「俺の勝ちだ」
 宣言すると、少年は弾かれて飛んで行った剣の行方をちょっと驚いたように目で追い、積み重なる死体の向こうにそれが消えたのを確認して、アッシュに視線を戻した。
「わかった。首だけ持って行くか?」
 特に悔しげな様子もなく軽く肩をすくめて問いかける少年に、アッシュは少し呆れながら剣を納める。
「その軍服、お前結構身分あるだろ。生のまま持って行く。恩賞金が段違いだからな」
「そうなのか。ならダアトまでよろしくな。おれはルーク・イル」
 よろしく、というように明るく笑い、差し出された両手を、アッシュはまじまじと見つめた。
 女の手ほどではないにせよ、同じ男のものとは思えないほどか細い指だと思ったのに、それはいっそ痛々しいほどの剣胼胝で覆われた手のひらだった。

greensleeves

「お前、ちょっと諦めんのが早すぎねえか?」
「え、そうかな? 見極めが早いだけだと思うぜ。正直、おれを負かせるやつがいると思ってなかった。お前、かなり余裕があっただろ? 多分何度やっても同じだろうし、抵抗しても無駄なような気がするし。おれ、ダアトの王族には面割れてないけど、他の捕虜に面通しさせれば一発で身元が分かるくらいの身分なんだ。恩賞金、いっぱい貰えると思うぞ」
「そうか。それは幸運なのか不運なのかわからねえな……」
「おれだと不運なのか? 褒美はいっぱい貰えた方がいいんだろ?」
「それを狙ってくる味方がウゼーっつの」
「あーなるほど! ならダアトに入る前にはまたこれに着替えることにして、一度一般兵の軍服に着替えようか」
「一般兵の軍服なんて持ってんのかよ?」
「そこら辺にいっぱいあるじゃないか」
「はあ……?」
 ルーク・イルと名乗った少年は、すみませんごめんなさいと死んだ自国の兵士に謝りながら、比較的外傷の少ない遺体からはぎ取った服に着替えた。ついでに毛先にいくに従って金色に変わって行くスカーレットという変わった色味の長い髪を器用に編んで身支度を整える。
 それが終わったと見ると、アッシュは手首にぐるぐる縄を巻いて腕を拘束し、牛馬のように首にも縄をかけた。
「……家畜みたいだな?」
「捕虜の運搬はもっと厳重だ。だけど俺からは絶対に逃げられねえから、こんなもんで許してやってんだ」
「お前、かなり強いもんな。一般兵なんて信じられないくらいだ。キムラスカなら、上官に目をかけられてもう少し上の地位まで上がってると思うんだけど」
「その上司に目を『付けられて』るんでね」
 馬を引いて歩くように捕虜を引いて歩き出したアッシュに、ルークはおとなしく付いて歩きながら笑った。
「一文字違いで随分待遇が変わるもんだ」
 冗談かなにかと思ったらしい能天気な捕虜を、アッシュは少し振り返って改めて観察してみた。
 年頃は自分より幾つか下だろうか。色の白い滑らかな頬は日焼けのあともなく、なるほど自分で言うほどの身分の高さを感じさせる。この若さで自分とほぼ互角にやり合えた実力は、それだけ剣術に打ち込む時間のゆとりを感じさせる。つまり、あくせく生活のために働く必要などない身分と言うことだ。
「お前の名前は?」
「アッシュ」
「……」
「……」
「……続きは?」
「は? ねえよそんなもん」
 わざわざ名を聞いてきた割に無反応だと思っていたら、家名を名乗るのを待っていたようだ。「小作人の小せがれにそんなもんあるわけねえ」
 卑屈さの混じった意地の悪い口調で少年を窺うと、彼は驚いたようにぽかんと口を開けていた。「なんだよ、姓がないってそんなに変か。言っとくが一般兵に家名持ちなんていやしねえぞ」
「……そっか。身軽でいいな」
 返ってきた意外な言葉に、アッシュは軽く瞠目した。皮肉でもなんでもなく、それは心底羨ましそうに聞こえたからだ。

【01】


2011.11.05の日記にて開始。全32話。一話一話が短いです。元は映画「アイアントライアングル」と「ラストソルジャー」のパロディとして書き始めたのですが、結局影も形もありません。が、どちらもご覧になっていればなんとなーく面影を感じ取っていただけるかも知れません。