腕におさめた体は汗ばんでいた。
先ほどまであえやかな声を紡いだ口は笑みの形にたわんで。

穏やかな表情をしたまま、ルークは意識を失っていた。
その顔に苦痛の色が無いのにアッシュはほっと息をついた。

頬に指を滑らせるも反応しないルークに苦笑して、額に唇を落とす。再び抱え込んだ小柄な身体は温かくて、なかなか手放す気にはなれそうになかった。

さらにルークを引き寄せ肌を合わせると、二つの肉体は不思議なほどぴたりと添った。

薄い肌を通して伝わるルークの鼓動は心地よく、自分の心臓と同じリズムを刻んでいるのがアッシュには不思議でならなかった。

けれど、足りない。
二人の間の僅かな隙間さえもどかしく感じられ、彼を抱く腕にも自然と力がこもった。
首筋に顔を埋め、目を閉じる。

ルークの匂いは、どこか甘い。
上気した肌から立ち上る彼の香は、声や表情と相まってアッシュを散々あおり、昂ぶらせた。
だが激しい情欲が過ぎ去った今は、不思議と庇護欲をも抱かせる。

「慣れている」と言った彼。
彼の乱れる様を見、彼の匂いをも今のアッシュと同様に知る人間がいる。
流れ始めた思考は止まらず、胸の底が焦げそうだった。

それは行為の間中アッシュの頭の片隅に居座り、何とか無視を決め込み続けた感情だったが、一端火がついてしまうともう抗えなかった。

嫉妬と独占欲に押されるように、白い首筋に吸いつく。
軽く噛んで、首から鎖骨への流れを舌でたどる。
顔に、耳に、髪に、胸に。
幾つも幾つも唇を落とし、抱き締めたルークの背には指を走らせる。
肩胛骨を撫で、背骨を辿って最後は先ほどまでアッシュを受け入れていた温かく柔らかな場所の入り口へと滑らせ。

「んぅ…?」

指先を中へ少し入れ込んだところで、ルークは微かに身じろいだが、それでも起きなかった。
けれどルークの小さな吐息は、アッシュを我に返らせるには充分で。

アッシュは己の衝動に驚愕し、思わず身を強ばらせた。
次の瞬間には自嘲の笑みを浮かべて、滑らかな背を一撫でするとゆっくりと身を起こしルークの身体を地面に横たえた。

幾度も口づけを落とした。
けれど結局、アッシュは彼の白い身体に鬱血の痕を、自分の刻印をただの一つも残さなかった。
それはアッシュなりのけじめでもあった。
ぎりぎりの所で理性が打ち勝った、かなり際どいものではあったが。

眠ったままのルークは何も知らない。
それだけがアッシュにとっての幸いと言えた。
こんな情けない自分など、彼に見せたいとはどうしても思えなかった。

汗に濡れた身体が冷えないよう、ルークにはシャツを羽織らせ、自分は素肌のままでアッシュは背後からルークを抱きすくめた。
前に回した掌で、シャツの上からルークの胸に触れる。

とくん、とくんと。

先程の変わらない彼の鼓動が、彼が生命を刻むリズムが。
途方もなく、愛しかった。

朝まで、せめて朝までは。

彼をこの腕の中に留め、彼の体温を直に感じていたいと切実に思った。
反面、朝など来なければいいなどと埒もない考えが思考の隅に浮かびもし。
自分も随分馬鹿だったのだと思いながら、アッシュは微睡みに身を任せた。


わらび。様からいただきました! こちらもブログ連載のパラレルアシュルクで、お話中では最初で最後になってしまった初夜の直後、ルークが眠ってしまった後のお話です!
このシーンのアッシュ視点を考えていなかったのですが、本当にこういうことがあってもおかしくなかったわけなので、大感動しました! ──布団も被って悶えました……><b
このシーンがあることで、「最高の恩賞」という台詞にも説得力が出たような気がします。
この背景画像は素材屋さんの「ぐらん・ふくや・かふぇ」様の「からめとられる」ってタイトルの素材です。いつか使いたいな〜と思ってたんですけど、このSSにぴったりだと思いました!わらび。様、本当にありがとうございました!!(2011.12.16)