【08】
ルークが水から上がっても、アッシュはもう、ルークの手を縛ろうとはしなかった。
「譜銃、使えるか」
「え、あ、ああ」
「なら持ってろ」
頷くと同時に譜銃が飛んでくる。
「ったく、弾き飛ばしたお前の剣、拾っておくんだったぜ! 事が済んだら売れるし、王子様の剣なら良い金になったろうに……!」
「……お前ってほんとに……逞しいなあ」
命を狙われて半日、ルークはようやく弱々しい笑みを見せた。
「おれに武器なんて持たせて、大丈夫?」
「──試しにそれを俺に向けてみたらどうだ?」
ウサギのスープを掻き回しながらそういうアッシュは、ルークの方を見てもいない。どうなるのか興味がないわけではなかったが、ルークは苦笑して懐に納めた。
「……まだ、親父の命令だって決まったわけじゃねえだろうが」
全く食欲のない様子のルークに心が痛み、アッシュはそんな意味のない慰めの言葉をかけてみる。
「うん……。そう、だよな」
ルークは疲れたような顔をして笑んで見せたが、返って痛々しさだけが募り、気の利いたことの言えない自分に思わず舌打ちが漏れた。
「お礼、遅れたけど。さっきはありがとな」
「いや……お前の命を守るのは、結局のところ俺のためだ。礼を言われる筋合いはない」
「うん。でも……ありがと」
「……」
目前で赤々と踊る火を眺め、ルークの髪に似ていると思い、果たして本当に恩賞のためだけに助けたのかという疑問が過った。確かに、塩漬けの首と生きたままの捕虜では恩賞の額に差が生じる。それが王族ともなれば雲泥の差になるだろう。──あのときはまだ彼が王族だなんて知らなかったけれども。
「あの、さ。さっきおれを助けてくれた力は……」「超振動……と言われる力だ」
ルークはウサギのスープの入った椀をおざなりに掻き回しながら、きょとんとアッシュを見つめた。そんな表情をすると、ただでさえ幼い少女じみた顔がいっそう幼く見える。
「……神話の……ローレライの子が使うっていう? 物質を音素に分解する力?」
「……ああ」
「ローレライって、ほんとにいるの?」
「さあな。会ったことねえし。……少なくとも、俺の親父はローレライなんて名前じゃない」
じっと手のひらに意識を集中すると、まるで手の内側から発光しているような光が溢れ出す。アッシュがひょいと小石を弾くような仕草をしたとたん、河原の小石が一瞬で音素に変わった。ルークは身体を捻るようにしてその光景を見つめ、ひどく感心した様子でアッシュに視線を戻した。真っ直ぐに自分に向けられたアッシュの小麦色の手をまじまじと見つめる。
「お前、怖くねえの」