がかけられ、ついと上げられた。まっすぐに見下ろしてくる熱を持った視線の意味をルークは取り違えることなく受け止め、すぐに目を閉じる。
 唇が触れたとたん、どくんと脈が跳ねた。胸が詰まるほどの幸福感がこみ上げてくる。全身から力を抜いてアッシュに身を任せ、ルークがぎゅっと背中に腕を回して触れ合った唇を薄く開くと、望んでいたものはすぐに与えられた。自分とは違う唾液の味、ほんの少しだけ高い体温。誰と、幾度同じことを繰り返したのか、それは慣れた様子で柔らかくルークを絡めとり、蜜を吸うように唾液を啜って上顎や歯裏をくすぐった。
 これ以上気持ちのいいことなんて、他にあるわけないとルークは思う。身体の中心が疼くような感覚に身を震わせ、うっとりと熱い吐息をつくと、突然ルークを抱く腕の力が強くなった。腰を思い切り引き寄せられ、柔らかく絡め合っていた舌が急に強く吸われる。息つく間もなく、熱い舌は口腔内を乱暴にねぶり、引き込んだルークの舌を甘噛みした。
 アッシュの唇は突然の激情を持て余したように、顔中にキスの雨を降らせ、赤ん坊のように柔らかなルークの唇や頬を食んだ。
「う、くっ──ひゃっ……やっ!」
 耳朶を吸われ、軟骨を舐められ、舌先が外耳道に押し込まれて荒く熱を帯びた生々しい吐息が耳をくすぐり、ルークが耐えきれずに奇声を上げてアッシュを押しやると、アッシュはやっと我に返ったように身を放した。押しやったのは自分なのに、不思議なほど寂しい心地がする。ルークは慌ててアッシュの服をしっかりと掴み直した。
「……早くに女を覚えたせいか、こういうことに俺は我慢強いほうじゃねえ。一人で抜くのにも慣れてねえ。ましてやお前が同じ屋根の下にいるっていうなら、やりたい時には無理にでも抱く。それが嫌ならやめておけ」

 ルークはアッシュを見上げ、まじまじと翡翠の瞳を覗き込んだ。旅の間に緑の瞳を持つさまざまな人に出会ったけれど、これほど澄み切った美しい翠を持つのはアッシュしかいない。
 ──これほど熱っぽく、溶けるようにルークを見つめるのも……。
 あれから数ヶ月が経って、ルークはさまざまなことを学んだし精通や夢精と言った衝撃的な出来事も体験した。自分のことを好きだと言ってくれる男の元に押し掛けて何か起こったとしても、それは自己責任だということも理解しているつもりだ。
「アッシュはそんなことしねえもん」だがその上で、アッシュのその忠告が現実になることはないという確信も持っていた。「おれはアッシュのこと確かに知ってるとは言えないけど、わかることもある。おれはアッシュのレプリカだから。アッシュは、人の嫌がることはしない。……でも、おれはそうなっても嫌じゃねえと思う。興味ないわけじゃねーし。今ヤダって言っちまったのは……く、くすぐったかったからだから……」
 恥ずかしさや居たたまれなさに熱く火照る頬をアッシュの視線から隠そうとごそごそ顔を背けていると、再びアッシュが深いため息をつき、ルークの頭を胸に抱き寄せ、天辺にキスを落とした。今度のため息は、あまりルークを傷つけるものではなかった。「……その信頼は、正直少ししんどい。お前が思うより、俺はろくでなしかも知れねえぞ」
「あいつもそんなこと言ってたな。マティアスさんは、アッシュとあいつ、似たところがあるって言ってた。だからお互いが大嫌いで、でも憎みきれねえんだって」
「……」
 腕を回したアッシュの身体が、少しだけ強ばった気がして、ルークは宥めるようにその背を撫でた。
「そういうマティアスさん自身、おれは少しアッシュに似てるって思ったよ。あの人はだからアッシュのこと、よくわかるのかもな」ルークはそう言ったあと、ふと彼について気付いたことを思い出した。「……マティアスさんは、もしかしたらあの子が好きなのかも。おれ、ちょっとだけそう思った」
「……ああ。かもな」
「あのさあ、はっきりとは言わなかったけど、マティアスさんはあの子に危害が加えられるとは思ってないみたいだ。あいつ、あんなに簡単にあの子を傷つけたのに、なんでそう思うんだ? あの子がすげー綺麗な子だから? おれ、それがあいつにとって抑止力になるとは思えない。あいつ、レプリカを人だなんて思ってねーし……」
 少しでも早く捕らえられて欲しいが、あの男を追いつめたとき足手まといの少女をどう扱うかも不安だった。アッシュが、どこか諦めたようなため息をつく。
「俺は、お前がそのことを尋ねに来たんだと思ってた」
「そ、か。……うん。それもある。おれには……アッシュが、あいつをわざと見逃したようにも見えたから。本当はあの子を連れて行かせないように出来たけど、皆の……おれの、ため、とか……」
 的外れだったら、アッシュは酷く気分を害するだろう。元より責めるつもりなどなかったが──だがもしそうならば、ルークもあの少女を犯罪者に売り渡してしまった罪の一端を担うべきなのだ。

「……本当にお前は俺を買いかぶってる。さっきも言ったが、俺の腕などまだまだだ。見逃すもなにも、俺があいつを捕らえることなんか出来っこねえよ。たまに獲物を取り合ってやり合うことはあったが、俺が命を落とさずに済んでるのはな、腕が立ちすぎて敵に手応えを感じることがほとんどないランツが、ほどほどにやり合える相手との戦いを楽しんでいるからだ」
「アッシュでも? 嘘だろ」ルークは驚いてアッシュの顔を見上げた。あの男がかなりの手練なのはわかったが、ルークにはアッシュと同じくらいの実力だと思えたのだ。
「剣の腕なら伯仲してると言えるだろうが、あいつは剣士じゃねえ。本気で殺し合ったら……どうだろうな? ありとあらゆるツキがこっちにあれば、相打ちくらいには持ち込めるかも知れねえが。あいつは本当は俺のことなんか恐れちゃいねえんだよ。ヴァンでさえ、あいつには出来るだけ関わらねえようにしてたぐれえだ」
「ヴァン師匠でも?! ……そんなやつ、第四師団の兵が捕まえられんのかよ?」
「第四師団は、あいつを捕らえるために兵を展開してるわけじゃない。そう見せかけて、実はあいつをマルクト側へ追い立てている。兵を出したのは、人々に──主にあのときあの場にいたレプリカたちに、一人の命を救うために神託の盾は手を尽くしているとアピールするためだ」

 驚愕に、ルークは身を強ばらせ、アッシュの顔を見上げた。
 誰も助けられないなんて、じゃあ、あの子はどうなるんだ?


(2013.11.05)