目覚めてからどのくらい経ったのか、そばに横たわるルークが一際強く発光をはじめた。
慌てて起き上がり確かめると、温かい紅緋の髪が、強い第七音素の光を纏って清らかな炎のように見えた。
『聖なる焔の光』
『ルーク』の名にこれほど相応しい姿が他にあるか。
この魂が、元は自分から生じたということが信じられないと感じながらも、強い誇らしさが胸に溢れかえった。
白い額に掛かった前髪が風に揺れて、光が収まったことに気付いた。真っ白な胸がゆるく上下しているのを見て取って、思わず口元を綻ばせる。
外気に影響を受けるようになったのなら、服を着せなければ風邪を引いてしまう。自分がここに帰って来たときの有様がかなり無惨だったので、着替えを用意してはきたのだが、まさか裸とは思いもしなかった。帰ることはないと思われていたルークを返してくれたローレライには素直に感謝するが、俺が迎えにこなかったら一体こいつはどうなっていたのだろうとアッシュは思わず遠い目になった。こういったことに頓着しないのが人成らざるものということなのだろうか。それとも、自分が迎えに行くだろうと見透かされていたのか。
ぐったりと力の抜けた体は細身ながらも意外に重く、服を着せるのは重労働だった。それにどうせ同じサイズだろうと良く考えもせずに自分の服を持ってきたけれど、自分のときとは反対に裾も袖も余っており、ルークの新しい体は三年前の彼を模して作られたものと気付いた。
基本的な作りは同じ筈なのに、あまり黒が似合うとは言えないルークに苦笑がもれる。四苦八苦して服を着せ、元のように寝かせてやろうとするとがくりとのけぞった白いのどと、まるでキスをねだるように薄く開かれた唇が目に入った。
瞬間、凍り付いたように目が離せなくなり、アッシュはルークののどを、唇を見つめた。
中身のない器だけのルークならば、例え無力に全裸で横たわっていたとしてもなんの衝動も感じなかったものを……。
ほとんど恐る恐るといった態で唇に触れた。見た目よりも更に柔らかい、ふるりとした弾力を一度唇で感じてしまうと、すぐに箍が外れた。
唇を舐め、甘噛みし、歯列を割って舌を差し入れてその裏側を辿り、上顎を、下顎をなぞる。舌の表面のベルベットのような感触を執拗に確かめ、絡めて吸い立てる。思った通り、それはひどく甘い味がした。
顎を伝い落ちる唾液すら舐め上げ、思うさま蹂躙しつつ無意識にシャツの裾に手を潜らせたとき、ルークがのど元を苦しげに鳴らし、それでアッシュはやっと我に帰った。
(や、べえなこりゃ……)
意思の力をかき集めて、濡れて真っ赤になったルークの唇を解放し、欲望の残り火に震える両手で彼を抱きしめたまま、まずい反応を起こし始めていた自分の体が時折小さく脈打ちながら収まるのを待った。
随分前から……多分初めてまともに顔を合わせたユリアシティで、ルークの心を内に受け入れたときからすでに憎しみなどなかったということをアッシュは知っている。本当に自分が憎みたかったのは父母であり、ナタリアであり、ガイであり。あの時屋敷にいたものたち、自分を追いつめ、なおかつ入れ替わりに気付かなかったすべてのものたちであるということに、気付いてもいた。
だが、アッシュはそれらのものを愛し過ぎていたために、彼らに憎しみを抱くことが出来ず、行き場のない憤りと憎しみを生まれたばかりのレプリカにぶつけてしまった。
アッシュは元々、自分がそれほどに強く、激しく人を愛する人間だったことを思い出していたし、幼い頃は多くに分散していたそれが、今やルーク一人に大きく比重を傾けてしまっていることを自覚してもいた。
ルークが目を覚ましたら、今度こそ後悔しないよう彼にそれを伝えよう。素直に許しを請うことが出来ず、憎しみなどないということも、お前から取り返したい何ものもないということも、愛しているの一言さえ言えずに失う夢ばかり見るのは、アッシュはもう二度とごめんだった。
「……早く起きろ。いつまでも人を待たせてんじゃねえよ……」
軽いデコピンを食らわせて、アッシュは元のようにルークを横たわらせた。丁寧な手つきでシャツのボタンを一番上まで止めてやる。
自分と同じ造りの顔で、自分の服を着ていてさえ、やはり自分には見えない、完全同位体。見下ろしてしみじみと観察しているとまた誘われてしまい、もう一度だけ、と唇をそっと触れ合わせた。吸われすぎて真っ赤になったきり元に戻らないルークの唇が目に入ると、なかなかもう触れない、という踏ん切りがつけられない。
顔に強く日が射していた。雪花石膏のように白くくすみのない肌が、焼けて損なわれてしまうのがなんとなく惜しまれて、アッシュは自分の体で影が出来る位置へ胡座を組んで座った。濃い睫毛がくっきりと頬に影を落としている。
睫毛の長さ、濃さまで俺とは違うのかと感心していると、視線の先でその睫毛が微かに震えたような気がして、アッシュは身を乗り出してルークの顔を見直した。
不安と期待で激しく鼓動する自分の心臓の音が、聞こえるかと思うほどだった。一筋の髪がはらりと落ちて、ルークの頬をかすめる。
じっと見つめるアッシュの視線の先で、ルークの唇が綻んだ。
紅緋の睫毛が小さく瞬き、美しい翡翠の瞳が今、ゆっくりと開かれていく──